為人ひととなり)” の例文
旧字:爲人
余談にわたるやうであるが、話を運ぶ都合上暫く脇道へそれて、芹沢東洋の為人ひととなりに就いて若干の言葉を費す時間を与へていただきたい。
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
重成の為人ひととなりを知る逸事の一つとなってしまったが、伝右衛門であったというこの方が、それよりも以前に民間では語られていたらしい。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の為人ひととなりを知りて畜生とうとめる貫一も、さすがに艶なりと思ふ心を制し得ざりき。満枝は貝の如き前歯と隣れる金歯とをあらはして片笑かたゑみつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで川村少佐に相談した処、少佐は計介の為人ひととなりを知って居たから、この重大任務遂行の使者として、之を少将に推薦した。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
紋三は三千子の家出の顛末てんまつを聞きただし、山野夫人の方では明智小五郎の為人ひととなりを尋ねたりした。そして結局明智の宿を訪ねることに話が極った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幕府の当途者及び要衝ようしょうに立つ能吏のうりは、彼が一方においては尊攘党の望を負い、他方においては英才賢明なるの為人ひととなりを聞き、彼に思を属したり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
若しも父が並の躯であったなら、父のこういう為人ひととなりはもっと外部にあらわれて、広く暖く家庭を包んだことであったろう。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
、寺の後住ごぢゆうと申やうなるもの、養子にてもなしに引うけ候。文章は無䨇也。為人ひととなりは千蔵よく存ゐ申候。年すでに三十一、すこし流行におくれたを
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
鴎外の為人ひととなりの見どころはその辺にあるのではなかろうか。人はこれを聞いて言うにも及ばぬ平凡事となすであろう。鶴見は自分の言の平凡を嫌わない。
と多少為人ひととなりを知っている高野さんが敬服するくらいだから、矢田家の人達へ好い印象を与えたこと言うまでもない。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一章一節に「ウズの地にヨブとなづくる人あり、その為人ひととなりまったくかつ正しくして神をおそれ悪に遠ざかる」とある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
箱を差したように両人気はしっくり合ってるけれども、その為人ひととなりは大いに違って、島野は、すべて、コスメチック、香水、巻莨シガレット洋杖ステッキ護謨靴ゴムぐつという才子肌。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子孫の繁栄を祝するものけだしこれに優るものあるを知らずと。その為人ひととなりおほむねかくの如し。かつて上野なる日本美術協会の展覧会に出品して褒状ほうじょうを得たり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
良人が石の素朴さを愛するというのはその為人ひととなりである、「尋常ならぬものがある」と信じたのは自分の思いすごしだった。良人は噂どおり平凡な人だったのだ。
石ころ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
死なれたお方が温順で貞淑で、如何にも婦人の鏡とも云うべき為人ひととなりであったから、せめてはそれにアヤかるようにこうするのだと言うたと翁が語られたことがある。
屍体と民俗 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
彼は彼の制作よりもむしろ彼の為人ひととなりうちに詩を輝かす病的、空想的の人物であった。未だ見ぬ太宰よ。ぶしつけ、ごめん下さい。どうやら君は、早合点をしたようだ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いずれも大蛇が婦人に生ませた子で、蛇鱗をそなえいたと伝え、支那隋の高祖も竜の私生児でもあった者か、〈為人ひととなり竜顔にして、額上五柱八項あり、生まれて異あり
この窯が順調に進捗しんちょくすれば陸奥むつの窯藝史に輝かしい一章が加わるであろう。私は同君の為人ひととなりをよく知っている。何を目指して努力の数年を送ってきたかを知っている。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
最初の一瞥で、何とも云えず感じの深い而も充分威に満ちた先生の為人ひととなりを感じた私は、歴史の試験で、年代などを忘れ変な答案を出すと、不思議に心苦しい思いをした。
弟子の心 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ただ上人しょうにんが在世の時自ら愚禿ぐとくと称しこの二字に重きを置かれたという話から、余の知る所を以て推すと、愚禿の二字はく上人の為人ひととなりを表すと共に、真宗の教義を標榜し
愚禿親鸞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
去来忌きょらいきやその為人ひととなり拝みけり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
敵人ながら深く関羽の為人ひととなりで給い、終始恩寵おんちょうをおかけ遊ばされたことは、人もみな知り、関羽自身も忘れてはおりますまい
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の友勝海舟彼を評して曰く、「先生博学多識、文武を兼ぬ、末技小芸といえども、通暁つうぎょうせざるなし。為人ひととなり英邁えいまい不群ふぐん、一見その偉人たるを知る」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
私は、かくも風変りな部屋の主である明智小五郎の為人ひととなりについて、ここで一応説明して置かねばなるまい。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後に養子が罪を得て主家を追われたため、雲濤は家族を引連れ諸処に流寓りゅうぐうしていたという。横山湖山の「詩屏風しびょうぶ」に雲濤の為人ひととなりを記して次の如くに言ってある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この女傑は蔦づるという待合の女将で、先生の為人ひととなりを知り、これを遇すること最も厚い人であった。
肝臓先生 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ただし地方裁判所の検事に朝野なにがしというのが、その為人ひととなりに見る所があって、世話をして、足をとどめさせたということを、かつておしえを受けた学生は皆知っている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のち殉教に臨みこれを訴えし者、その為人ひととなりに感動され、たちまちわれもまたキリスト教徒なりと自白し、伴い行きて刑に就く。途上尊者に向い罪を謝し、共に斬首された。
あるじは彼の為人ひととなりを知りしのち如此かくのごとき人の如何いかにして高利貸などや志せると疑ひしなり、貫一はおのれの履歴をいつはりて、如何なる失望の極身をこれにおとせしかを告げざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それぞれの人の為人ひととなりの高低がそこに語られているばかりでなく、婦人そのものの社会的自覚が
女性の歴史の七十四年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この地味な新入生がそんな卓抜なものを持っていようとは、それは誰にも思いがけなかったことなのでした。友の好ましい為人ひととなりはだんだんに僕達の間に知られてきました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
ちりひとつ止めぬ行届いた掃除、源左衛門はそれにも、孫次郎の為人ひととなりが察せられて、益々頼もしさを感じながら、経机の前に坐り、唱名しながら香をあげたが、ふと仏壇を見上げた時
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
松本さんの手伝いをしながら、社長の為人ひととなりを研究することになっている。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
信長と会ったこともなく、信長の生活も為人ひととなりも知らないくせに、近頃よく信長のうわさをわす堂上の公卿くげたちのうちには
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから暫くの間、彼等は遠藤の為人ひととなりについて、死因について、自殺の方法について、問答を続けました。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もとより女学生時代の由起しげ子はトマサンの往時については空想的にしか知るよしもなく、偶然巴里パリで一夜顔を合わせた程度で、トマサンの為人ひととなりを理解できる筈はない。
氏の『大和本草』に長崎の向井元升むかいげんしょうという医者の為人ひととなりを称し毎度諮問した由記しあれば、蜈蚣鯨の一項は向井氏が西洋人か訳官つうじから聞き得て貝原氏に伝えたのかも知れぬ
この推察は極く皮相にとどまっているかも知れない。為人ひととなりの一面を見たに過ぎぬかも知れない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕はこの遊びが好きで、よく父にせがんだものでしたが。もし父が並の躯であったなら、父のこういう為人ひととなりはもっと外部にあらわれて、広く、暖く、家庭を包んだことでしょう。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
さはへ、こはなさけ掛※かけわなと知れば、又甘んじて受くべきにもあらず、しかのみならで、彼は素より満枝の為人ひととなりにくみて、そのかたちの美きを見ず、その思切おもひせつなるを汲まんともせざるに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ほどなく美人はめて、こは石動の棒端ぼうばななるをさとりぬ。御者はすでにあらず。渠はその名を嫗にたずねて、金さんなるを知りぬ。その為人ひととなりを問えば、方正謹厳、その行ないをただせば学問好き。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内容を読んで見ると、為人ひととなりも自然分って来るという仕組である。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「されば、配所のお住居も、いつか十七年とおなり遊ばし、至っておすこやかに、為人ひととなりもまた尋常でいらっしゃいます」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は道鏡の高い為人ひととなりを見ぬいたので、自分が彼を利用しうるなら、自分が道鏡をかつぐ先鋒せんぽうとなろうと考えていたように私は解する。自分がかつぐに足る人格を見たのかも知れぬ。
安吾史譚:02 道鏡童子 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
三田出身の操觚者そうこしゃ中松本水上の二子最も喜ぶ可し。余の二子を喜ぶ所以は専らその為人ひととなりに在り。三田社中才子多し文を作るに巧なるものを求めなば何ぞ二子のみを俟つに及ばんや。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひげのべったりした口許くちもとわらいは見せたが、御承知の為人ひととなりで、どうともわぬ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の為人ひととなりを説明するのがこの話しの目的ではないから、別に深入りはしないが、例えば上田秋成の「雨月うげつ物語」の内で、どんなものを彼が好んだかということを一言いちげんすれば、彼の人物がよくわかる。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
凌統はことしまだ二十一の若年ながら、父に従って江夏へおもむいた初陣以来、その勇名は赫々かっかくたるものがある。その為人ひととなりを、孫権もで惜しむのであった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信夫恕軒しのぶじょけんの作った枕山の伝は最よくその為人ひととなりを知らしむるものである。その一節に曰く
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
比律賓フィリッピン総督ドミンゴ・ザルバルブル・ルシェベルリはシドチの為人ひととなりを知つていたく敬服の念を懐いたが、その金鉄の宿志をきいて深く憐れみ、一切の費用を負担して一艘の大船を艤装ぎそう