はば)” の例文
針といっても、長さ一間、はば一尺もある鋼鉄製のつるぎだ。その楔型くさびがたの鋭くなった一端が、彼の頸の肉にジリジリと喰い入っているのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女は、私の注文を聞くと、一揖いちゆうしてくるッと背後うしろを向き、来た時と同じように四つ足半の足はばで、ドアーの奥に消えて行った。
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
第一に孤蝶子——馬場氏が日記の中ではばをきかしている——先生の熱心と、友愛の情には、女史も心を動かされた事があったのであろう。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わざと伝法に「むかしがなつかしいの何のと、そんな年齢でもないじゃあねえか。娘っこのくせに、はばったい口をきくもんじゃあねえよ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
線にしてもまた長さのみありてはばなしというは、幾何学上の理想たるにとどまり、実際目に見ゆるものであれば、必ず計り得るものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
串談じようだんはぬきにして結城さん貴君に隠くしたとて仕方がないからまをしますが町内で少しははばもあつた蒲団やの源七といふ人
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なかでどれが一ばんきれいかとっしゃるか……さあ草花くさばなせいなかでは矢張やはきくせいが一ばん品位ひんがよく、一ばんはばをきかしているようでございました……。
れから江戸市中の剣術家は幕府に召出めしだされてはばかせて、剣術おお流行の世の中になると、その風は八方に伝染して坊主までも体度たいどを改めて来た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
はば広い、牛の啼声なきごえのような汽笛が、水のように濃くこめた霧の中を一時間も二時間もなった。——然しそれでも、うまく帰って来れない川崎船があった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
その中で一番はばをきかしていたのは、千日紅せんにちこう葉鶏頭はげいとう等の、純粋な、そして野生に近い日本草花だった。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
靴下留はばインチ半以内のもの一つ、眼鏡——眼科医の診断書ならびに領事館の翻訳証明を要す——一個。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
それにもう一つ、マリヤンの住んでいるコロール(南洋群島の文化の中心地だ)の町では、島民らの間にあっても、文明的な美の標準がはばをきかせているからである。
二十けんはばぐらいの往来でも、片がわが焼けて来て、ほのおが風のようにびゅうと、ひくく地上をはったと見ると、向うがわはもうまっにもえ上るというすさまじさだったそうです。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
名主どのをたぶらかすだけにしては、すこしはばがありすぎる。……こりゃア、なにか曰くがあるぜ。お布施なんていうケチなことで、お小夜さんとやらをそうまでいじめつけるわけはない。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
チンバがやって来ると、おかしがって、家の中をはねとんでいたすゞが、門の外からワンを呼ぶ中津のはばのある押しつけるような声に、耳の根まで真紅に染め、どこかへ逃げかくれだした。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「どうした兼が居なくちや仕事がはばツたかんべ」
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
全身をぐるぐる捲きに縛られた上に、顔全体を隠す様な、はばの広い布の目隠しをされ、猿轡さるぐつわさえはめられている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
芝浦ははばの広い肩をけわしく動かした。水夫、火夫、学生が二人をとめた。船長室の窓がすごい音を立ててこわれた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あれが頭の子でなくばと鳶人足とびにんそくが女房の蔭口かげぐちに聞えぬ、心一ぱいに我がままをとほして身に合はぬはばをも広げしが、表町おもてまちに田中屋の正太郎しようたらうとて歳は我れに三つ劣れど
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不図ふとがついてると、下方したながるる渓流たにがわ上手かみては十けんあまりの懸崕けんがいになってり、そこにはばさが二三けんぐらいのおおきな瀑布たきが、ゴーッとばかりすさまじいおとてて
その家は一間はば位の中庭があったので、天窓ひきまどからのような光線が上から投げかけられ、そこにうわった植木だけが青々と光っていて、かえって店の中の方が薄っ暗かった。
その一本の曲がり木が、磯五には、はばの広い板のように見えて、若松屋惣七のすがたが隠れてしまうような気がした。その向こうに、蒼い若松屋惣七の顔がほほえんでいた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
透きとおらんばかりの淡い色をした・あゆに似た細長い魚や、濃緑色のリーフ魚や、ひらめの如きはばの広い黒いやつや、淡水産のエンジェル・フィッシュそっくりの派手な小魚や
六郎氏が軒蛇腹(それははばが非常に細いのです)から足を踏みはずして転落したとしますと、余程運がよくて
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手拭と菓子籠の間へ、ヒラヒラと、はば一、二厘の、たけばかりの赤や青のピラピラのさがった楽屋簪がくやかんざしを十本ばかりはさんだのを、桟敷の中へ押入れるようにしていた。
はばひろ石段いしだん丹塗にぬり楼門ろうもんむらがるはとむれ、それからあのおおきなこぶだらけの銀杏いちょう老木ろうぼく……チラとこちらからのぞいた光景ありさまは、むかしとさしたる相違そういもないように見受みうけられました。
その前の往来にだけ、白い布を敷いたように、はばのひろい光線が倒れていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
赤い太鼓腹をはば広く浮かばしている汽船や、積荷最中らしく海の中から片袖かたそでをグイと引張られてでもいるように、思いッ切り片側に傾いているのや、黄色い、太い煙突、大きな鈴のようなヴイ
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
夜でも急用があるといえば、はばの広い木綿じまの前掛けをかけて、提灯ちょうちんをさげて、朴歯ほうばをならして、つつましやかに通ってきた。袋物商の娘だったので、袋ものをキチンとつくった。
併し、一度背面に廻ったら、別のビルディングと背中合わせで、おたがいに殺風景な、コンクリート丸出しの、窓のある断崖が、たった二けんはば程の通路を挟んで、向き合っています。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私達ははばの広いベッドを置いた、壁紙にしみのある様な、いやに陰気な部屋に通された。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おあさちゃんの体の方が借りものになって、着物や簪の方がはばをきかせていた。
まさしの両親とも日本橋生れで、なくなった母親は山王様の氏子うじこ此家こちらは神田の明神様の氏子、どっちにしても御祭礼おまつりにははばのきく氏子だというと、魚河岸から両国のきわまでは山王様の氏子だったのが
はばの広い階子段はしごだんをあがって二階へ通った。