ごころ)” の例文
二人ふたりは、はゝ父母ふぼで、同家ひとついへ二階住居にかいずまひで、むつまじくくらしたが、民也たみやのものごころおぼえてのちはゝさきだつて、前後ぜんごしてくなられた……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人中にまれておくごころはほとんど除かれている彼に、この衷心から頭をもたげて来た新しい慾望は、更に積極へと彼に拍車をかけた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
茂吉の「わがからだ机に押しつくるごとくにしてみだれごころをしづめつつり」「いきづまるばかりにいかりしわがこころしづまり行けと部屋をとざしつ」
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
この鉄道は乗客の待遇に最も注意を払っているというのをもって知られていたので、三等室でも決して乗りごころは悪くない。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ある日私はまあうちだけでも探してみようかというそぞろごころから、散歩がてらに本郷台ほんごうだいを西へ下りて小石川こいしかわの坂を真直まっすぐ伝通院でんずういんの方へ上がりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして一体、道誉自体のごころは誰がこれの目付めつけとなって高時へ教えてやるのかと、師直とすれば、ここで一言いってやりたいところだったに相違ない。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩成先生もさすがにあわごころになって少し駆け出したが、幸い取付とりつきの農家はすぐ間近まぢかだったから、トットットッと走り着いて、農家の常の土間へ飛び込むと
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それほど、他国たこくひとのだれか、らないとおくにからきたひとだという、一しゅあこがごころをそそったのでした。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
村の若い娘とちぎり、かえって娘の情に引かされて、大武岬だいぶみさきの鼻というのから身投げをして、心中を遂げてしまったということから、どうもその子孫の狐がねたごころが強くて
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山はさけ海はあせなむ世なりとも君にふたごころわがあらめやも 源實朝
愛国百人一首評釈 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
うながくるけたるみ、ふくろごころ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
後醍醐にも、子のごころは、おわかりにならぬらしい。それだけでなく、帝には、当面の政務も山ほどある。いや理想の天皇親政が始めらるべき第一歩のいまなのだ。
うまし、かるたくわいいそわかむねは、駒下駄こまげた撒水まきみづすべる。こひうたおもふにつけ、夕暮ゆふぐれ線路せんろさへ丸木橋まるきばし心地こゝちやすらむ。まつらす電車でんしやかぜに、春着はるぎそで引合ひきあはごころ風情ふぜいなり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひたぶるごころ——には
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ると心配しんぱいむねたきちるやうで、——おび引緊ひきしめてをつとの……といふごころで、昨夜ゆうべあかしたみだれがみを、黄楊つげ鬢櫛びんぐしげながら、その大勝だいかつのうちはもとより、あわただしく
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)