面色おももち)” の例文
妻は尋常ひとなみより小きに、夫はすぐれたる大兵だいひよう肥満にて、彼の常に心遣こころづかひありげの面色おももちなるに引替へて、生きながら布袋ほていを見る如き福相したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
悪くすると(状を見ろ。)ぐらいは云うらしい主税が、風向きの悪い大人の風説うわさを、耳を澄まして聞き取りながら、いたく憂わしげな面色おももちで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弟の阿利吒は尊げなる僧のゑたる面色おももちして空鉢をささげ還る風情ふぜいを見るより、図らず惻隠そくいんの善心を起し、往時むかし兄をばつれなくせしことをも思ひ浮めて悔いつつ
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
參上致し候小夜衣も參り居候や御あはせ下されたしと云ひければ長庵彌々いよ/\驚怖おどろきたる面色おももちにて不思議の仰せを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこでRは一段と声を低め、非常に緊張した面色おももちになって
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「何、串戯じょうだんなものか。」と言う時、織次は巻莨まきたばこを火鉢にさして俯向うつむいて莞爾にっこりした。面色おももちりんとしながらやさしかった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知りつつもこの死地に陥りたるを悔いて、る方も無く惑へる宮が面色おももちやすからぬを見尤みとがめて、静緒はひそかに目をそばめたり。彼はいとどその目をおそるるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
も持ず歩行せし時其方に行逢ゆきあひし者あるよし然る上は其節病中との申立はいつはりならんと有りければ長庵不審ふしんさうなる面色おももちして決して他行は勿論もちろんかどへも出申さず候とまことしやかに申立てけるにぞ然る上は證據人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
好男子世に処して、屈託そうな面色おももちで、露店の三世相を繰るとなると、柳の下にてのひらを見せる、八卦の亡者と大差はない、迷いはむしろそれ以上である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は自若として、かへつてその子の善く論ずるを心にづらんやうの面色おももちにて、うたた微笑をろうするのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
きかなんぢは然樣に申せ共全く覺えなきものが罪に服するの理有べきや又憑司とても跡形あとかたもなきことは申まじされば其方が申事はまこととは受取難し能々よく/\明白に申立よと仰らるゝに傳吉は迷惑めいわくなる面色おももちにて再應さいおう御尋問ごじんもんなれども私しはけつして昌次郎夫婦を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なお応ずる者のあらざりければ、かれこうじ果てたる面色おももちにてしばらくもくせしが、やがておくしたる声音こわねにて
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ミリヤアドはと立ちあがり、床に二ツ三ツ足ぶみして、空ざまに手をあげしが、勇ましき面色おももちなりき。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引取ひっとって、ぐいと開けた、気が入って膝を立てた、顔の色が厳しくなった。と見てきもを冷したのは主税で、小芳は何の気も着かないから、晴々しい面色おももちで、覗込のぞきこんで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて客は、いまので話の口がほどけたと思うらしい面色おももちして、中休みに猪口ちょくの酒を一口した。……
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
予は高峰とともに立ち上がりて、遠くかの壮佼わかものを離れしとき、高峰はさも感じたる面色おももちにて
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっての外元気のい声を掛けたが、それまで目をつぶっていたらしい、夢から覚めた面色おももち
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
素袍のしゃに透通る、ともしの影に浅葱あさぎとて、月夜に色の白いよう、多一は照らされた面色おももちだった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金之助ははじめて心着いて、はたと立留って顔を見て、不意だという面色おももちで更に見直したが
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愛吉聞くうちにきょろきょろして、得もいわれぬ面色おももちしながら、やがて二階をみつめた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっと見て、廉平たまりかねた面色おももちして、唇をわななかし、小鼻に柔和なしわを刻んで、深く両手をこまぬいたが、ああ、我かつて誓うらく、いかなる時にのぞまんとも、わが心、我が姿、我が相好
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔をあげてぞ見たる、何をか思える、小親の、憂慮きづかわしげなる面色おももちなりしよ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他に女性にょしょうとてはあらざりし。なにがし公と、なにがし侯と、なにがし伯と、みな立ち会いの親族なり。しかして一種形容すべからざる面色おももちにて、愁然として立ちたるこそ、病者の夫の伯爵なれ。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
楚歌そか一身にあつまりて集合せる腕力の次第に迫るにも関わらず眉宇びう一点の懸念なく、いと晴々しき面色おももちにて、渠は春昼せきたる時、無聊むりょうに堪えざるもののごとく、片膝を片膝にその片膝を、また片膝に
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
楚歌そか一身にあつまりて集合せる腕力の次第に迫るにもかかはらず眉宇びう一点の懸念けねんなく、いと晴々はればれしき面色おももちにて、かれ春昼しゅんちゅうせきたる時、無聊むりょうえざるものの如く、片膝を片膝にその片膝を、また片膝に
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夫婦が二人、その若い顔を上げた時、お珊は何気なき面色おももちした。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝶吉は梓が何か易からぬ面色おももちがあるのを見て、怪しむ様子。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠は慰むることばなきがごとき面色おももちなりき。馭者は冷笑あざわらいて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神崎は夢のうちなる面色おももちにてうっとりとそのまなこみはりぬ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公子 (眉をひそむ。——侍女等ひとしく不審の面色おももちす。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神崎は夢のうちなる面色おももちにてうつとりとそのまなこみはりぬ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と云いかけて、清葉は何か思出した面色おももちして
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人も希有けうなる面色おももちにて反問せり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云うと、先達は落着いた面色おももち
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いかにもという面色おももちして
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)