揶揄からか)” の例文
課長は今日俺の顏を見るとから笑つて居て、何かの話の序にアノ事——三四日前に共立病院の看護婦に催眠術をけた事を揶揄からかつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
手拭てぬげかぶつてこつちいてる姐樣あねさまことせててえもんだな」ふさがつたかげから瞽女ごぜ一人ひとり揶揄からかつていつたものがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
而して球江の揶揄からかうに連れて、猛然と其胸を目がけて躍りかゝつた。繋いである鎖がぴんと緊張する程に、勢ひ込んで跳ね狂つた。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
眉山の家は本郷ほんごう春木町はるきちょうの下宿屋であった。学校から帰ると、素裸すっぱだかになって井戸の水を汲込くみこみつつ大きな声で女中を揶揄からかっていた。
当時ろくを揶揄からかうものは枳園のみでなく、豊芥子ほうかいしも訪ねて来るごとにこれに戯れた。しかしろくは間もなく渋江氏の世話で人に嫁した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お島はくすぐったいような、いらいらしい気持を紛らせようとして、そこを離れて、子供を揶揄からかったり、あによめ高声たかごえで話したりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
などと揶揄からかったりしていたが、やがて、その人々のぐちも、裏垣根の門から駈け込んで来た一人の男のことばに、冗談口をふさがれて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供らはラザルスを怖がりもしなければ、また往々にして憐れな人たちに仕向けるような悪いたずらをして揶揄からかいもしなかった。
同僚などからほとんど毎日の如く冷笑される、何時いつ結婚式を挙げるなど揶揄からかはれる其度そのたびに、私は穴にも入りたい様に感じまするので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「それはお母ちゃんの方が好きね?」とその母にまでそう揶揄からかうようにいわれると、私は急に怒ったようにはげしく首を横にふるのだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
弥吉は、揶揄からかうつもりでういう児太郎であるか、それとも本気でいうのか、確めようと眼をさしのぞいたまま、急には返事をしなかった。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
クリストフはあっけにとられて、コーンから揶揄からかわれてるのではないかと疑った。しかしコーンは揶揄ってるのではなかった。
こゝまで引つ張つて來てから、ふとこの二人を揶揄からかふやうな運命の手が思ひがけない幸福をすとんと二人の頭上に落してきた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
揶揄からかい声をかけますけれども、二人の姿は、つゆ乱れるところもなく同じリズムを霙の中に、しくりかえし、とくりかえしして行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「君はカフェ・ドラゴンの女給がだいぶん、気に入ったようだったネ」帆村は、人の悪そうなわらいをうかべて、私を揶揄からかった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、彼女の微笑んでる眼付を見て取った時、あべこべに向うから揶揄からかわれてることを感じた。彼は率直に云い出した。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
可笑しいのか「ホ、ホ」と笑み「塔の時計の合って居るのが不思議ですか」と余を揶揄からかう様に云った、其の笑顔の美しさ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
冗談を云っているのでもなければ、揶揄からかっているのでもなければ、じらしているのでもなかった。彼女も、今夜は別人のように真面目であった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は實に冗談が上手で、叔母や從姉妹たちを揶揄からかつて苛めては面白がつてゐた。でも、凡て向う見ずな若者同樣、異性の間ではみんなに好かれた。
漆戸と二人して散々揶揄からかってやったんだけど、あの人、漆戸のいう通り、本当に気の小さな人ね。お兄様、何も心配することは要らないと思うわ。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
龍然は不思議に酒に強く、凡太に比較して殆んど酔を表はさなかつたが、時たま思ひ出したやうに、ひどく器用に居酒屋の女中を揶揄からかつたりした。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「そして重い罪障を消滅する為めに、難行苦行をしなくてはならないわけですかね」と、ソロドフニコフは揶揄からかつた。
なんて揶揄からかってみたいところだろうけれども、相手が兵馬だから、そんな軽薄な口を叩くわけにはゆかないのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おれは何ものからも見棄てられたではないか、親友の青沼さえ、おれの身のほどを誤って、揶揄からかったではないか。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
田舎者だから揶揄からかわれているのかしら。当惑しながら、黙っている勇吉の丸い顔がサイの目に浮ぶようである。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私が今聴いたばかりのあの言葉が、風と共に人を嘲けるように響いてきた。キッティは私がそれから急に黙ってしまったのを見て、しきりに揶揄からかっていた。
お前さん、揶揄からかうのも、いい加減にしてもらいたいもんだよ。せめて、三伝がこの私だと云っておくれよ。知ってのとおり、あれまで上海シャンハイにいたんだからね。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「お婆さんが悪いのではない、働いても働いても貧乏なのは、そりゃお婆さんが悪いのではないんだ……」私は揶揄からかわれるとも知らず泣きたいのを凝と堪えて
雨の回想 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
モダーニズム風俗は云わば揶揄からかわれる対象としてしか世間の眼に写らない、それが世間普通の常識だ。
思想と風俗 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
よく、こう云うて夫人は揶揄からかうのだった。切角、茶の間へ呼びつけて意見をしている時でも、このニコニコ顔を見ていると、ものを云う張り合いを失くしてしまう。
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
おもむろに質問すべき事こそあれと、あらかじめその願意を通じ置きしに、看守は莞然にこにこ笑いながら、細君さいくんを離したら、困るであろう悲しいだろうと、またしても揶揄からかうなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
学士はカナリア鳥をちよいと見て、ニノチユカの少し濃い明色めいしよくの髪を撫でて、かう云つて揶揄からかつた。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
「あゝこれは遂々とう/\そんなところまで引張つて来たのだ!」さう考へながら道助は故意わざ揶揄からかふ様に
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
一寸揶揄からかってやろうと思って来たんだけど、先約があっちゃねエ……ごゆっくり——さよなら——
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「チエツ。徳兵衛だなんて本当に困りますよ」まゆを寄せながら、甘えるやうな高い声で云ふのである。「先生がそんな仇名あだなをつけたんで、皆が揶揄からかつて仕様がないんです」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
猩々は剃刀を持つたまゝ、少し逃げては立ち留まつて、振り返つて見て、水夫を揶揄からかふやうにして、追ひ付きさうになると、又逃げた。こんな風で余程長い間追つて行つた。
*1 オポデリドック パーウェルをもじって故意わざとこんな滑稽な名前で揶揄からかったのである。
此奴こいつ、解剖学の標本室で見た死刑囚の白い面型その儘だ、さうだあの面型には眉の毛が二三本赤つちやけてくつついて居たつけな——ここまで揶揄からかつて来て俺ははつと思つた
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
津田は揶揄からかい半分手をげて真事の背中を打とうとした。真事はばつの悪い真相を曝露ばくろされた大人おとなに近い表情をした。けれども大人のように言訳がましい事はまるで云わなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可哀がって揶揄からかう、笑談に声を立てる、喜んで叫ぶ、それが交る交るだから、わたしは
何だか揶揄からかわれているような気持だった。それに反して、津村は少し勢を得て来た。
などゝ、お開きの時に、よく友達に揶揄からかわれると、彼は開き直って両手をつき
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
或時かう云ふ事があつた。ステパンは鉱物の標本を集めて持つてゐた。それを一人の同窓生が見て揶揄からかつた。するとステパンが怒つて、今少しでその同窓生を窓から外へ投げ出す所であつた。
未納 どうして、揶揄からかうの、そんなに。真面目に話さないの、どうしても。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
しかしそれだから君は僕を早くから疑う習慣をつけたのだと彼は揶揄からかった。
機械 (新字新仮名) / 横光利一(著)
兄弟中では稍々やや常識に富んだ穩やかな彼れは、決して烈しい口は利かないが、小間癪こましやくれた妹の言語態度が女學生めいてゐるのが氣に觸つて、揶揄からかふか冷かすかしなければ蟲が收まらなかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
今迄麦飯に味噌ばかりめて居た者が、京へ来て急に御馳走が当るやうになつたからだなどと、よく伯父達に揶揄からかはれたが、気持も、それにつれて大分大人染みて来かゝつてゐたやうだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
充分じうぶんかしこさうでも、強さうでもあるのですが、何の因果いんぐわか生れ付きの臆病者で、——『腰拔けのくせに勇吉とはこれ如何に?』——などと、のべつに朋輩ほうばい衆から揶揄からかはれて居る厄介者だつたのです。
俺が久しく君の処に御無沙汰してゐるのは君が想像するやうに、君の揶揄からかひに憤慨しての事ぢやない。たしかに俺は「坊つちやん」だが、巨人の坊つちやんだ。だからあんな事など気にしてはゐない。
栄一が怒るであらうと思つて揶揄からかつたにあまり答への軽いので