しな)” の例文
あまつさえ、風に取られまいための留紐とめひもを、ぶらりとしなびた頬へ下げた工合ぐあいが、時世ときよなれば、道中、笠もせられず、と断念あきらめた風に見える。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれはさうでなくてもかつてはき/\とくちいたこともなく、殊更ことさら勘次かんじたいしてはしなびたかほ筋肉きんにくさらしがめてるので
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しなびた馬面うまづらに大きな目がでれりとして薄気味悪い男だった。だがおや朝鮮人だなと私は思った。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
葭簀張よしずばりの茶店が一軒、色の黒いしなびた婆さんが一人、真黒な犬を一匹、膝にひきつけていて、じろりと、犬と一所いっしょに私たちをながめましたっけ。……
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よこゑた太鼓たいこ兩手りやうてつた二ほんばち兩方りやうはうから交互かうごつて悠長いうちやうにぶひゞきてた。ばちあはせる一どうこゑしなびてせたのどからにごつたこゑであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鳥打帽とりうちぼうしなびた上へ手拭てぬぐいの頬かむりぐらいでは追着おッつかない、早や十月の声を聞いていたから、護身用の扇子せんすも持たぬ。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火鉢ひばち割合わりあひにはおほきななべほゝさはるばかりにしてふう/\といた。なべのぐず/\とにごつたこゑてゝあひだかれしなびたおほきなかざしながらしかめてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、れい大鞄おほかばんが、のまゝ網棚あみだなにふん反返ぞりがへつて、したしなびた空気枕くうきまくら仰向あふむいたのに、牛乳ぎうにうびんしろくび寄添よりそつて、なんと……、添寝そひねをしようかとするかたちる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
豆腐も駄菓子もつッくるみに売っている、天井につるした蕃椒とうがらしの方が、よりは真赤まっかに目に立つてッた、しなびた店で、ほだ同然のにしんに、山家片鄙へんぴはおきまりの石斑魚いわな煮浸にびたし
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この錠前だと言うのを一見に及ぶと、片隅に立掛けた奴だが、大蝦蟆おおがまの干物とも、河馬かば木乃伊みいらともたとえようのねえ、しなびて突張つっぱって、兀斑はげまだらの、大古物のでっかい革鞄かばんで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
被布からしなびた腕を伸ばして、目八分に、猪口ちょこをあげる指形で
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隣室となりの茶ので、女房の、その、上の姉がしなびた声。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)