にげ)” の例文
みなみ亭主ていしゆは一たん橋渡はしわたしをすればあとふたゝびどうならうともそれはまたときだといふこゝろから其處そこ加減かげんつくろうてにげるやうにかへつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
黒吉ですら、時々そうした、蒼白い予感に、体中の血が先きを争って、内部へにげ込んで行くような恐ろしい気持を感じた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
自白した罪人はここにります。にげも隠れもしませんから、はばかりながら、御萱堂ごけんどうとお見受け申します年配の御婦人は、わたくしの前をお離れになって、お引添いの上。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いひにける物語二枝ふたつわか不題こゝにまた忠兵衞は主命なれば詮方なくいと云難いひがたき事の由を親子の者に云傳へ其所そこをばにげも出せしが追掛おひかけらる事もやとこゝろの恐れに眞暗まつくら散方さんばう跡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一所野宴するを下して、もし知れる人にやと近よりて見んとするに、地に近づけば風力弱くなりて思わずおちたりければ、その男女おどろきさけびてにげはしりける
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こゝだおれをなぐりにかゝるやつがあるぞ、にげみちはちゃんときまってゐる、あしたのひるころみんな仕事に出たころ係二十人一斉に自転車でやって来てそいつを押へてしまふ
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
卯平うへいはいきなり煙管きせるたゝきつけた。とりあわてゝ座敷ざしきむしろどろおとしてしきゐそとあししたまゝしばらころがつてたが、つひには蹌跟よろけ/\さわぎつゝとほにげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ええ、死神のような奴、取附かれてたまるものか。」力に任して突飛ばせば、婆々ばばあへたばる、三吉にげる、出合頭であいがしらに一人の美人、(木賃宿のあの人の)宵月の影鮮麗あざやかなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それなり船の荷物にして、積んで帰れば片附きますが、死骸しがいではない、酔ったもの、めた時の挨拶が厄介じゃ、とお船頭はにげを打って、帆を掛けて、海のもやへと隠れました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかあまりに瘡痍きずそのもの性質せいしつ識別しきべつした醫者いしやは、かれその果敢はかないこゝろうつたへる餘裕よゆうあたへずにかれあたまからおさへやう揶揄からかうた。かれ其處そこ何物なにものをもないでにげるやうに珊瑚樹さんごじゆ木蔭こかげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はにげることも出来なくなった、……もっとも駆出すにした処で、差当りそこいら雲を踏む心持、馬場も草もふわふわらしいに、足もぐらぐらとなっていて、他愛がありません。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ。」とばかりに後にすさりて、うしろざまにまたその手を格子戸の引手にかけし、にげも出ださむ身のふりして、おもてをばあからめたまえる、可懐なつかしと思う人なれば、涙ながら見て、われは莞爾にっこと笑いぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあどじょうにげる、うなぎすべる、お玉杓子たまじゃくし吃驚びっくりする。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)