血統ちすじ)” の例文
一人も血統ちすじを残すなと厳しい探索の網を潜って、その時二歳のあなた様を懐中ふところに抱えて逃げましたのが、このお霜なのでございます。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いわゆる御落胤ごらくいんとでもいったようなものなんですかな。ほれほれ御覧なさい。血統ちすじは争われないもので、三白眼でこっちを睨んでいます
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
尤も、上方から下って来た目的が、龍山公の血統ちすじさがしの件もあるが、表面は、東都遊学というのであるから、誰も、怪しむ者はない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あさ子も母の血統ちすじを受け、思いつめたあげくに、万一のことを仕兼ねないかも知れぬと思うと、全身の血が凍るように思われた。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
角「わしが先祖も野州塩谷郡塩原村で、沼田へ来て鍬一つから今では田地や山も持って居りやすが、それじゃア貴方も、元を洗えば同じ血統ちすじで」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
健康な血統ちすじの子孫を設けたいものと、一心に憧憬あこがれ願っていた心情がハッキリと首肯うなずかれる訳で、T子が家出をした当時に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
またその鉄葉屋ブリキやと建具屋の弟子だってそうだ、血統ちすじは争われぬ、縁につながって能役者が望みだ、気障きざな奴だな。役者になるひまがあったら、——お久。……
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弥吉もまだ年齢は若いし、独身で暮すわけにも行かないので、小林の血統ちすじから後妻のちぞいを迎えておだやかに暮して行くうちに後妻にも男の子が二人も生まれた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
一方は従兄弟いとこ。一方は三吉が恩人の子息むすこというだけで、親戚同様にしていたが、血統ちすじの関係は無かった。区別する為に正太兄さんとか、直樹兄さんとか言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貰子いうても、チャンと血統ちすじを引いているのだすが、華族さんにはやかましい規則があって、親類でも無闇に養子に貰えん、ちゅうのでまあ実子に仕立てたのだンな。
あんなもんでも家大人おとッさん血統ちすじだから今と成てかれこれ言出しちゃ面倒臭めんどくさいと思ッて、此方こッちから折れて出てれば附上ッて、そんな我儘わがまま勝手を云う……モウ勘弁がならない
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
世間には、血統ちすじるいろいろの素質とか、祖先はじめ現在の両親などから与えられているいろいろの境遇というものが、かなり人の一生の運命を決定するように思いきめている人があります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
兄は弟のあさましき言葉に深きうれいを起し、血統ちすじの兄弟にてすらもかくまでにむごつれなければまして縁なき世の人をや、ああいとはしき世の中なりと、狭き心に思ひ定めて商買しょうばいめ、僧と身をなして
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
先代の義弟といっても何の血統ちすじ関係はなく、先代の娘の幾代を差置いて、浅田屋の身上を継いだ形になるのですから、幾代には充分徳次郎を怨む理由があったわけで、幾代の部屋の前を通らずには
昔も御承知のあの山里に若死にをしました恋人と同じ血統ちすじの人が意外な所に一人いると聞きまして、昔の人の形見にときどき顔を見て慰めにしようと思ったのですが、ちょうど私といたしましては
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
たとえ血統ちすじはどうだろうと、立派に他家の子供となってるうえは、それをわざわざ呼び寄せて、昔のことをほじり出すのは、よくないことだ、両方の気持を悪くさせるだけだ、とそう仰言るので……。
同胞 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
然し彼の宝は血統ちすじの上から余の物でも叔父の物でもなく、全く春子の物である、其の仔細は叔父朝夫は丸部総本家から数代前に分れた家筋で血筋が遠い、血筋の一番近いのは叔父の妻で有った夫人で
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「とにかく、その女性に会いたいものじゃ。たしかに、血統ちすじとわかれば、他家より養子を迎えても、亀山六万石は安泰なわけじゃ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人の家を立てる事は出来ません、縁は切れても血統ちすじは切れません、縁が切れても血統が切れても宜しゅうございますが、余りの事でございます
お八代さんは云うておりましたが、血統ちすじというものは恐ろしいもので今度の模様を見て見ますと、やはりあの巻物の祟りに違いないようで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人ともねえ、好きやぐらいか、あんさんのお弟子にもなりたいとねえ……血統ちすじは争われぬもんじゃぞね。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ですけどあたしが死んじまや、幸手屋さってや血統ちすじは絶えるでしょう? それでは御先祖様にも、又ね、死んだ親達にも済まないと思って、無分別は出しませんでしたけど、あんまり口惜くやしかったから
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
実は、私の家には恐ろしい病気の血統ちすじがあるので御座います。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「——私は、あの、先代の成瀬屋の血統ちすじの者でございます」
『家の血統ちすじを絶やしたくない』と……袴様!
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ふうん……女が夭折わかじに血統ちすじ? ……するとつまり、何か、遺伝とやら申して、よくない病気が伝わっているものに違いない。やれやれ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや/\うでない、お血統ちすじは別だ、誰しも我子は可愛もので、御実子ごじっしもって御家督相続と云えば殿様にもお快くお臨終が出来る、御兄弟の御情合も深い
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
綾姫が鶴原家にかたづいたあとで、血統ちすじが絶えそうになったが綾姫の隠し子があったのを探し出して表向きを都合よくして、やっと跡目を立てたような始末であった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
血統ちすじが絶える、田沢の家を、田沢の家をと、せめて後をたやさないように遺言をしたんです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうそう、いつか承った。龍山公のお血統ちすじを探すについて、尊公そんこうが内々その詮議せんぎを仰せつかっているというような話を——」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
數「それはと違うだろう、菊様はお血統ちすじだ、仮令たとえ四才よっつでも菊様が御家督にならなければなるまい、御舎弟を直すのは些と道理に違ってるように心得る」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の家の血統ちすじを引いた男の児にだけたたるという、その恐ろしい、不思議な絵巻物の力を、科学の力で打ち破って、その呪咀のろいがこの児にかからないようにして下さい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「至って御丈夫に見えますが、どうも御当家のお血統ちすじには、代々、女の方が夭折わかじにと極まっているので、御隠家様にはそれのみが御心痛なので」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたも愛想あいそが尽きて、私の四ツの時に置いておになった位ですから、よく/\の事で、お怨み申しませんが、わたくしは縁は切れても血統ちすじは切れない実のお母さま
出世をり合うて呪咀のろい合うものと聞いた、蔵元屋の前の御寮さんが、コッソリ里子に遣ったままにして置いた芋屋の娘……正しく蔵元屋の血統ちすじを引いた、お熊さん同様の一点の疵もない卵の剥き身
足利あしかが一族のすえである。室町将軍の血統ちすじが絶えたときは、吉良氏が世継ぎを出すことになっていたものだと云うことが、上野介のよく持ち出す自慢話であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ホッ/\血統ちすじは切れんという道理に迫り、もとより私は両人ふたりを逃がせば死ぬ覚悟、ホッ/\江戸で白翁堂にて貰った時、お前は死相が出たから死ぬと云われたが
吉光御前の血統ちすじは六波羅のむところとなって、義朝の子たちである——頼朝よりとも遮那王しゃなおう(義経)のような厳しい追放をうけないまでも、何らかの監視と、束縛に
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お祖父さんも以前まえは大小を差して、戸田家にて仮令たとえ少禄でも御扶持ごふぢを戴いたものだ、其の孫だからお前も武士さむらい血統ちすじを引いて居るではないか、忠孝まったからずと云うて
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さては聖天山へ連れ出して殺した甚藏は矢張やっぱりお賤の為には血統ちすじの兄であったか、実に因縁の深い事、アヽお累が自害ののち此のお賤が又う云う変相になるというのも
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その血統ちすじの末に、ひとりのおしの子が産れるぐらいは、諸行応報のさばきからのがれ得ない人間の子としては、むしろ慈悲のおむくいと、有難く思っていいのではないか。彼女は、そう考え直した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おえいと多助とは十九と廿はたち年合としあいかんべいと思う、母親おふくろは多助のためには実の叔母なりするから、血統ちすじ三人で此のうちめば大丈夫でいじょうぶ、そうして太左衞門われが後見をして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いまこそ迷夢めいむがさめたであろう、わしのような少年ですら、甲斐源氏かいげんじおこさんものと、ひたすら心をくだいているのに、いかにとはいえ、二十四将の一人に数えられ、武田家たけだけ血統ちすじでもある其許そこもと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前さんにはおいだが竹次郎たけじろううちへ入れる積りですが、当人が厭だと云うかも知れませんが、お前様の血統ちすじだから是非此のつがせるより仕方は無いが、嫁が悪いといけないよ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「成程、青砥弥助が言っていたが、この家は、美人の血統ちすじだ」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かめ「多助々々と仰しゃいますが、あれは親を捨てゝうちを出るような奴ですから、仮令たとえ帰って来ても私の血統ちすじだけに世間様へ対して入れられませんから、おえいに婿を取るのは当然あたりまえです」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)