大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれどもジルノルマン嬢は、年取った悧巧な女だったので、老人の命に従うように見せかけながら、最上の布は皆しまっておいた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
厳密にいえば、科学的な方法で、その本態を捕えようという試みは、不可能ではないが、悧巧な方法ではない。その点だけは確かである。
茶碗の曲線:――茶道精進の或る友人に―― (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「風は止まないし、あの高波では仕方がないでしょう。先頃、蜀軍が捨てて行ったあの空陣屋へ入って夜明けを待ったほうが悧巧じゃありませんか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悧巧な兄は父方の祖母のほめ者だったが、母方の祖母は自分をつかまえて、おまえは兄さんよりもきっと偉くなるよ、と無責任なことをいって可愛がってくれた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記―― (新字新仮名) / 金子ふみ子(著)
もし私がもっと悧巧だったらそんなに用心深くはしなかったんでしょうが、私はあなたにこの事実を知られたくないと云う恐れで半分気がどうかしていたんですわ。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近代の個人的作品の欠点は、彼らの悧巧さから来るのである。それをこそむしろ未熟なる智慧とも呼び得よう。いつも知識はその無知に亡び、技巧は拙策に終るではないか。
仲々君も、近頃は悧巧になったね。だが、もしも君の言う通り、そんなに早く機関車の方の血が少くなって来たのだとしたなら、この調子では、もう間もなく血の雫は終ってしまうよ。
ピストルの使い方:――(前題――楊弓) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいつよりこいつの方が少しは悧巧であろうという、その多少の標準でさえ、ファルスは決して読者に示そうとはしないものだ。尤も、あいつは馬鹿であるなぞとファルスは決して言いはしないが。
特殊部落の成立沿革を略叙してその解放に及ぶ (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「人間はずるく悧巧にならないでは生きていられないのですものね。誠だの、正直だの、熱情だのなんて、そんなものは今時の人はみんな捨てちまわなくっちゃならないんですものね。——おお、だけど寒いわね。」
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死―― (新字新仮名) / 長与善郎(著)
「あの釜吉だって怪しいよ、——馬鹿だか悧巧だか判ったものじゃない。土蔵が破られた事を、一番先にお前に話したのはあの男だろう」
銭形平次捕物控:041 三千両異変 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
高は余り悧巧な男ではなかったが、その代り正直で、素直で、その上珍らしいほどの働きものだった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記―― (新字新仮名) / 金子ふみ子(著)