差当さしあた)” の例文
旧字:差當
しかしその頃には差当さしあたり生活には困らない理由があったので、玉突たまつきつりなどに退屈な日を送るかたわら、小説をもかいて見た事があったが
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
約束の会は明日あしただし、すきなものは晩に食べさせる、と従姉いとこが言った。差当さしあたり何の用もない。何年にも幾日いくかにも、こんな暢気のんきな事は覚えぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でもまず差当さしあたり牛込と浅草とを目差して先ず牛込へ行き夫々それ/″\探りを入て置てすぐまた車で浅草へ引返しました、何うも汗水垢あせみずくに成て働きましたぜ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
恨みのある奴といえば差当さしあたりヤンセンだから、警視庁へいってきくと、十日ばかり前に脱獄したが、国事犯人だし秘密に捜索中だと云う事だった。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まず差当さしあたりの仕事は、鬼仏洞の見取図を出して秘密の部屋割を暗記することだった。彼女はその見取図を、スカートの裏のポケットに忍ばせていた。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを差当さしあたり、我我が皆ロマンテイケルとかナトウラリストとかになる必要があるかと云ふ、通俗な意味に解釈すれば、勿論そんな必要はありません。
ソレよりもマダ今の幕府の方がしだ。けれども如何どうしたって幕府は早晩そうばん倒さなければならぬ、ただ差当さしあたり倒す人間がないから仕方なしに見て居るのだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
便利のためにこれを使用語 Language in use としよう、後日不便があればこれを改めてもよいが、今は差当さしあたり便利上英仏語にすると決し
差当さしあたりこの病を医すべき適切なる薬餌やくじを得、なお引続き滞岳たいがくして加養せんことを懇請こんせいしたれども、かれざりしかば、再挙の保証として大に冀望きぼうする所あり
これが自分の南方諸島において、更に綿密なる方言調査の、進行せんことを希望する差当さしあたりの理由である。
差当さしあたって別にどうも面白い話もないが、医者は此様こんきたな身装みなりをして居てはいけません、医者はなりと云うて、玄関が立派で、身装がよくって立派に見えるよう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこで例の原稿を筐底きょうていから取出して見てもらうと、差当さしあたりそれを出そうということになったが、逸早いちはやくもこうした美本となって世に出るようになったことにいては
「古琉球」改版に際して (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
しかも戦乱の時代に連歌師の役目は繁忙を極めている。差当さしあたっては明日にも、恐らく斎藤妙椿みょうちんのところへであろう、主命で美濃みのへ立たなければならぬと云うではないか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
ある女世に比無たぐひなにしきを所持いたし候処さふらふところ、夏の熱きさかりとて、差当さしあたり用無く思ひ候不覚より、人の望むままに貸与へ候後は、いかに申せども返さず、其内に秋過ぎ、冬来ふゆきたり候て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「追ってはどうなるか知れないでしょうけれども、差当さしあたり困るような事はないんですって」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「無論、十分の論功行賞ろんこうこうしょうをしなければならぬ。差当さしあたってわたしの名で感謝の意を表しておいて下さい。そういう通報をしておいて下さい。ところで、今夜の君の話はそれだけかね」
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
フランス人はその名の示すようにこの料理を伊太利イタリアミラノのコトレツと考え、ドイツ人は墺太利オーストリア首府しゅふウィーンの料理と考えているらしい。差当さしあたってこの両都市で本家争ほんけあらそいおこすべきである。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕も至極道理とは思ったが差当さしあたり本人同士を引離す工風がない。お代先生を郷里くにへ戻したいにも御本人決して承知する気支きづかいもなし、ことに婚礼の約束まで済んだ上はてこでもあの家を動く事はない。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
差当さしあたんなことを云って、冬子をなだめるより他は無かった。冬子も何時いつまでおこっても居られないので、解けぬ疑惑うたがいを懐いたままで、やがて我家へ帰る事となった。が、途中が何となく不安である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いどの水が悪いのが差当さしあたつての苦痛であつた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
差当さしあたり何をやらかしゃ宜いんで、旦那」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まあ、差当さしあたりそんなに饒舌しゃべらんでもい。
一同、成程と思案に暮れたが、此の裏穴を捜出す事は、大雪の今、差当さしあたり、非常に困難なばかりか寧ろ出来ない相談である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも戦乱の時代に連歌師の役目は繁忙を極めてゐる。差当さしあたつては明日にも、恐らく斎藤妙椿みょうちんのところへであらう、主命で美濃みのへ立たなければならぬと云ふではないか。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
それよりも差当さしあたっての必要は、ミミラクまたはミーラクがもしもあの世とこの世との境の島であったならば、それがどういう経路を通って、夙く今日の簡単なる根の国型に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かういふ国民的罪悪の害毒は、何によつて緩和くわんわされるか、それは差当さしあたり発見出来ない。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
本屋じゃ幾干いくらに買うか知れないけれど、差当さしあたり、その物理書というのを求めなさる、ね、それだけ此処ここにあればわけだ、と先ず言ったわけだ。先方さき買直かいねがぎりぎりのところなら買戻かいもどすとする。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その父親が死んだ折には差当さしあたり頼りのない母親は橋場の御新造の世話で今の煎餅屋せんべいやを出したような関係もあり
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると甚内の申しますには、あの男の力に及ぶ事なら、二十年以前の恩返しに、北条屋の危急を救ってやりたい、差当さしあた入用いりよう金子きんすの高は、どのくらいだと尋ねるのでございます。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
差当さしあたっては坊主だ。俺は東福で育って管領に成り損ねて相国に逆戻りした男だ。五山の仏法はよい加減きの来るほど眺めて来た。そこで俺の見たものは何か。驚くべき頽廃たいはい堕落だ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
そこで差当さしあたって自分が分担している方面、即ち物の名の附け方と小児の生活、それから歌というものがどういう風にして口ずさまれるかなどの問題を、雑然としてお話して見ようかと思います。
差当さしあたり、出家の物語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想もべられなかったので、言われた事、話されただけを、不残のこらず鵜呑うのみにして、天窓あたまから詰込つめこんで、胸がふくれるまでになったから
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其後そのご父親が死んだをりには差当さしあたり頼りのない母親は橋場はしば御新造ごしんぞの世話で今の煎餅屋せんべいやを出したやうな関係もあり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
差当さしあたつては坊主だ。俺は東福で育つて管領に成り損ねて相国に逆戻りした男だ。五山の仏法はよい加減きの来るほど眺めて来た。そこで俺の見たものは何か。驚くべき頽廃たいはい堕落だ。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
これを平板にまたは尻揚しりあがりに、あるいは一つ置きにアクセントを取替えて、許されるなら晩までも、際限もなく唱えておろうとするのを見ると、この語には詩歌俳諧と同じく、差当さしあたっての目途はなく
今はとても動かせないです。まず差当さしあたりは出来る限り、腹を
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先ず差当さしあたり言うことはこれであった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)