土佐とさ)” の例文
なにしろ土佐とさの国と越後えちごの国ではとても再会のできないのは知れていますからね。それに法然聖人ほうねんしょうにんは八十に近い御老体ですもの。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
土佐とさのあるさびしい浜べの村で一晩泊まった偶然の機会に思いがけない見物をしただけで、それ以後にはついぞ二度とは見たことがなかった。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こはあたかも土佐とさ狩野かのうの古画と西洋油画とを区別して論ずるにひとし。余は新旧両様の芸術のためにその境界を区別するの必要を感じてまず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
右のアサマリンドウは、伊勢いせ〔三重県〕の朝熊山あさまやまにあるから名づけたものだが、また土佐とさ〔高知県〕の横倉山よこぐらやまにも産する。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
慶応けいおう三年九月であったが、土佐とさ山内容堂やまのうちようどう侯は、薩長二藩が連合し討幕の計略をしたと聞き、これは一大事と胸を痛めた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
讃岐さぬき阿波あわ土佐とさ伊予いよと、県にすれば香川、徳島、高知、愛媛えひめの順になります。これらの国々は昔は南海道なんかいどうと呼ばれた地方の一部をなします。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
土佐とさが第一、ひろい面積にわたって陥没している。土佐という国は、以前は今とは随分ずいぶん違っていたらしい。瀬戸内海を利用する時代はおくれて始まった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よほどの騒動ということで、仏国軍艦デュソレッキ号の乗組員が土佐とさの家中のものに襲われたとの報知しらせである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここは土佐とさの国浦戸うらどの城中。大館の広庭では、領主長曾我部元親ちょうそかべもとちかをはじめ家臣のならぶ前で、いましも二人の武士が試合を始めようとしているところであった。
だんまり伝九 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
渡舟わたし待ちの前から、こう話しかけてきた中年増ちゅうどしまがある。身装みなりは地味、世帯やつれの影もあるが、腰をかがめた時下げた髪に、珊瑚さんごの五分だまが目につくほどないい土佐とさだった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中浜万次郎なかはままんじろうは、ジョン=マンともいい、土佐とさ高知県こうちけん)のりょうしでした。
まずいちばんさきに淡路島あわじしまをおこしらえになり、それから伊予いよ讃岐さぬき阿波あわ土佐とさとつづいた四国の島と、そのつぎには隠岐おきの島、それから、そのじぶん筑紫つくしといった今の九州と、壱岐いき対島つしま
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その顏ごとに名があります。伊豫いよの國をエひめといい、讚岐さぬきの國をイヒヨリひこといい、阿波あわの國をオホケツ姫といい、土佐とさの國をタケヨリワケといいます。次に隱岐おき三子みつごの島をお生みなさいました。
右は伊予いよの話であるが、土佐とさ阿波あわはことに犬神の迷信が強い。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
土佐とさ御流罪ごるざいの時などは、七条から鳥羽とばまでお輿こしの通るお道筋には、老若男女ろうにゃくなんにょかきをつくって皆泣いてお見送りいたしたほどでございました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
三月三日に井伊大老いいたいろうの殺された報知が電信も汽車もない昔に、五日目にはもう土佐とさ高知こうちに届いたという事実がある。今なら電報ですぐ伝わる。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その間には微妙な関係に立つ尾州があり土佐とさがあり越前えちぜんがあり芸州がある、こんな中でやかましい兵庫開港と長州処分とが問題に上ろうとしている、とある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ゆえに土佐とさ〔高知県〕では、これをタキユリというのだが、同国では断崖だんがいをタキと称するからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
是をなまって大和やまとではコバシ、土佐とさではトガシともっている。東京附近のコウセンは、香煎こうせんとの混同だと思っている人も多いが、或いはまたコガシの転じたものかも知れぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これは全く格別の趣きである。これは即ち南宗なんしゅう北宗ほくしゅうより土佐とさ住吉すみよし四条しじょう円山まるやまの諸派にも顧みられずわずかに下品極まる町絵師が版下絵はんしたえの材料にしかなり得なかった特種とくしゅの景色である。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やはり岱水で「二階はしごのうすき裏板」の次に「手細工に雑箸ぞうばしふときかんなくず」があり、しばらく後に「引き割りし土佐とさ材木のかたおもい」
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
幹部の目を盗んで民家を掠奪りゃくだつした一人の土佐とさの浪人のあることが発見され、この落合宿からそう遠くない三五沢まで仲間同志で追跡して、とうとうその男を天誅てんちゅうに処した
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これと同じ物語はすでに中世の書物にも、土佐とさ妹背島いもせじまの由来として著録せられている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これをヤマトタチバナと改称すると提議したのは、土佐とさ〔高知県〕出身で当時柑橘界かんきつかいの第一人者であった田村利親としちか氏であったが、その後、私はさらにそれを日本にっぽんタチバナの名に改訂かいていした。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
試みに今土佐とさ狩野かの円山等まるやまとう各派の制作と浮世絵とを比較するに、浮世絵肉筆画は東洋固有の審美的趣味よりしてその筆力及び墨色ぼくしょくの気品に関しては決して最高の地位を占むるものにはあらざるべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土佐とさ咽喉のどを切って自殺する事を「フロヲハネル」と言うが、この「フロ」が偶然出て来たのはずいぶん人を笑わせる。
薩摩さつま知覧ちらんで稲扱きをカナクダ、土佐とさの中村へんでこれをカナバシと謂ったというのも、或いはこういう種類の改良品ではなかったろうか。何にしてもそう古くからの名称ではなさそうである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし八沢やさわの長坂の路傍みちばたにあたるところで口論の末から土佐とさ家中かちゅうの一人を殺害し、その仲裁にはいった一人の親指を切り落とし、この街道で刃傷にんじょうの手本を示したのも小池こいけ伊勢いせの家中であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
試みに今土佐とさ狩野円山まるやま等各派の制作と浮世絵とを比較するに、浮世絵肉筆画は東洋固有の審美的趣味よりしてその筆力及び墨色ぼくしょくの気品に関しては決して最高の地位を占むるものにはあらざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
S軒のB教授の部屋へやの入り口の内側の柱に土佐とさ特産の尾長鶏おながどりの着色写真をあしらった柱暦のようなものが掛けてあった。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういうわたしは、相州そうしゅう鎌倉かまくらにも小田原にも、上総かずさ富津ふっつにも時を送ったことがあり、西は四日市よっかいち神戸こうべ須磨すま明石あかしから土佐とさの高知まで行って見て、まんざら海を知らないでもありませんでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土佐とさ高知こうち播磨屋橋はりまやばしのそばを高架電車で通りながら下のほうをのぞくと街路が上下二層にできていて堀川ほりかわ泥水どろみずが遠い底のほうに黒く光って見えた。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとえば狩野かのう派・土佐とさ派・四条しじょう派をそれぞれこの三角の三つの頂点に近い所に配置して見ることもできはしないか。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしとにかくこんな西洋くさい遊戯が明治二十年代の土佐とさ田舎いなかの子供の間に行なわれていたということは郷土文化史的にも多少の意味があるかもしれない。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
災害史によると、難波なにわ土佐とさの沿岸は古来しばしば暴風時の高潮のためになぎ倒された経験をもっている。
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
実際土佐とさでは弘法大師こうぼうだいしと兼山との二人がそれぞれあらゆる奇蹟きせきと機知との専売人になっているのである。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしこの話は子供のころから父にたびたび聞かされただけで典拠については何も知らない。ただこういう話が土佐とさの民間に伝わっていたことだけはたしかである。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
土佐とさの一部では子供がふきげんで guzu-guzu いうのをグジレルと言い、またグジクルという。アラビアでは「ひどく怒らせる」が ghāza である。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この現象については、最近に、土佐とさ郷土史きょうどしの権威として知られた杜山居士とざんこじ寺石正路てらいしまさみち氏が雑誌「土佐史壇」第十七号に「郷土史断片」その三〇として記載されたものがある。
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もちろん土佐とさの山々だろうと思って、子供の時から見慣れたあの峰この峰を認識しようとするが、どうも様子がちがってそれらしいのがはっきりわからない。だんだん心細くなって来た。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分の郷里の土佐とさなども山国であるからこうしたながめも珍しくないようではあるが、しかし自分の知る郷里の山々は山の形がわりに単調でありその排列のしかたにも変化が乏しいように思われるが
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それが夢の中で高知の播磨屋橋はりまやばしを呼び出し、また飛行機の構造か何かが二重層の文化街を暗示したのではないかと思われる。後の場面に現われた土佐とさの山脈もまたここに縁を引いているかもしれない。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)