団扇うちは)” の例文
旧字:團扇
われ/\が入つて行つた時には、曾老人は既に背中を丸くして大きい団扇うちはを動かしながら、掛け物の掛つてゐる壁の方を向いてゐた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
大海浜だいかいはま宿院浜しゆくゐんはま熊野浜くまのはまなどと組々の名の書いた団扇うちはを持つて、後鉢巻うしろはちまきをした地車だんじり曳きの子供等が、幾十人となく裸足はだしで道を通ります。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しば浴後ゆあがりを涼みゐる貫一の側に、お静は習々そよそよ団扇うちはの風を送りゐたりしが、縁柱えんばしらもたれて、物をも言はずつかれたる彼の気色を左瞻右視とみかうみ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さうしたらそのつぎなにかの雑誌に戸塚文子あやこさんだつたか同じ処のくらやみ祭と烏の団扇うちはのことを書いてゐられるのを見た。
府中のけやき (新字旧仮名) / 中勘助(著)
和尚をしやうさん、こゝにある団扇うちは長川谷町はせがはちやう待合まちあひ梅廼屋うめのや団扇うちはですか」「左様さやうです」「梅廼屋うめのや此方こちら檀家だんかでございますか」
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
代助は其わらひなか一種いつしゆさみしさを認めて、たゞして、三千代のかほじつと見た。三千代は急に団扇うちはを取つてそでしたあほいだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
主人は暫く見てゐたが、ついと立つて座敷の真中へ往つて、大の字に寝転んで、そばにある団扇うちはを取つて、風を入れてゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし金子堅太郎と高田実と何方どつちが人間らしい仕事をしたかといふ段になると、誰でもが高田の方へ団扇うちはをあげる。
もしそれでも得られるとすれば、炎天に炭火を擁したり、大寒に団扇うちはふるつたりする我慢の幸福ばかりである。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
部屋の中へ迷ひ込んで来る虫を、夏の虫かと思つて団扇うちはたたくと、チリチリと哀れな鳴声のまま息絶えて、もう秋の虫である。ある日名曲堂から葉書が来た。
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
さつきの弟子がさきまはりして、すつかりはなしてゐたらしく、ポー先生は薬のはこと大きな赤い団扇うちはをもつて、ごくうやうやしく待つてゐた。ソン将軍は手をあげて
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あきれたものだのと笑つてお前などはその我ままが通るから豪勢さ、この身になつては仕方がないと団扇うちはを取つて足元をあふぎながら、昔しは花よの言ひなし可笑をかしく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
或時は村内の愛弟愛妹幾人となく引きつれて、夏の半ばの風和き夜な/\、舟綱橋ふなたばしあたりに螢狩りしては、団扇うちはの代理つとめさせられて数知れぬ流螢りうけい生擒せいきんしたる功労もこれにあり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
の一つ二つ残れる広き所に散りぼひたる長椅子の上には、私より先にや三四人の人、白き団扇うちはを稀に動かしつつねむりを求めてあるを見受けさふらふ三十分さんじつぷんもその一人ひとりとなりてありさふらひけん。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あの銀色をした温味のある白毛のしとねから、すやすやと聞えやうかと耳を澄ます、五月雨さみだれには、森の青地を白く綾取あやどつて、雨が鞦韆ブランコのやうに揺れる、椽側えんがはに寝そべりながら、団扇うちはで蚊をはたき
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
団扇うちはを握つて窻前さうぜんに出れば、既に声を収めて他方に飛べり。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ふんどし団扇うちはさしたる亭主かな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
貴方あなたには、左様さう見えて」と今度は向ふから聞きなほした。さうして、手に持つた団扇うちはを放りして、からたての奇麗なほそゆびを、代助の前にひろげて見せた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やつと水の御馳走がすむと、夫人は今度は団扇うちはを持ち出して来て、馬の額際からそろそろ煽ぎ出すのだ。
「おや、こいつはもう咲いてゐらあ。この………なんと云つたつけ、団扇うちはの画の中にゐる花の野郎やらうは。」
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いえ檀家だんかといふわけではありませぬが、ながあひだ塩原しほばら附届つけとゞけをしてゐる人は梅廼屋うめのやほかありませぬ、それで団扇うちはがあるのです」「それはういふわけです」と聞くと
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
時たま思ひ出したやうにはたはたと団扇うちはづかひするか、巻煙草まきたばこの灰を払つては又火をつけて手にもつてゐる位なもの、絶えず尻目しりめに雪子のかたを眺めて困つたものですなと言ふばかり
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
初のうちは団扇うちはを使ふ音がしてゐたが、暫くするとそれが止んで、いびきの声がして来る。主人のと赭顔の男のと、別々に聞えるやうである。そのうちに小男の寝息も聞き分けられるやうになる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
月がいゝとわたしは団扇うちはを持つて縁先に出る。こんなわたしにしろ、また隣の二階家の四角な影の二尺ばかり上に照る月にしろ、月を見れば空想ぐらゐはする。わたしはきつと娘の事を考へる。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
みてあからめもせず燈火うちまもるあり。黙然として団扇うちはの房をまさぐるあり。白扇はくせんばたつかせて、今宵の蚊のせはしさよと呟やくあり。胡栗餅くるみもちほほばりて、この方が歌よりうまいと云ふあり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
白い絹団扇うちはで顔を隠し
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その拍子に、袂から白いものを出したのは手巾ハンケチであらう。先生は、それを見ると、早速テエブルの上の朝鮮団扇うちはをすすめながら、その向う側の椅子に、座をしめた。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
堪えず精神に重苦しいあつさを感ずるので、屡団扇うちはにして、かぜえりからあたまおくつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると和尚をしやうさんの手許てもと長谷川町はせがはちやう待合まちあひ梅廼屋うめのや団扇うちはが二ほんりますから、はてな此寺このてら梅廼屋うめのや団扇うちはのあるのはういふわけか、こと塩原しほばらはかにも梅廼屋うめのや塔婆たふばが立つてりましたから
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
団扇うちはとり児等こらあふげば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)