広小路ひろこうじ)” の例文
旧字:廣小路
両国の宿屋は船の着いた河岸かしからごちゃごちゃとした広小路ひろこうじを通り抜けたところにあって、十一屋とした看板からして堅気風かたぎふうな家だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこから広小路ひろこうじへ出るところに、十三屋という櫛屋くしやがあって、往来ばたに櫛の絵を画いた、低くて四角な行灯あんどんが出してありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
昨日の晩花川戸はなかわど寄席よせ娘浄瑠璃むすめじょうるりあげられる。それから今朝になって広小路ひろこうじ芸者屋げいしゃやで女髪結かみゆいが三人まで御用になりました。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の名は万吉、としは二十七、「に組」の火消しだったという。喧嘩けんかが好きで、暇なときは両国広小路ひろこうじあたりをねじろに「喧嘩を拾って」あるいた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
上野を抜けて広小路ひろこうじへ参り、万円山まんえんざん広徳寺に来て奧州屋新助のお墓へ香花を手向けて、お寺には縁類の者であると云って附届つけとゞけを致し、出て来ますると
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
上野広小路ひろこうじ黒門町のうなぎや大和田おおわだは、祖母に金のことで助けられていたので、その日も私たち子供に、最大公式の鹵簿ろぼを拝観させようと心配してくれた。
「よく上野うえの広小路ひろこうじへ参ります様ですが。今晩はどこへ出ましたか、どうも手前には分り兼ねますんで。ヘイ」
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上野うえののデパートメントストアの前を通ったら広小路ひろこうじ側の舗道に幕を張り回して、中に人形が動いていた。周囲に往来の人だかりのするのを巡査が制していた。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その翌日のことであったが、ニヤリニヤリと笑いながら、西両国の広小路ひろこうじを、人をつけて行く人物があった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
車で駆け通ったんですから前もあともよくはわからないんですけれども、大時計のかどの所を広小路ひろこうじに出ようとしたら、そのかどにたいへんな人だかりですの。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ですから私は雨の脚を俥の幌にはじきながら、燈火の多い広小路ひろこうじの往来を飛ぶように走って行く間も、あの相乗俥あいのりぐるまの中に乗っていた、もう一人の人物を想像して
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蛍雪舎は上野広小路ひろこうじに近い上野町の路地の奥にあった。行って見るとそこは新聞取次とりつぎ業をしているところで、「白旗しらはた新聞店」という看板がかかげられていた。
「そりゃ、火事だ、火事だ」というので、出て見ますと、火光は三軒町に当っている。通りからいえば広小路ひろこうじの区域が門跡寄りに移るきわ目貫めぬきな点から西に当る。
……浅草で、お前の、最も親密な、最も馴染のふかいところはどこだときかれれば、広小路ひろこうじの近所とこたえる外はない。なぜならそこはわたしの生れ在所だからである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
広小路ひろこうじの方まで行って寿司屋すしやだのおでん屋などに飛び込み、一時半か二時にもなってヒョックリ帰園きえんいたしますこともございますので、その日も多分いつものでんだろうと
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の自動車で上野の広小路ひろこうじまで往って、そこから電車へ乗るつもりで降りたがまた例の病気が起って、夜店の古本がのぞきたくなったので、切通きりどおしへ寄った方の人道じんどうへと往った。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
行く手も後方もピカピカと、雲をつんざく稲妻に囲まれて到頭進退きわまって、御徒町おかちまちで電車を降りて、広小路ひろこうじの映画館へ飛び込んだら、途端にバリバリズシーン! と、一発落下した。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこは、御成街道おなりかいどう広小路ひろこうじにかわろうとするかどであった。一方に、湯島天神ゆしまてんじんの裏門へ登る坂みちが延びていた。そこのところに、つじ待ちの駕籠屋かごやが、戸板をめぐらして、股火またびをしていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
或日彼はその青年の一人に誘われて、いけはたを散歩した帰りに、広小路ひろこうじから切通きりどおしへ抜ける道を曲った。彼らが新らしく建てられた見番けんばんの前へ来た時、健三はふと思い出したように青年の顔を見た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
午後八時を過ぎる頃、わたしは雨をいて根岸ねぎし方面から麹町へ帰った。普通はいけはたから本郷台へ昇ってゆくのであるが、今夜の車夫は上野うえの広小路ひろこうじから電車線路をまっすぐに神田にむかって走った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は広小路ひろこうじでわかれて麹町へ帰った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
両国りょうごく広小路ひろこうじに沿うて石を敷いた小路には小間物屋袋物屋ふくろものや煎餅屋せんべいやなど種々しゅじゅなる小売店こうりみせの賑う有様、まさしく屋根のない勧工場かんこうばの廊下と見られる。
馬車は東京万世橋まんせいばし広小路ひろこうじまで行って、馬丁が柳並み木のかげのところに馬をめたが、それがあの大都会の幼いものの目に映る最初の時であった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一週間も田舎いなかへ行っていたあとで、夜の上野うえの駅へ着いて広小路ひろこうじへ出た瞬間に、「東京は明るい」と思うのであるが、次の瞬間にはもうその明るさを忘れてしまう。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから広小路ひろこうじで、煙草と桃とを買ってうちへ帰った。歯の痛みは、それでも前とほとんど変りがない。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自動車は何事もなかったかの様に、大胆にも明るい電車通りを、広小路ひろこうじの方角へ走り去った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両国広小路ひろこうじあたりの裏とか、河岸の水茶屋のあいだなどに、川人足や折助おりすけたち相手の荒っぽい居酒屋があるのだが、慣れない者にはわかりにくく、栄二もそれらの店の前を気づかずに通りすぎ
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二人は広小路ひろこうじへ出ると、電車通を横切って、むこう側の歩道を駒形の方へ曲って往った。岩本も十間ばかりの距離を置いてそのあとからいて往った。灰白色かいはくしょくもやが女の姿を折おり包んで見えた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
花屋敷はなやしきが出来て、いろいろの動物が来たり、菊人形が呼び物になったのは、ずっと後のことです。一廻りしますと仲見世へ出ます。仁王門におうもんから広小路ひろこうじまで、小さな店がぎっしりと並んでいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それから雷門に向って左の方は広小路ひろこうじです。その広小路の区域が狭隘きょうあいになった辺から田原町たわらまちになる。それを出ると本願寺の東門ひがしもんがある。まず雷門を中心にした浅草の区域はざっとこういう風であった。
床「なんですえ、広小路ひろこうじの方へくのなら右へおでなさい」
広小路ひろこうじ田原町たわらまちへ出て蛇骨じゃこつ長屋。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
広小路ひろこうじへ曲ると、夜店が出揃でそろって人通りもしげくなったので、二人はそのまま話をやめて雷門かみなりもんまで来た。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こんな倉庫と物揚げ場との多いごちゃごちゃした界隈かいわいではあるが、旧両国広小路ひろこうじ辺へもそう遠くなく、割合に閑静で、しかも町の響きも聞こえて来るような土地柄は
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
広小路ひろこうじの松坂屋へはいって見ると歳末日曜の人出で言葉通り身動きの出来ない混雑である。
猫の穴掘り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「エエ有難う。丁度いい所で逢いましたわ、私少し伺いたいことがありますのよ。お差支さしつかえなかったら、この次は広小路ひろこうじでしょうか。今度止ったら私と一緒に降りて下さいません?」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はじぶんの物たりなさをたしてくれる物は、上野の広小路ひろこうじあたりにあるような気がした。彼はすぐ広小路まで帰ろうと思った。そう思うとともに、彼の頭の一方に雨の日の上野駅の印象が浮んだ。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それとは心づかない君江は広小路ひろこうじの四辻まで歩いて早稲田わせだ行の電車に乗り、江戸川ばたで乗換え、更にまた飯田橋いいだばしで乗換えようとした時は既に赤電車の出た後であった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そういう人たちがよく半蔵を誘いに来て、広小路ひろこうじにかかっている松本松玉まつもとしょうぎょくの講釈でもききに行こうと言われると、帰りには酒のある家へ一緒に付き合わないわけにいかない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は右を見、左を見して、新規にかかった石造りの目鏡橋めがねばしを渡った。筋違見附すじかいみつけももうない。その辺は広小路ひろこうじに変わって、柳原やなぎわらの土手につづく青々とした柳の色が往時を語り顔に彼の目に映った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日東京の表通は銀座より日本橋通にほんばしどおりは勿論上野の広小路ひろこうじ浅草の駒形通こまがたどおり
家は馬道うまみち辺で二階を人に貸して家賃の足しにしていた。おかみさんはまだ婆さんというほどではなく、案外垢抜あかぬけのした小柄の女で、上野広小路ひろこうじにあった映画館の案内人をしているとの事であった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
の星を数えながらやがて広小路ひろこうじの電車に乗った。