)” の例文
それで、彼が白髪しらが山と呼んでいる、玢岩のれて怪しく光る鑓ガ岳——その裏尾根を乗り越えて、さらに硫黄沢の源頭へと降り込む。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
男は自分ひとりのような顔をしていて、裏にうらのある、そんな稼業かぎょうのものの真唯中まっただなかに飛んだ恥をらすようなことがあってはならぬ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
文筆を執ることを職業として、しじゅう名前を活字で世間へらしているかの女は、よくいろいろな男女から面会請求の手紙を受取る。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
悉皆しっかい焼印の御かめのごとく作り得たならばますます神の全能を表明し得るもので、同時に今日こんにちのごとく勝手次第な顔を天日てんぴらさして
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰か旧魚河岸うおがしの方の側で手鏡を日光にらしてそれで反射された光束を対岸のビルディングに向けて一人で嬉しがっているものと思われた。
異質触媒作用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
汽車や電車に乗ると、胸毛むなげらし太股ふとももを現すをもって英雄の肌を現すものと心得て、かえってそれを得意とするものがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
時々は馬鹿にした小鳥が白い糞をしかける。いたずらなくもめが糸でくびをしめる。時々は家の主が汗臭い帽子を裏返しにかぶせて日にらす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その上古人は少くとも創世記に目をらしていた。今人は少数の専門家を除き、ダアウインの著書も読まぬ癖に、恬然てんぜんとその説を信じている。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私の門前には先ず見るも汚らしく雨にらされた獄吏の屋敷の板塀が長くつづいて、それから例の恐しい土手はいつも狭い往来中おうらいじゅう日蔭ひかげにして
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
廃嫡された鳥小屋があり、その前に遊園地の番人の家が、切張だらけの時代食じだいばんだ障子を、新時代の光に——初夏の日に——骨をらして立っていた。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白いすじと赤い肉とが無気味なしまとなってそこにらされた。仁右衛門は皮を棒のように巻いて藁繩でしばり上げた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして僕の方でも窓を開けておいて、誰かの眼にいつも僕自身をらしているのがまたとても楽しいんです。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
狭くむさ苦しく、殆ど身を入れるにも堪へない程だつたが、外の吹きらしがあまりに寒かつたし、中には打附けの腰掛けがあつて、休むにもよかつたのだ。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
覚めて桶の中に坐りて背を日向ひなたらし、夕さりくれば又其桶の中にしとねもなく安寝やすいし、瞑想幽思めいさういうし、ひとり孤境の閑寂を楽んで何の求むる所なく、烟霞えんかをこそ喰はね
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひたすら事業に拘泥こうでいするばかりに侮辱に耐え、迫害にも身をらして来たが、最近の諸種の事件のさ中にまき込まれ、いったい何が何であるか見当もつかなくなり
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
朝日はかくて濡縁ぬれえんの端に及び、たちまちのうちにその全面に射し込んで来て、幾年の風雨にらされて朽ちかかった縁板も、やがて人膚ひとはだぐらいのぬくみを帯びるようになる。
そんな状態で、私は敵の前に我と我身の危険をらしているので、朝夕の背広には実に弱る。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「おい、今あけるッたら、荒っぽくされちゃあ、れた戸に、ひびがはいってしまわあな!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
己の耻をらすばかりじゃアない、主人や親までの恥になる、困ったなア……あゝいことがある、この橋の欄干に帯を縛ってぶら下れば、船で通る者ばかりしか見られない
破れカブレの封切序ふうきりじゅんに。並べ上げたる不思議の数々。眼にも止まらず耳にも聞こえぬ。科学文化の地獄の正体。底のドン底のドンドコドンまで。タタキ破ってらげて拡ろげて。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして結局はどこにもそンな場所が見当らない。どの畦道あぜみちも崩れ、河土堤かわどてのどの辺も、ちかづいてみればとげとげしく肌をき出し、らッ風にらされている、といった工合だった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
その一つは小さな動物の骸骨でも見るように白くれていたことを思い出した。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さながら野晒のざらし肋骨あばらぼねを組合わせたように、れ古びた、正面の閉した格子を透いて、向う峰の明神の森は小さな堂の屋根を包んで、街道を中に、石段は高いが、あたかも、ついそこに掛けた
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
塗料の剥げた船体を軍港の片隅にらしていたのは何が故でしょうか。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
望児山ばうじさん吹きらす風のかざさきは仰向きにへその寒き砂湯や
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真相をらし、虚飾を剥がれずには置かれぬだろう。
ラスキンの言葉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
紫霞門しかもんの風雨にれた圓柱まるばしらには
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
ひるさがり、れし河原かはら
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
雨にれてしらめる岩の
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
髑髏どくろを「されかうべ」と言う。この「され」は「れ」かもしれないが、ペルシア語の sar は頭である。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
寝巻姿ではあるが、長脇差しを引っ下げ、抜け上がっている額を月光にらし、左門の方を睨んでいた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かさこそと雑木の葉が、ばさりとほうの木の広葉が、……朴の木の葉は雪のように白くらされていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
煌々こうこうたる科学の光明下にらけ出し、読者の頭をグワ——ンと一撃……ホームランにまで戞飛かっとばさせている……という筋書なんだがドウダイ……読者に受けるか受けないか……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
都会の始終刺戟しげきらされている下町の女の中には、時々ああいう女の性格がある。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
中には赤裸あかはだかの彼がある。見物人は、太陽と雀と虫と樹と草と花と家ばかりである。時々は褌の洗濯もする。而してそれをかえでの枝にらして置く。五分間で火熨斗ひのしをした様に奇麗に乾く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土を破って地上にらされた根株は、大風雨の日に倒されたときのままに置かれてあるのであろう。その根元近くから幹の分れの大枝が出て、これも本幹に添うて斜に腕を押し伸べている。
蘇満国境春冴えかへり砂山の低山ひくやま斑雪はだれまた吹きれぬ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
行燈に透かすと夜露にれて白けていた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見るとその丘の頂きに三本の樫の木が立っていて、二丈あまりの高い所に風雨にらされた木小屋が一ついかにも厳重に造られてあって、丈夫な縄梯子が掛かっていた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
満洲里マンチユリイ風車ふうしや片破かたやれ吹きるる残雪ざんせつの丘にかんぞきびしき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
危険にらされている恋人のことが心に閃めき、頼母は、逃げた乾児どもを追おうともせず、身を翻えすと一気に、紙帳へ駆け寄り、左門の立っている位置とは反対の、紙帳の裏側に立ち
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たまのあたまはらされて爪に掻かれて日に光る。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
(進んで危険にらされよう! 生死の巷へ出て行こう!)
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庭の土風にひびだつ冬のれ鼠小走りただち隱れぬ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
稲荷いなり山に近く、篠井しののいにも近い、吹きっらしの堤である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庭の土風にひびだつ冬のれ鼠小走りただち隠れぬ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)