ざわ)” の例文
旧字:
後方の足軽組などのあいだに、そんな私語ささやきがややざわめきかけたと思うと、たちまち謙信の声と、その姿とが、全軍の上へ向って
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとこんどはそのシャボン玉が、風にあおられるように、少しずつざわめき立つと見る間に、やがてクルクルと廻りだした。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが廊下でかなりざわついたのは昨日からの客がかなり混み合っているようで、それに旅館の方でも例の講中こうじゅう式団体客並みに何でも一坪に二
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
余は当時十分と続けて人と話をするわずらわしさを感じた。声となって耳に響く空気の波が心につたわって、平らかな気分をことさらにざわつかせるように覚えた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その早業が完全に行われて、人の頭の上から——露地の人通りの少ない所から、ついに行方ゆくえも知らず引張り込まれた後に至って、群衆がざわめき立ちました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに石段の上にある門と住居すまひとの距離も可也遠かつたし、前には山川の流れが不断の音をたゝへて、門内の松の梢にも、夜風が汐の遠鳴のやうにざわめいてゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
故国くにの親類縁者へ手紙を出すものは出す、また江戸に親兄弟のあるものは、それぞれ訪ねて行って、それとなく訣別わかれを告げるというように、一党の気はいはどことなくざわだってきた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
風がいてざわついた厭な日だったもの、釣れないだろうとは思ったがね、愚図愚図ぐずぐずしているとしかられるから、ハイと云って釣には出たけれども、どうしたって日が悪いのだもの、釣れやしないのさ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
瞬間! 兵卒達の後頭部が異様にざわめく
動員令 (新字新仮名) / 波立一(著)
控間では一時ざわめいていたが
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
座敷は急にざわめき立った。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ざわめきが内へ聞えたのであろう。船屋形のなかで尊氏の声がしていた。「師直、師直」と、再度、彼をよんでいるふうだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その覚束おぼつかないざわめきが、次第に柔かでもある深みを持った重い確かさで、前の緬羊舎の戸口から、緑の濡れしずくの草っ原へもこりもこりと動いて来た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
三月の末で、外は大分春めいて来た。裏の納屋なやの蔭にある桜が、チラホラ白いはなびらほころばせて、暖かい日に柔かい光があった。外は人の往来ゆききも、どこかざわついて聞える。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
短夜もまだ明けぬうちから身支度や馬の用意に大吉寺はざわめいていた。長浜落ちのとき何もかも捨てて来たので、帰る日にも荷物は少ない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
波が一時いちじざわめいてなぎさに寄せる。……
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(そうもあろう)当然なことでもあるように、ざわめいている門徒たちの上を、嘆きもせず、欣びもせず、いつものような眼でながめていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
饑そそるざわめきがある。
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
俊基をらっした一群が、待賢門から出て行ってしまうと、そのあと、大内のそこかしこに、卒然と、泣くような怒るようなざわめきがいていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門外では八尾ノ新介、富田正光らの若侍から組頭たちまでたちまじって、しきりに「道誉が」とか「佐々木が」とか言いざわめいているのだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十石船の中のざわめきが、おかから眺めていても手にとるようにわかった。さあことだぞと色を失った様子なのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりの者が、もう、念仏をやめて、正面に身のびをしながら、こう少しざわめき合っても、松虫は、まだを胸につけて、俯向うつむいたまま、称名していた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その短身小躯しょうくな風采と、それに似ない大胆不敵ぶりとを、怪訝いぶかり合ってざわめいているもののようであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と表面は片語のざわめきに過ぎなかったが、声なき底に勝家対秀吉の正面切っての衝突が、どうなることかと、より以上の関心となったのはいうまでもない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庁の四門を見歩いても、恟々きょうきょうたる守りの兵が、そそけ立った顔を鉄にくるんでいるのがざわめいているのだ。それを眺めると、彼も“将門恐怖”にとらわれ出した。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海が近いので、庭木には潮風がざわめいている。確かに、寝しなに閉めたとばかり思っていた庭木戸のが、時折、ばたん——ばたん——と大きな音を立てている。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当の高氏よりも、この話は、義貞の気色を、妙にざわめかせた。義貞のねたみが眼いろに出た。酒も冷えた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法被はっぴなどが、雑然と抛り出してあるところを見ても、およそこの中にざわめいているお客様の種は知れる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安土の夜を行くには、松明たいまつ提灯ちょうちんも要らなかった。歳暮のせいか、町の灯は種々さまざま色彩いろどりをもち、家々の灯は赤く道を染めて、春を待つざわめきを靄々あいあいと煙らせていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思えば、そういう気もして、何より明らかに聞えるのは、やはり水の音と、よしざわめきであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人々がざわめき見ているうちに、彼方の太守馬遵はついに出陣を見合わせたものか、駒をおりて、数多あまたの大将や一族の中に、姜維をも連れて、城閣の中へ戻ってしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき車内なんとなくざわめくので、ふと、人々の見る方を求めると、厳島へかけて、あざらかな虹が空にかかっていた。虹に見入る大人の顔は子供に近くなっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「つまり、叡山がざわめいているのは、宗教が問題ではなく、権力の争いを売りかけているのだな」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ざわめき立つと、母屋おもやからフラフラと駆けて出て法然門ほうねんもんの両側へずらりと出迎えに並びました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、さんたる敗北! これがこの宋江の最期とは」と彼は嘆じた。だがそのとき、天来のようなざわめきが殿軍しんがりからつたわって来た。「石秀だ」「石秀が来た!」というのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全陣の将士は、晩の兵糧かてに、かかっていたが、その一トざわめきの初更しょこうが過ぎると
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、きょうの雪斎四十九日のに焼香した今川家の将士の中には、どことなく平和を欠いたざわめきがみなぎっていた。辻固めの士にまで、殺気に近い緊張が流れていた。——いくさがある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようやく、人々は、ざわめき立って、浜の船着きのほうへ、ぞろぞろ歩いて行った。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者溜むしゃだまりの前を通ると、赤い火がいぶっていた。その中で、寝起きの武者たちは、籠手こてひもをむすんだり、草鞋わらじの緒をかためたり、弓や鉄砲を調べたり——物々しいざわめきを描いていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなざわめき立って、おのおののトランクへ何やかや詰め始める。どてらを脱ぐ、オーバアを着こむ。ぬれタオルが後から見つかる。およそ男同士の旅館の立ち際ほど殺風景なものはない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「雨の音か、人の跫音あしおとか。木戸の方がざわめいておる。見て来い、何事か」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、ざわめき出した街音を、肩に切って、かれらしくけ出していた。
「予が怖れたのは決して一人の張飛ではない。橋の彼方の林中に敵の埋兵まいへいがたえずざわめいていたので、また何か孔明が策を設けているのではないかと、きょうは大事を取って退却を命じたまでだ」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようやく、すべての将士が、こうさとると、列は、にわかにざわめいた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公卿口のかしましさ。殿上いずこのでも廊でも紛々ふんぷんたるざわめきである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと、不安めいたざわめき立ちが、赤い夜空の薄れより早かった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駕かき達の説明を聞くと、群衆も、熱をおびて、ざわめきだした。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、口々にざわめく兵の声があらしのようにわき揚ッていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝の中書ちゅうしょ官邸は、暁天もまだ暗いうちからざわめいていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日旅の寝小屋で枕につくと、耳こすりでざわめき始めた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)