公事くじ)” の例文
享保二丁酉年ひのとゝりどし十月廿二日双方さうはうとう又々評定所ひやうぢやうしよへ呼出しに相成前規の通役人方出座にて公事くじ人名前一々呼立濟て大岡越前守殿九郎兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御領内に鎮座まします御社でござるゆえ、御身のものと申さば御身のものじゃが、社寺仏閣の公事くじ争い訴訟事は寺社奉行様御支配じゃ。
越前守は、平日どおり、奉行所に出仕し、白洲の訴訟を聴き、市政万般の公事くじを裁決して、変哲もない、平凡なせわしい日を送っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえさんより、おんなだもの。あたしのほうが、どんなにいやだかれやしない。——むかしッから、公事くじかけあいは、みんなおとこのつとめなんだよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
他の公事くじが繁多のために、六月中は中止されて、七月一日からまたもや吉五郎の吟味をはじめた。係りの役人たちもあせってきたのであろう。
拷問の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「へ、それはもうこんな稼業をいたしてをりますから、自分に理がなくても、借金を取り立てられた者や、公事くじに負けた者は相手を怨みます」
今日は七兵衛が笠もかぶらず、合羽も着ず、着流しに下駄穿きで、近在の世話人が、公事くじで江戸へ出向いて来たような風采ふうさい
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「まあまあ、急ぐな。……公事くじにも占相せんそうということがあずかって力をなす。……おれは、いま金座の人相を見ているところだ」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
棠蔭秘鑑とういんひかん」に拠れば、評定寄合ひょうじょうよりあいは、寛永八年二月二日、町奉行島田弾正忠の邸宅に、老中が集会して、公事くじの評定をしたに始まったようである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「いや、江戸に公事くじ用がありましてな、これは、訴訟ごとに慣れませんので、伯父のわたくしが、後見役に出府することになりましたわけで、はい。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それは出府ちゅうに、銕太郎が老中の某侯から借覧し、許しを得て筆写したもので、寛永年代から享保にかけての、幕府の公事くじ、訴訟、仕置などの記録であった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
去年は江戸でくらしたから今年は京でくらそうというような事で、意地いじ公事くじなしに愛を分っている。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
余りに公事くじが多すぎるお疲れかと、存じて居りましたのですが、其の夜はおそくまでお寝みになりませんでお一人で何かお考えになっておいで遊ばしたのでございます。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
これらの代官は主としてからむし公事くじのために置いてあるので、莚の方は実は第二だ。この地方から秋になると柿や松茸などを鬚籠に入れて送って来たことが日記に見える。
人を殺す者を捕えて死刑に行なうも政府の権なり、盗賊を縛りて獄屋につなぐも政府の権なり、公事くじ訴訟をさばくも政府の権なり、乱暴・喧嘩を取り押うるも政府の権なり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これを持つ者百事望みのままに叶いこれを失いまたぬすまるるも角自ずと還る、宝玉と一所におさむればどんな盗賊も掠め得ず、またこの角を持つ者公事くじに負けずとあって
公事くじは漢の棠陰比事とういんひじにも見えず、倭の板倉殿のさばきにも聞えず。ここに我ひとつの発明あり。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
白痴こけなことこくなてえば。二両二貫が何高値たかいべ。われたちが骨節ほねっぷしかせぐようには造ってねえのか。親方には半文の借りもした覚えはねえからな、俺らその公事くじには乗んねえだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
其の頃は町人と武家ぶげ公事くじに成りますと町奉行は余程むずヶしい事で有りましたが、只今と違いまして旗下はたもとは八万騎、二百六十有余かしらの大名が有って、往来は侍で目をつく様です。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それであるから、桂屋太郎兵衞の公事くじに就いて、前役の申繼を受けてから、それを重要事件として氣に掛けてゐて、やうやう處刑の手續が濟んだのを重荷を卸したやうに思つてゐた。
最後の一句 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
公事くじまさにはじまらんとして、保胤が未だ出て来ないでは仕方が無いから、属僚は遅い遅いと待ち兼ねて迎え求めに出て来た。此体を見出しては、互に呆れて変な顔を仕合ったろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かえって法廷を進退する公事くじ訴訟人の風采ふうさいおもかげ伏目ふしめに我を仰ぎ見る囚人の顔、弁護士の額、原告の鼻、検事のひげ押丁おうてい等の服装、傍聴席の光線の工合ぐあいなどが、目を遮り、胸をおおうて
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(四)は軍法の巻で、何か古い記録を用いているであろう。(五)は公事くじの巻で、裁判の話を集録しているが、文章は(一)に似ている。(六)は将来軍記で、これも(一)に似ている。
すなわち城内公事くじ奉行や、青沼助兵衛、市川宮内助、すなわち城内勘定奉行や、坂本武兵衛、塚原六右衛門、すなわち城内御目付や、萩原豊前守、久保田助之丞、すなわち城内横目衆は
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よく公事くじの代書などを勤めてをるやうな御仁で、今様の通用文はすらすらと読めもするが、ありふれた経文の一つもあてがはれうものなら、さあ頓と一字一句だつて会得ができず、その癖
老中、若年寄、勘定奉行、寺社奉行、目付など、すべての幕府首脳と部門の要路者とが衆判合議のうえで重大な公事くじを決する所なのだ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すれば是は容易の公事くじでなしの惣右衞門めはとしこそ老込おいこみたれど並々なみ/\の者に非ずかれこれ評定所へいづるならば此方が是迄の惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
与右衛門は村の名主で、年貢ねんぐ金を横領したとか云う捫著もんちゃくから、その支配内の百姓十七人が代官所へ訴え出ましたが、これは百姓方の負け公事くじになりました。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「誰かに怨まれている覚えはないだろうか、金のこと、縁談のこと、公事くじ(訴訟)、揉事もめごとなど——」
世界の公法をもって世界の公事くじを談じ、内には智徳をおさめて人々の独立自由をたくましゅうし、外には公法を守て一国の独立をかがやかし、はじめて真の大日本国ならずや。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「それは、いえる。女分限者と金番頭の、いわば内輪のことなのだ。約束がちがうといって、公事くじにも持ち出せぬ以上、いつどう気をかえられても、しかたがないではないか」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それであるから、桂屋太郎兵衛の公事くじについて、前役まえやくの申し継ぎを受けてから、それを重要事件として気にかけていて、ようよう処刑の手続きが済んだのを重荷をおろしたように思っていた。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
公事くじ根源』を見るに中朝この遊び盛んに、円融帝寛和元年二月十三日に行われたのは殊にふるった物だったらしく、とばりの屋を設けまくを引き廻らし、小庭とて小松をひしと植えられたりとある。
蒲生方が勝になったというはなしは面白い公事くじとして名高い談である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また、水争いの公事くじを、この辺まで持込んで、待機の構えでいる附近の農民が隠れているかいないか。或いは尊王攘夷そんのうじょういが、海道の主流を外れたこの辺の商業地の間にまで浸漸して来ているかいないか。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「——ここで、長屋の者たちにもっとも不利なことは、二十年ちかいあいだ、二十幾家族かが無賃で住んで来たという点だ、公事くじに持っていくまでもなく、この点だけでも世間は高田屋の側に付くだろう」
(「片口聴いて公事くじをわくるな」に同じ)
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
越前はすぐ机により、その日の公事くじ、市政、獄務、消防、道路、市井しせい事故などのあらゆる件にわたる書類に目を通し初めた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国にまいれば国司の家来、荘園では預所に使われている始末、京にあれば、公事くじ雑事ぞうじに追い立てられて、心の安まるひまもない日を送っているのです。
「地境のモメ事が公事くじ騷ぎになつて、それから隣同士は口もきゝません。三年にもなりますかなア、朝夕顏を見合せ乍ら、挨拶もしないのは、變なもので御座いますよ」
政府もし人民の公事くじ訴訟をもってお上の御厄介と言わば、人民もまた言うべし、「十俵作り出だしたる米のうちより五俵の年貢を取らるるは百姓のために大なる御厄介なり」
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
口銭こうせんをとってまとめるのだ。そういうほうの公事くじにも通じていて、おなじ貸金かしの督促にしても、相手を見て緩急よろしきを得る。応対にも、強腰つよごし弱腰よわごしの手ごころをも心得ている。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正虎が「此度は右衞門佐殿公事くじ御勝利になられて、祝著に存ずる、去りながら萬一右衞門佐殿配所へつかはされる事になつたのであつたら、面々めん/\はなんとなされたのであつたか、しかと承つて置きたい」
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
その内から、十人衆という者を挙げて、この十人衆が、公事くじ訴訟から、許された範囲の町の自治は何事も扱っていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
感伏したりけり此外に出會いであはせし公事くじ訴訟人迄も涙も流し感ぜぬ者はなかりしとぞ扨又大岡殿は市郎左衞門にむかはれ罪を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「地境のモメ事が公事くじ騒ぎになって、それから隣同士は口もききません。三年にもなりますかなア、朝夕顔を見合せながら、挨拶もしないのは、変なものでございます」
これをおおやけに論じても、税の収納、取引についての公事くじ訴訟、物産の取調べ、商売工業の盛衰等を検査して、その有様を知らんとするにも、人民の間に帳合法のたしかなる者あらざれば
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「きっぱり黒白をつけてえのが、あっしの性分でね、天下の公事くじだ。天井板の一枚ぐれえ次第によっちゃ引っぺがすかも知らねえが、お前さん、四の五の言う筋合いはあるめえのう。」
「その岡倉殿は、数ヵ月まえに、幕府のおいいつけに依って、蝦夷えぞ松前の漁場公事くじのお調べに出張中でございます」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「誰かに怨まれて居る覺えはないだらうか、金のこと、縁談のこと、公事くじ揉事もめごとなど——」