狼狽らうばい)” の例文
お住はまづ狼狽らうばいした。孫さへ学校の先生などにそんな大譃を教へられてゐる、——実際お住にはこの位意外な出来事はないのだつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夜間やかんきやくおそはれけない夫婦ふうふは、輕微けいび狼狽らうばいかんじたくらゐおどろかされたが、座敷ざしきげてはなしてると、坂井さかゐ丁寧ていねい先日せんじつれいべたのち
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
口より身体までを両断せしに、狼児らうじ狼狽らうばいしてことごと遁失にげうせ、又或時は幼時かつて講読したりし、十八史略しりやくちゆうの事実、即ち
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
〔譯〕今日の貧賤ひんせん素行そかうする能はずば、乃ち他日の富貴ふうきに、必ず驕泰けうたいならん。今日の富貴ふうき素行そかうする能はずんば、乃ち他日の患難くわんなんに、必ず狼狽らうばいせん。
もなく、K夫人ふじんあひだうすまけて吃驚びつくりした。瞬間しゆんかん自殺じさつかと狼狽らうばいしたほど彼女かのぢよ多量たりやう咯血かくけつなかにのめつてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
僕は毎朝買つて見て居るんです——九州炭山の坑夫間に愈々いよ/\同盟が出来上がらんとして、会社の方で鎮圧策に狼狽らうばいしてると云ふ通信がつてたのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そんなにも永い間、子供部屋へ拘束こうそくされてゐたので、朝食堂や食堂や客間は、そこへ侵入することが私を狼狽らうばいさせるほど、私にとつて恐ろしい場處となつてゐた。
他の部屋に要事があつて入る時も、ノックなしにドアを突然あけるし、鍵のこはれてゐる便所なぞも平気で扉を押し開いて、先に入つてうづくまつてゐるものを狼狽らうばいさせたりする。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
その時になつて狼狽らうばいするといけないから、今のうちから用意に放して置いてやらうかとも思ふ。……大丈夫火事になどはならないとも思ふ。何しろ早く夜が明ければいいとも思ふ。
仲裁に入つた男の睾丸こうぐわん蹴上けあげて気絶さしたとか、云々うんぬんの通信なんだがそれに間違ひはありませんか、一応おたづねする次第です——と云つたやうな話を聞き、ひどく狼狽らうばいした訳です。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
お杉の荷物——行李かうりが一つと、一抱の着物の中から、ひどく血に汚れたあはせが一枚出た時は、見て居る限りの者は色を失ひました。わけても當のお杉の狼狽らうばい振りは目もあてられません。
翌年よくねん一月いちぐわつ親類見舞しんるゐみまひに、夫人ふじん上京じやうきやうする。ついでに、茅屋ばうをく立寄たちよるといふ音信たよりをうけた。ところで、いまさら狼狽らうばいしたのは、そのとき厚意こうい萬分まんぶんいちむくゆるのに手段しゆだんがなかつたためである。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そんぢやまあよかつた。なにしても蒲團ふとんかせたはうがえゝな、ぬくとまりせえすりや段々だん/\よくなつぺから」みなみ亭主ていしゆ數分時すうふんじまへから二人ふたり衷心ちうしんより狼狽らうばいせしめた事件じけん簡單かんたん説明せつめいいたときいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
エルアフイは狼狽らうばいし、タオルを腰に巻きつけながら怒鳴つた。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
狼疾らうしつといひ○狼藉ろうぜき狼戻らうれい狼狽らうばいなど
狼狽らうばい銅羅声どらごゑみだ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
不幸ふかうにも、この心配しんぱいくれ二十日過はつかすぎになつて、突然とつぜん事實じじつになりかけたので、宗助そうすけ豫期よき恐怖きようふいたやうに、いたく狼狽らうばいした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私たちは皆、それを見ては、互に、軽蔑の眼を交してゐました。ふだん精神修養の何のと云ふ癖に、あの狼狽らうばいのしかたはどうだと云ふ、腹があつたのです。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
狼疾らうしつといひ○狼藉ろうぜき狼戻らうれい狼狽らうばいなど
彼は或る狼狽らうばいをもつて
しかし新公は狼狽らうばいしたやうに、妙なまたたきを一つしながら、いきなり又猫へ短銃を向けた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
令嬢に近い芸者が一人ひとり、僕の五六歩前に立ち止まると、いきなり挙手の礼をした。僕はちよつと狼狽らうばいした。が、うしろを振り返つたら、同じ年頃の芸者が一人、やはりちやんと挙手の礼をしてゐた。
都会で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
五位は、狼狽らうばいした。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)