てこ)” の例文
少佐はその壊れ目にステッキを突込んで、てこのようにして、とうとう鎧戸をこじり開けました。次に彼は窓の硝子ガラスを叩き破りました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
てこでも動かぬといった感じで、ボックスでとぐろを巻いているのだ。しかし、十三時間の間、幾子と口を利くのはほんの二言か三言だ。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
僕は町子さんの為めに尾崎君の御機嫌を取ったけれど、一こくな奴だからてこでも動かない。そのまゝ絶交の形になってしまった。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それからもうひとつ……あれのマザアもそうだったが、気むずかしいところがあって、なにか気がさすとてこでもいけなくなる。
復活祭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
光政はしばらく団兵衛を見戍っていたが、てこでも動かぬ決心がよく分ったので、やがて胸のうちに何か頷きながら、急に声を荒げて云った。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日頃はむしろ弱気で好人物の早坂勇ですが、仕事の事となると、俄然性根に筋金が入って、てこでも動かない闘士になるのでした。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これは歌劇「リゴレット」をうたってもよいとおっしゃるまではてこでも動くまいと思って、黙って坐りこんでしまいました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
然し、鉄棒をてこにして押し動かそうとすると、そこの地面が崩れ落ちたり、足がめいり込んだりして、一寸困難だった。
古井戸 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
揚錨絞盤キャプスタンてこを𢌞すのに調子を合せて歌ってしゃがらしたらしい、高い、老いぼれたよぼよぼの声だった。
でも彼は自分とハスレルとを隔てる人々の着物や足の間に、自分の頭をてこのようにつき込んでいた。——彼はあまり小さすぎた。舞台まで行くことができなかった。
キュヴィエーが飼った猩々は椅子を持ち歩いてその上に立ち、思うままに懸け金をはずした。レンゲルはある猴はてこの用を心得て長持ながもちふたを棒でこじあけたというた。
従って犯人は、操縦技術を知ってる男で、犯行後再び機関車からこちらの梯子へ飛び移る前に、素速く発車てこを起し、加速装置アクセンレーターを最高速度に固定したに違いありません。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
その鉄の一片が何用のために作られたものであるかは、暗闇くらやみの中では見きわめ難かった。たぶんそれはてこででもあったろうか、またはおそらく棍棒こんぼうででもあったろうか。
セラピオン師は鶴嘴つるはしてこと、提灯とを用意して来ました。そうして夜なかに、わたしたちは——墓道を進みました。その付近や墓場の勝手を僧院長はよく心得ていました。
またよくある例は、二インチくらいの長さの細い金棒に紐を結びつけたのを使う。犯人が部屋を出る時に、この棒を恰度てこ代りになるような風に鍵の頭の孔に上から刺しておく。
その夜文三は断念おもいきッて叔母に詫言をもうしたが、ヤてこずったの梃ずらないのと言てそれはそれは……まずお政が今朝言ッた厭味に輪を懸け枝を添えて百万陀羅まんだらならべ立てた上句あげく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又旅へ出たという所から自然又旅のお角と綽名あだなを取りました者で、其の子として道連の小平、是も胡麻の灰の頭分かしらぶんで、此奴こいつがどッさりと上げ胡座あぐらを掻くとてこでも動かないという
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが、いよいよ羅針盤コンパスの四隅は銀盃の酒で清められ、支柱がとり外され、巨体が一間ばかりそろそろと辷った、と思うと、どうしたわけか、そこへ釘づけになって、てこでも動かない。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
このおやじがコンナ調子になったらてこでも動かない前例があるから弱ったよ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仮令たとえ江戸えどいく千のおんながいようともうちの太夫たゆうにばかりは、あしさきへもらせることではないと、三年前ねんまえ婚礼早々こんれいそうそう大阪おおさかってときから、はらそこには、てこでもうごかぬつよこころがきまっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕も至極道理とは思ったが差当さしあたり本人同士を引離す工風がない。お代先生を郷里くにへ戻したいにも御本人決して承知する気支きづかいもなし、ことに婚礼の約束まで済んだ上はてこでもあの家を動く事はない。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ここに至って私は後立鹿島槍同山説を主張して、てこでも動かぬ考である。
押掛け嫁のつもりで來たから、部屋の隅にでも泊めてくれ——と、あつしの床の前に坐り込んで——てこでも動かないでせう。
「地震さえ揺らなければ、無論及第する人でございます。思い込んだが最後、てこでも動かない性分ですから仕方ありません」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
成助が分別ありげに云った、「彼らは自分たちで品を動かそうとしております、もし監察使の来ることがわかったらてこでも動かなくなるでしょう」
錨を捲き揚げる絞盤のてこをぐいと𢌞し、次にまた水夫長が歌い、合唱がそれに続くのである。
鳥渡ちょっと狼狽の色を見せた支倉はたちまち元の冷静な態度に帰って、てこでも動かぬと云う風だった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
人のごとく物をげ、物を取り寄せ杖で他を打ち、つちで栗を破り、てこで箱のふたを開き、棒をへし折り、毛箒の柄の螺旋を捻じ入れ捻じ戻し、握手を交え、しょくに点火してその燃ゆるを守り
グールメルは浮浪人らが頬かぶりと呼ぶ一種の曲がったてこを持っていた。
流石さすがの病人に慣れた青眼先生も、これには驚き慌てまして、紅矢の左の手に飛び付いて、一生懸命こじ明けようとしましたが、どうしててこでも動かばこそ、かえってだんだん強く握り締めるために
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
神さまの意思と信じたら、この先生はてこでも動かない。私はもう取りつく島がなかったから、又少時しばらく待った後翌年の正月に土佐へ赴任することに定めた。
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「この臺は思ひの外重いんですがね。宜い鹽梅に側にあつたてこを使つてあげて見ると、中はうつろになつて、この三品をねぢ込んでゐるぢやありませんか」
てこでも動かないからとあぐらをかかれ、始末に困って番頭はひき下った。
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、明方あけがた少し前に、水夫長ボースンが呼子を鳴らして、船員が揚錨絞盤キャプスタンてこき始めた時分には、私はへとへとに疲れていた。その二倍も疲れていたにしても、私は甲板を去りはしなかったろう。
「此方も骨が折れるが御本人も不便だろうと思って、六十の手習いを勧めて見たけれど、てこでも動く人じゃない」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「さう言はず行つて來るが宜い。歸りには鳶頭とびがしらの家へ寄つて、道具を借りて來るんだ。てこつちすきだ」
「そう言わず行って来るがいい。帰りには鳶頭とびがしらの家へ寄って、道具を借りて来るんだ。てこつちすきだ」
「到頭やることにした。てこでも動く奴じゃない」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
追ひ出さうとしたが、お近の方は主人の首根つこにかじり附いて、てこでも動かず、あべこべに、内儀を投り出さうとしてゐたんだといふから達者なものでせう。それから——
八五郎は板の隙間にてこを打ち込み乍ら、この容易ならぬ勞作を手傳はせる相手を物色します。
てこでも動かないと言ひ出し、離屋の窓々に頑丈な格子を打ち付け、四方の戸にぢやうをおろして、鍵は自分の手に持つたのが一つだけ、娘のお君の外には、誰も離屋に寄せつけ無い。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
私は此家ここ心棒しんぼうだから、てこでも動かないと言い出し、離屋はなれの窓々に頑丈がんじょうな格子を打ち付け、四方の戸にじょうをおろして、鍵は自分の手に持ったのが一つだけ、娘のお君のほかには
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この二人の武家はウンと言うまで、てこでも動きそうもないのを見て取ったのです。
この二人の武家はウンと言ふ迄、てこでも動きさうもないのを見て取つたのです。
一々お前にさからって済まねえが、——今朝っから気色きしょくの悪いことが続くんだよ、家主おおや親仁おやじがやって来て、立退く約束で家賃を棒引にした店子たなこが、此方の足元を見て、てこでも動かねえから
素より久六も見殺しにする意志はなかつたのですが、柱に獅噛みついててこでも離れず、その間に火が廻つて唯一の逃げ路を失ひさうになつたので、これは火の中に見捨てる外はなかつたのです。
加賀の白山から出て來た伍助といふ男で、熊のだか鼻糞はなくそだか、變なものを賣り歩いて、四つ目の八軒長屋の奧に住んで居りますが、近所から文句が出ても、ニヤリニヤリ笑つててこでも動かねえ。
てこでコヅキ落さなきや、首尾よく下へ落ちてくれなかつたに違ひない。
入口にねばつて、女房のお靜を手古摺てこずらせてゐる中年男があつたのです。その調子は慇懃いんぎん朴訥ぼくとつでさへありましたが、押しが強くてわけがわからなくて、てこでも動かない執拗しつあうなところがあつたのです。
それに續くのは多見治、その手にはてこくわが用意されて居ります。