其場そのば)” の例文
というなり、彼等は、折角せっかく手にした懐中電灯も其場そのばほうり出して、云いあわせたように、ペタペタと、地上に尻餅をついてしまった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
室中しつちゆう以上いじやうは、なに見解けんげていしないわけかないので、やむをさまらないところを、わざとをさまつたやう取繕とりつくろつた、其場そのばかぎりの挨拶あいさつであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其人そのひとうてると、自分じぶん持地もちちからは澤山たくさん破片はへんるが、たれ發掘はつくつしたこといといふ。らば近日きんじつ發掘はつくつをさしてれと其場そのば手金てきんつた。
ほんの其場そのばの親子の間だけの現実に過ぎないものであつて、その後また何の不思議もなく前からの習慣である女の男育ち、男の女仕立てが続きました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
あの三戸前の奥蔵へ入りゃア、其場そのばを去らず手討だという話だ、手討にされたら化けて帰って、駿河守様へ申上もうしあげる積りで、半年越し折を狙ったがいけねえ
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
やっと其場そのばは納ったのですが、さあそれからというものは『井原は夢遊病者だ』という噂がパッと拡って了って、学校の教室での話題にさえ上るという有様でした。
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
戸外そとることをとゞめられた、それゆゑマンチュアの急用きふよう其場そのばめられてしまうたわいの。
うもわたくしはらつて歩かれませぬ、其上そのうへ塩梅あんばいわるうございまして。とふから仕方しかたなしに握飯むすび二個ふたつぜにの百か二百ると当人たうにんは喜んで其場そのば立退たちのくといふ。これ商売しやうばいになつてました。
行倒の商売 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これで一ととおおんな事情じじょうわかったのでございますが、おとこほうしらべなければなんとも判断はんだんしかねますので、わたくしはすぐ其場そのばで一そうふか精神統一状態せいしんとういつじょうたいはいり、仔細しさいにそのこころなかまでさぐってました。
以て奉願上ねがひあげたてまつり候一赤坂傳馬町長助店道十郎後家光奉申上候さんぬる寶永七年八月廿八日拂曉ふつげうしばふだつじに於て麹町三丁目町醫まちい村井長庵弟十兵衞國元くにもとへ出立仕候せつ人手ひとでかゝり相果候其場そのばに私しをつと道十郎所持印付しるしつきかさすて有之候より道十郎へ御疑念ごぎねん相掛あひかゝり候哉其節の御月番中山出雲守樣御奉行所へ夫道十郎儀病中びやうちう御召捕おめしとりに相成入牢じゆらうおほせ付けられ候處御吟味中牢死仕つり死骸の儀は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御米およねはまたそくなつたとはおもつたが、自分じぶん粗忽そこつ面目めんぼくながつて、宗助そうすけにはわざと何事なにごとかたらずに其場そのばとほした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分もまた、同席の小栗長左衛門おぐりちょうざえもん奥山茂左衛門おくやましげざえもんに討ち留められ、其場そのばで三人共相果ててしまったのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
他は其場そのばより遁走とんそういたしました。これに対して○国人側も非常に怒り、復讐を誓って、唯今準備中であります。両国の外交問題は、俄然がぜん険悪けんあくとなりました。以上。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからなおいろいろの訊問があったり、警察医の検死があったり、部屋の内と外の現場調べがあったりしたが、その揚句あげく、二郎は遂に其場そのばから拘引こういんされる事になった。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつもなら調戯からかひ半分に、あなたは何かしかられて、かほを赤くしてゐましたね、どんなわるい事をしたんですか位言ひかねない間柄あひだがらなのであるが、代助には三千代の愛嬌が、あとから其場そのばを取り繕ふ様に
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お倉婆さんが其場そのばへヘタヘタと坐ってしまったのも無理のないことです。
平田氏は、其場そのばではこの死人の脅迫状を一しょうして了ったことだが、さて、段々時がたつにつれて、何とも云えない不安がそろそろと彼の心に湧き上って来るのをどうすることも出来なかった。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は宿屋の払いもそこそこに、其場そのばから直ぐ東京へ帰りました。