小股こまた)” の例文
「何しろ、色は少し淺黒いが、眼が凉しくて、口元に可愛らしいところがあつて、小股こまたが切れ上がつて、物言ひがハキハキして——」
手甲てっこう甲掛けの花売娘であったり、どんどろ大師のお弓であったりしたが、お篠お婆さんに似て小股こまたのきりりとした優形やさがたであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
白足袋のつまはずれも、きりりと小股こまたの締った風采とりなり、このあたりにはついぞ見掛けぬ、路地に柳の緑を投げて、水を打ったる下町風。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おめえもおれも、詰りはこういう生れつきなんだ、それでいいとしようじゃあないか、他人の小股こまたすくおうとめっぱりっこであくせくするより
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は瀬戸のパイプをふかしながら、小股こまたでやって来た。お心よしで多少ぼんやりしてるこの男は、生涯しょうがいかつて大して気をもんだことがなかった。
これらの女はみな男よりも小股こまたで早足に歩む、そのしおれたまっすぐな体躯からだを薄い小さなショールで飾ってその平たい胸の上でこれをピンで留めている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
ヘラヘラ笑いながら小股こまたをすくい、時々あくどい金儲けをする。こういう奴がいるために、浮世がだんだんきたなくなる。……おッ来るな、さア参れ!
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いつになく若々しく装った服装までが、皮肉な反語のように小股こまたの切れあがったやせがたなその肉を痛ましくしいたげた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
奥坐舗の長手の火鉢ひばちかたわらに年配四十恰好がっこう年増としま、些し痩肉やせぎすで色が浅黒いが、小股こまた切上きりあがッた、垢抜あかぬけのした、何処ともでんぼうはだの、すがれてもまだ見所のある花。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かれがそこに、威容いようをつくって、立ったと思うと、秀吉は、今まで腰かけていた床几をうしろへ残して、ただひとり、ととと、と小股こまたきざみに、駈け寄って来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出しているかも知れません。小股こまたの切れあがった、垢ぬけのした女で、生まれは堅気かたぎじゃありませんね
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
にんじんは、皿をひっくり返さないように、できるだけ水平に持って、小股こまたで使いに出かける。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
小股こまたの切れ上がった美人がひとりと数百両の現金、これ以上に金めのものもちょっとあるまい。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
豆小僧は、一生懸命、ちよこ/\と走りますが、何しろ、小股こまたで走るので、はかどりません。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
碌さんは小さな体躯からだをすぼめて、小股こまたあとからいて行く。尾いて行きながら、圭さんの足跡の大きいのに感心している。感心しながら歩行いて行くと、だんだんおくれてしまう。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち今度は皆で押しかけないでパリサイ派とヘロデ党の中から数名の論客を選抜し、イエスの言葉尻をとらえてわなにかけようとする、小股こまたすくいの悪辣あくらつな戦法に出たのであります。
おあさは小股こまたの切り上った、おしりの小さい、横骨の引込ひっこんだ上等物で愛くるしいことは、赤児あかごも馴染むようですが、腹の中は良くない女でございますけれど、器量のよいのに人が迷います。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは署長のニコジーム・フォミッチその人だった。ルイザ・イヴァーノヴナはあわてて床につくほど低く会釈し、小股こまたにちょこちょこと飛び上がるようにしながら、事務所から駆け出して行った。
あはれみ給へ、收穫時とりいれどき病人びやうにんのやうに、小股こまたにて出て來る目付を。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
小股こまたの切れ上った女が、小風呂敷を抱えて店前みせさきに立って
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赤うふくれた小股こまたを出して、頭みだして、踵を見せて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「お前と一緒に來て、路地の外に立停つた駒下駄の音はありや何んだえ。近頃流行つてゐる下駄の、それも小股こまたの切上つた輕い音だが」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
中の姉のおたみ——(これは仲之町を圧して売れた、)——小股こまたの切れた、色白なのが居て、二人で、囃子はやしを揃えて
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供は祖父に手を引かれて、小股こまたに足を早めながら並んで歩いた。彼らはいつも、快い強い匂いのする耕作地を横ぎって、小道を通っていった。蟋蟀こおろぎが鳴いていた。
このひとが、真ん中の姉とみえる。二十三、四でもあろうか。小股こまたのきれあがった美しい女である。そういえば、一番うえの洗い髪も、年下の娘も、揃いも揃って、容貌きりょうよしだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豆小僧が小股こまたで走つたところが、さう/\早くは逃げられません。たちまち悪魔に追ひつかれて、もはや、二三歩で、そのえりがみをつかまれるといふ、あぶない場合にせまりました。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
云ったが、この島ではそんなことはない、人の小股こまたをすくったり、人をだしぬいたりぺてんにかけたりすることもない、そんなことをしてもなんの得にもならないからだ、そうでしょう
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鼻は摘みッ鼻で、髪の毛のつやくて、小股こまた切上きれあがって居る上等物です。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と先に立ち、幕明き前のざわつく廊下を小股こまたにせかせか歩きながら、棧敷さじきの五つ目へ案内し、たらたらお世辞を言って、銀子の肩掛けをはずしたり、コオトを脱がせたり、行火あんかの加減を見たりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とき」のはしごのあがりおり、小股こまたきざおとなひは
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
緋縮緬ひぢりめんの腰巻が一つ、そのすそが風にあおられるのを小股こまたに挟んで、両手で乳を隠すと、丈なす黒髪が、襟から肩へサッとなびきます。
あのあしの運びは、小股こまたがきれて、意気に見える。斑蝥は、また飛びしさった。白鷺が道の中を。……
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小股こまたの切れあがった美人で、それが片膝立ちに構えると、下の肌着と肉躰の一部がちらちらし、そのため博奕を打つ手許てもとが狂うというのであるが、あさ子の場合は成功しなかったばかりか
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どの坊主の目もみな巧雲の乳だの小股こまたのあたりを愉楽ゆらく想像しているらしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「時」のはしごのあがりおり、小股こまたきざおとなひは
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「二十二三でせうね、嫁の口をあきらめ切つたやうな年増ですよ。——でも小意氣な小股こまたの切上がつた、ちよいとめないことはありませんが」
小股こまたのしまった、うりざね顔で、鼻筋の通った、目のおおきい、無口で、それで、ものいいのきっぱりした、少し言葉尻の上る、声に歯ぎれのけんのある、しかし、気の優しい
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小股こまたの切れあがった美人で、それが片膝立ちに構えると、下の肌着はだぎ肉躰にくたいの一部がちらちらし、そのため博奕を打つ手許てもとが狂うというのであるが、あさ子の場合は成功しなかったばかりか
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その人に寄り添ってくる道づれは、小股こまたの切れ上がった江戸前の女で、赤縞あかじまの入った唐桟とうざんの襟付きに、チラリと赤い帯揚をのぞかせ、やはりはにかましげな目を、草の花にそらしながら歩いていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こいつは親分だって驚くでしょう、それもザラの雌じゃねえ——若くて綺麗で、身扮みなりがよくて、小股こまたが切れ上がって——」
私等わっちらはたけのよ、勝山さんのお夏さんを何だと思ってるんだ、何と見損いやあがったい、いけ巫山戯ふざけた真似をしやあがって、何だ小股こまたがしまってりゃ附合がむずかしい? べらぼうめ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「——冗談じゃあない、なるほどおれは身を持崩している、酒を飲み賭博とばくをやる、四方八方借りだらけだ、けれども人のうしろから小股こまたをすくうような、卑劣なまねは決してしたことはないぜ」
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの鈴形すずなりに澄んだ目も、きりッとつぼんだ口元も、板木師はんぎしが一本一本毛彫けぼりにかけたような髪のえぎわも、ふるいつきたいえりあしの魅力も、小股こまたのきれ上がった肉づきも、おれの手にかかれば翌朝は
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころお秀は二十六の年増盛り、啖呵たんかがきれて、小股こまたが締つて、白粉が嫌ひで、茶碗酒が好きで、兩國きつての評判者。
にんげんはるくて不人情で、おらあ小股こまたをすくわれたり陥し穴へつきおとされたり、ひでえめにあいどおしだった、——さすがのおれもごうが煮えて、やけっぱちになって、そうして、……ええくそ
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小股こまた歩行あるくほどのあわいいて、しと、しと、しと。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのころお秀は二十六の年増盛り、啖呵たんかがきれて、小股こまたが締って、白粉おしろいが嫌いで、茶碗酒が好きで、両国きっての評判者。
「二十二三でしょうね、嫁の口をあきらめ切ったような年増ですよ。——でも小意気な小股こまたの切れ上がった、ちょいと踏めないことはありませんが」
あの色白でポチヤポチヤして、小股こまたの切上がつた娘——その癖妙に冷たいところのある娘が、大量の人殺しなどをくはだてようとは八五郎にはどうしても信じられなかつたのです。
「親分、良い新造しんざうが來たでせう。かう小股こまたのきれ上がつた、色白で、ポチヤポチヤした」