雨滴あまだれ)” の例文
雨滴あまだれ式の此市こゝの女性が、嚴肅な、赤裸々な、明皙の心の樣な秋の氣に打たれて、『ああ、ああ、今年もハア秋でごあんすなつす——。』
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
机竜之助は、軒をめぐる雨滴あまだれの音を枕に聞いて、寂しいうちにうっとりとしていますと、頭上遥かに人のさわぐ声が起りました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雨滴あまだれの音が聞える。昨夜はあんなに晴れていたにと思って耳を澄したが、確に降っている。僕は落胆がっかりしてしまった。そうして
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あなたの熱心さに對してゞはないとしても、あなたの忍耐にんたいに對して僕は降參しますよ。絶え間のない雨滴あまだれが石に穴を開けてしまふやうにね。
暁からやや雨が降ったと見えて、軽い雨滴あまだれの音が、眠りをむさぼった頭に心持よく聞えた。豆屋の鈴の音も湿り気を含んでいた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分の想像と記憶は、ぽたりぽたりと垂れる雨滴あまだれ拍子ひょうしのうちに、それからそれからととめどもなく深更まで廻転した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その死骸には首がなく、首のあるべき肩の真ん中が円く真っ赤に肉がはみ出しそこから雨滴あまだれでも落ちるように血がポタポタと落ちて来るのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分はいへへ這入つて寝床に就てからも夜中よるぢゆう遠くの方で鳴いては止み、止んでは又鳴く小犬の声をば、これも夜中絶えては続く雨滴あまだれの音の中に聞いた……
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
毎日雨滴あまだれの木の葉や樹の幹から落ちるのを見て机に向つてゐる。鳥なども寒さうでまたさびしさうだ。
中秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
雨滴あまだれの様に幾点か落ちて居る血を手巾はんけちで拭っては見たが、真逆に其の寝床へ再び寝るほどの勇気は出ぬ、斯うも臆病とは余り情けないと自分の身を叱って見たけれど
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
昨日きのう降った雪がまだ残っていて高低定まらぬ茅屋根わらやねの南の軒先からは雨滴あまだれが風に吹かれて舞うて落ちている。草鞋わらじ足痕あしあとにたまった泥水にすら寒そうなさざなみが立っている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
雨滴あまだれを払いながらその間の路地を入ると、突当つきあたりの二階が篠田の座敷、灯もいて、寝ない様子。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そこに栗の木があるな? 這入はいって来るどき、葉の雨滴あまだれが顔さかかって……」
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
夜更よふけになつて、咽喉のどが焼けるやうに乾いた。鼻血でも噴くのではないかと、富岡は手さぐりで火鉢のやかんを取り、口をつけた。雨は、小降りになつたのか、雨滴あまだれの間遠な音がしてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
パタリ/\雨滴あまだれの落ちる音を聞きながら、障子もしめない座敷にじっとして、何を為ようでもなく、何を考えようでもなく、四時間も五時間も唯呆然ぼんやりとなって坐ったなり日を暮すことがあった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
大いなる竹の筒(筆立てのごときもの)が雨滴あまだれの落つる所に立ちおり、これに屋根の雪がとけて落つるときに、その一滴一滴がこの筒の中に落ち込み、ために発したる音なることが分かった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
雨滴あまだれが、憂欝が、真黄に光る。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雨滴あまだれ式の此市ここの女性が、厳粛な、赤裸々な、明哲の心の様な秋の気に打たれて、『ああ、ああ、今年もハア秋でごあんすなッす——。』
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
其晩そのばん湿しめやかな春雨はるさめつてゐた。近所隣きんじよとなりひつそとして、れるほそ雨滴あまだれおとばかりがメロヂカルにきこえる。が、部屋へやには可恐おそろしいかげひそんでゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
雨滴あまだれといに集まって、流れる音がざあと聞えた。代助は椅子から立ち上がった。眼の前にある百合の束を取り上げて、根元をくくった濡藁ぬれわらむしり切った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はいへへ這入つて寢床に就てからも夜中よるぢゆう遠くの方で鳴いては止み、止んでは又鳴く小犬の聲をば、これも夜中絶えては續く雨滴あまだれの音の中に聞いた………
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そのつもりで、——千破矢ちはや雨滴あまだれという用意は無い——水の手の燗徳利かんどくりも宵からは傾けず。追加の雪の題が、一つ増しただけ互選のおくれた初夜過ぎに、はじめて約束の酒となった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある日、この工事が、本邸の雨滴あまだれの境に据えるところの磐石ばんじゃくの選定に苦しみました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雨滴あまだれ絶間たえまうて、白い爪が幾度かこまの上を飛ぶと見えて、こまやかなる調べは、太き糸のと細き音をり合せて、代る代るに乱れ打つように思われる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人気ひとけの無いやうな、古い大きい家にゐて、雨滴あまだれの音が耳について寝られない晩など、甲田は自分の神経に有機的な圧迫を感じて、人には言はれぬ妄想を起すことがある。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
日當ひあたりのわるうへに、とひから雨滴あまだればかりちるので、なつになると秋海棠しうかいだう一杯いつぱいえる。そのさかりなころあをかさなりつて、ほとんどとほみちがなくなるくらゐしげつてる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人氣ひとけのないやうな、古い大きな家にゐて、雨滴あまだれの音が、耳について寢られない晩など、甲田は自分の神經に有機的な壓迫を感じて、人には言はれぬ妄想を起すことがある。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それが五分とち七分と経つうちに、しだいに調子づいて、ついに夕立の雨滴あまだれよりもしげせまって来る変化は、余から云うともう日の出に間もないと云う報知であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雨滴あまだれ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただ時を区切くぎってといたた雨滴あまだれの音だけがぽたりぽたりと響いた。あによめ平生いつもの通り落ちついた態度で、へやの中を見廻しながら「なるほど好い御室ね、そうしてしずかだ事」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日当りの悪い上に、といから雨滴あまだればかり落ちるので、夏になると秋海棠しゅうかいどうがいっぱい生える。その盛りな頃は青い葉が重なり合って、ほとんど通り路がなくなるくらい茂って来る。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あめは本当につて来た。雨滴あまだれが樋にあつまつて、流れるおとがざあときこえた。代助は椅子から立ちがつた。まへにある百合のたばを取りげて、根元ねもとくゝつた濡藁ぬれわらむしつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分はそれくらいきた彼女をそれくらいはげしく想像した。そうして雨滴あまだれの音のぽたりぽたりと響く中に、取り留めもないいろいろな事を考えて、火照ほてった頭を悩まし始めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)