奉行ぶぎょう)” の例文
その頃、この江戸には夜な夜な不可解なる辻斬つじぎりが現れて、まるで奉行ぶぎょう与力よりきもないもののように大それた殺人をくりかえしてゆく。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なるほどね。こうなりゃ腹の減るのも見捨てたものじゃねえや。じゃ、寺社奉行ぶぎょうさまのほうへも渡りをつけてから行くんですね」
長安ながやす奉行ぶぎょう床几席しょうぎせき大股おおまたにあるいていって、あたりの家臣かしんひたいをあつめ、また徳川家の者がひかえているたまりへ使いを走らせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかすると、奉行ぶぎょうその人ですら下役から監視されることをまぬかれなかった。それを押しひろげたような広大な天地が江戸だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
河本家は四百石の大寄合よりあいであるが、宗兵衛は三年まえから町奉行ぶぎょうを勤めている。としは直衛と同じ三十二歳、妻のほかに二人の子があった。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奉行ぶぎょうの前に引き出された吉助きちすけは、素直に切支丹宗門きりしたんしゅうもんを奉ずるものだと白状した。それから彼と奉行との間には、こう云う問答が交換された。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
奉行ぶぎょうをなさざる奉行あり。すでにかくのごとし。いずくんぞひとり十六の元老、八歳の征夷大将軍せいいたいしょうぐんあるをこれ怪しまんや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かつて、山神のやしろ奉行ぶぎょうした時、うしとき参詣まいりを谷へ蹴込けこんだり、とった、大権威の摂理太夫は、これから発狂した。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旦那え/\おめえさんは噂にゃア聞いて居りやしたが、きついお方ですねえ、滅法な力だ、わっちも旧悪のある國藏で、お奉行ぶぎょうがどんな御理解を仰しゃろうと
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いにしえの王政時代の奉行ぶぎょうと十八世紀の末十年間の革命市庁とが、一八〇六年以前に存在していた五里の下水道を穿うがつに至ったのも、辛うじてのことだった。
よってその関係かんけい大概たいがいしるして序文にう。明治二十四年十月十六日、木村旧軍艦奉行ぶぎょうの従僕福沢諭吉 しるす
高田の藩中数十軒のまきは、皆この山中より伐出す。およ奉行ぶぎょうより木挽こびきそまやからに至るまで、相誓ひて山小屋に居る間、如何いかなる怪事ありても人に語ること無し。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これはもとより能登守一人の催しではないけれども、最初に言い出した人であるのと、地位の関係から、ほとんど能登守が全部の奉行ぶぎょうを引受けたような形勢であります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さわればぽろぽろとはげて落ちそうな粉飾に綺羅きらを尽くし、交代に順番に応じて、奉行ぶぎょうから差遣の同心に駆られ、ひき立てられて、丸山から出島へと練って行くのであった。
その間に心敬・一条兼良・太田道灌ら相ついで世を去り、宗祇は連歌界の第一人者となって、長享二年(六十八歳)花の本の宗匠を允許いんきょされ、北野神社連歌会所の奉行ぶぎょうとなった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ず残存している教会堂を毀つとともに、大久保忠隣ただちか奉行ぶぎょうとして近畿に送り、所司代しょしだい板倉勝重かつしげと協力して、切支丹の嫌疑のある者を残らず捕縛さし、それを一人一人こもに巻いて
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奉行ぶぎょう様は、やっぱりえらいな。お父さんのお祭り野郎を見抜いて、こらしめのため、こんな真赤なお祭りの太鼓をかつがせて、改心させようと思っていらっしゃるのに違いない。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
享保きょうほう十五年、この時の御修復検分としましては、お作事奉行さくじぶぎょう小菅因幡守こすげいなばのかみ、お大工頭だいくがしら近藤郷左衛門こんどうきょうざえもん大棟梁だいとうりょう平内ひらうち郎右衛門ろうえもん、寛保三年、同四年、奉行ぶぎょう曾我日向守そがひゅうがのかみ、お畳奉行たたみぶぎょう別所播磨守べっしょはりまのかみ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
名は役頭やくがしらまたは奉行ぶぎょうなどと称すれども、下役したやくなる下士かしのために籠絡ろうらくせらるる者多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
次いで坂下さかのした、関、亀山三箇所の奉行ぶぎょうにせられた。寛政(永)十四年の冬、島原の乱に西国の諸侯が江戸から急いで帰る時、細川越中守綱利えっちゅうのかみつなとしと黒田右衛門佐光之うえもんのすけみつゆきとが同日に江戸を立った。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すると、長崎奉行ぶぎょうの役人が来て、いきなり、武士に縄を打ち、引きたてて行った。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
武家には奉行ぶぎょう衆のおやど八十ヶ所が一片のけむりと焼けのぼりました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
すなわち、南北両奉行ぶぎょう所配下の与力同心たちがそれぞれ手下の小者どもを引き具して、万一の場合のご警固を申しあげるという順序でした。
当時、長島藩では治水工事に関して面倒な事件が起こり、普請ふしん、材木、勘定の三奉行ぶぎょうと重職とのあいだに、三年越しの吟味が行われていた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「聞きずてにならぬ暴言ぼうげんようがあればこそ幕内まくうちへとおる。それは奉行ぶぎょう役権やっけんじゃ。役儀やくぎけんをもってとおるになんのふしぎがあろう。どけどけ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荷物はそれぞれ問屋預けということになったが、人馬継立ての見分けんぶんとして奉行ぶぎょうまで出張して来るほど街道はごたごたした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一、外国公使奉行ぶぎょうならびに諸侯鎮台等の御役人関東御辞職といえども諸侯の長にて候えばその職一人は旗本はたもとの士より選用に定めその余は下院中より選挙。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これと同じ品が嘉永六年、ペルリ来朝の時、武具奉行ぶぎょうの細倉謙左衛門に贈られたことがある。
庄兵衛はお奉行ぶぎょう様の判断を、そのまま自分の判断にしようと思ったのである。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
上流の流行語でいわゆる「奉行ぶぎょう」らも、一八一四年以来それを顧みなかった。
武家には奉行ぶぎょう衆のおやど八十ヶ所が一片のけむりと焼けのぼりました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「ああ、知ってるよ。長崎のお奉行ぶぎょうから預かり中の科人とがにんだとかいってたっけが、そいつがくたばってでもしまったのかい」
形は小太刀に似て作りは十手と同じこの獲物えものを持つものは、無論、八丁堀の捕役とりてか、奉行ぶぎょう手先の捕方とりかたに限ったもので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西の領地よりする参覲交代さんきんこうたいの大小の諸大名、日光への例幣使れいへいし、大坂の奉行ぶぎょう御加番衆おかばんしゅうなどはここを通行した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弥次馬は崩れたが、逃げられないのは警護に出向いていた奉行ぶぎょう捕手とりて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
奉行ぶぎょうさまがすぐにあなたを呼んでまいれとおっしゃいましたのでね、駆けだそうとしたら、門のところに敬だんなのお手下がおいでなさって
(蒲殿も、九郎殿も、何分大将としてはお若いので、そちがよく奉行ぶぎょうせよと、特に鎌倉殿から仰せつけられて参った)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるところでは、藩の用人や奉行ぶぎょうなどの出迎いを受け、あるところでは、本陣や問屋などの出迎いを受けて。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
奉行ぶぎょうさまがだいぶそなたをお待ちかねの様子じゃったが、お越しがなかったから敬四郎どのにご命令が下りましたぞ。
あなたには奉行ぶぎょう検視けんしの役人などが、床几しょうぎをすえて、いそがしくはたらく下人げにんたちのようすをながめ、ときどき、なにか下役したやくへ注意をあたえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その談判にあたる外国奉行ぶぎょうは勇気のある人でなければつとまりません。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「な、な、なんですかえ。牢頭ろうがしらの重ね畳はお城も同然なんだ。お奉行ぶぎょうさまがちゃんとお許しなんですよ。降りろとは、ここを降りろとはなんでござんす!」
奉行ぶぎょう以下、足軽までの者は、磯からかなりへだたった所に、樹から樹へ、幕をめぐらし、りをひそめていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兵庫奉行ぶぎょうはどうしたろう。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
七日まえにまず増上寺へ正式のお使者が立って、お参詣さんけいお成りのお達しがある。翌日、城内御用べやに南北両町奉行ぶぎょうを呼び招いて、沿道ご警衛の打ち合わせがある。
岩間角兵衛などの奉行ぶぎょうや、また、警備の藩士たちがそこへ上陸するに及んで、すぐ発見され、きびしく不心得をさとされて、船島から隣り島の——彦島の勅使待てしまちへと
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直接、奉行ぶぎょうに出馬のお許しを願ったとみえて、ゆうぜんと構えている名人右門をしり目にかけながら、手下の小者を引き具して、これ見よがしにもう駆けだしました。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
役所へ曳いて参るまでは、至って神妙でござりましたが、取調べにかかると、頑として、姓名も生国しょうごくもいわず、ただ当所の奉行ぶぎょう森殿に会えば申そう。怪しい者ではない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうその日も目前に迫ってまいりましたから、今でいえば当日の沿道ご警戒に対する打ち合わせ会とでも申すべきものでしょう、ご奉行ぶぎょう職からお招き状がありましたので
この切支丹屋敷きりしたんやしきは宗門方の自治で、町奉行ぶぎょうの支配でもなければ寺社奉行の権限でもありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)