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蠱惑
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こわく
ふりがな文庫
“
蠱惑
(
こわく
)” の例文
それに似た
蠱惑
(
こわく
)
的な響きがあって、一度聴いたものは、どうしても忘れることの出来ない、惑乱を感じさせられると申して居ります。
焔の中に歌う
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
会衆は
蠱惑
(
こわく
)
されて
聞
(
き
)
き
惚
(
ほ
)
れていた。底の底から清められ深められたクララの心は、露ばかりの愛のあらわれにも嵐のように感動した。
クララの出家
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
彼女たち職業婦人はこうした昔の職業婦人の流れを汲んで、更にそれ以上に文化的な、
蠱惑
(
こわく
)
的な風俗を作るべく工夫を凝らしている。
東京人の堕落時代
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
けれど、いくら心を許すまいと思いつつも、こうして、自分の愛撫を求めてやまない
蠱惑
(
こわく
)
な彼女の両の手をどう振り離しましょうか。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
かつては美しく
蠱惑
(
こわく
)
にみちて、恋いわたり、男の
愛撫
(
あいぶ
)
に打ちまかせて夜ごとに情炎を燃やした身を、ひっそりと埋めていることだろう。
イオーヌィチ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
▼ もっと見る
現世の醜惡を外に人生よりも尊い
蠱惑
(
こわく
)
の藝術に充足の愛をさゝげて一すぢに信を獲る優れた悦びに心を驅つて見ても、明日に、前途に
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
芝居、美術展覧会、音楽など、あらゆるものに通じていた。中流人的な文学や思想を心から尊重していて、それに
蠱惑
(
こわく
)
されていた。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
そうして語られる夢の
蠱惑
(
こわく
)
は、ウルリーケの上で、しだいと強烈なものになっていったが、やがて、その悩ましさに耐えやらず叫んだ。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
ノラは一階のマーケットで彼女のエロチシズムと薄鼠色の
蠱惑
(
こわく
)
で商品を粉飾した。だが、
漸
(
ようや
)
く彼女の生活には貧困が訪れてきた。
新種族ノラ
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
ああなんという
蠱惑
(
こわく
)
的な線だろう。だが同時に、その美しい線が現わしている
羞恥
(
しゅうち
)
に、私はやや大げさに言えば、ギョッとした。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
何所までも人を
蠱惑
(
こわく
)
する様な言い方では有るが、余は兎も角も其の言葉に従って怪美人の密旨をまで見究めようと思ったから
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
蠱惑
(
こわく
)
に充ちた美しいお照の肉体の游泳姿態を見せられて、いずれ物言わぬ眼に
陶然
(
とうぜん
)
たる
魅惑
(
みわく
)
の色を
漂
(
ただよ
)
わしていたものである。
電気風呂の怪死事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかし、昼光色の電灯の光のなかでぴちぴちしてゐるその指の動きには、何か甘つたるい
蠱惑
(
こわく
)
のやうなものが感じられた。
地獄
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
それがどうして長い眠りから醒めて、なんの
由縁
(
ゆかり
)
もない後住者の子孫を
蠱惑
(
こわく
)
しようと試みたのか、それは永久の謎である。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
掻口説く声が、もっと
蠱惑
(
こわく
)
的に暖く抑揚に富み——着物を脱いでからの形は、あれほかの思案のつかないものだろうか。
印象:九月の帝国劇場
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
肌理
(
きめ
)
のこまかい、若々しい照りを持った頬の色つやなどがそのためにひとしお引き立てられて、女の肌とは自ら違った
蠱惑
(
こわく
)
を含んでいるように見え
陰翳礼讃
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
彼女は、まるで空気だけで充分だというみたいに、なにも食べなかった。いつもニコニコと
蠱惑
(
こわく
)
的にやさしかった。
メリイ・クリスマス
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
それは一口に幸運などという言葉では云い尽せない程、奇怪
至極
(
しごく
)
な、
寧
(
むし
)
ろ恐るべき、それでいてお伽噺にも似た
蠱惑
(
こわく
)
を伴う所の、ある事柄でありました。
パノラマ島綺譚
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
つまんだ程の
顎尖
(
あごさき
)
から、丸い顔の半へかけて、人をたばかって、人は
寧
(
むし
)
ろそのたばかられることを
歓
(
よろこ
)
ぶような、上質の
蠱惑
(
こわく
)
の影が控目にさし
覗
(
のぞ
)
いている。
雛妓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
カルメンとホセとの呼吸がぴたりとあって、谷村はすっかりホセになりきってしまい、妾はあの
蠱惑
(
こわく
)
的なボヘミア女になりきってしまったかのようでした。
華やかな罪過
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
無垢
(
むく
)
な
若者
(
わかもの
)
の
前
(
まへ
)
に
洪水
(
おほみづ
)
のやうに
展
(
ひら
)
ける
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は、どんなに
甘
(
あま
)
い
多
(
おほ
)
くの
誘惑
(
いうわく
)
や、
美
(
うつく
)
しい
蠱惑
(
こわく
)
に
充
(
み
)
ちて
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せることだらう!
外
(
そ
)
れるな、
濁
(
にご
)
るな、
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふなと
悔
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
女優が亭主持になると、人気が衰へはしまいかと気遣ふのは詰らぬことで、女優はどんな境涯にゐても、自分を美と
蠱惑
(
こわく
)
の
幻像
(
まぼろし
)
だといふ覚悟を忘れてはならぬ。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
無常の宗教から
蠱惑
(
こわく
)
の芸術に行きたいのである……
斯様
(
かよう
)
に懶惰な僕も郊外の冬が多少珍らしかったので、日記をつけて見た。去年の十一月四日初めて霜が降った。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
この全身をパフの
香気
(
こうき
)
に叩きこめられた少女等——、
蠱惑
(
こわく
)
する
媚
(
び
)
と技術を知りながら、小学生にも劣る無智——。山鹿とはなんという恐ろしい教育をする男であろう。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
それは唯、不景気の病的な反動だとだけでとり澄ましていられなかった。個人を利己的に歪めて一攫千金を夢見させる事に於て、賭博に譲らない
蠱惑
(
こわく
)
を持っていた。……
十姉妹
(新字新仮名)
/
山本勝治
(著)
しかもその氷柱の美女の艶やかさが、私にとっては一層
蠱惑
(
こわく
)
となり、
弥
(
いや
)
が上にも情慾を掻き募らせて、いかに私が狂おしきばかりの恋情に身を
灼
(
や
)
き
爛
(
ただ
)
らせていたことか!
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
そしてわしが、不可解な
蠱惑
(
こわく
)
の犠牲であつたと云ふ事を理解して貰ふ為めに云ふのである。
クラリモンド
(新字旧仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
いや斜視そのものは美しいものだ。で、その女——島子なのであるが——その島子の人工的斜視は、妖精的に美しい。また
蠱惑
(
こわく
)
的といってもいい。また誘惑的といってもいい。
怪しの館
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
この山の美しさは、
恍焉
(
こうえん
)
として私を
蠱惑
(
こわく
)
する。何世紀も前の過去から刻みつけられた印象は、都会という大なる集団の上にも、
不可拭
(
ふかしょく
)
の焼印を押していなければならないはずだ。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
かくて始めて知った「色」というものの、
蠱惑
(
こわく
)
よ、秘密よ、不可思議よ——虹の世界へ島流しに遭った童子のように次郎吉は、日夜をひたすらに瞠目し、感嘆し、驚喜していた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
ふくよかな肉体をもった
蠱惑
(
こわく
)
的な像である。右手をすっと伸ばして、衣の
裾
(
すそ
)
をゆびで軽くつまみあげているが、人指しゆびと小ゆびのかすかにそりかえっているのが実に美しい。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
……それにしても、かうした光の
蠱惑
(
こわく
)
から人間といふものはさまざまなことを思ひ出すものである。こんなことから、実際人を殺さうと決心した男が、昔からなかつただらうか……
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
その絶えんとして、又続く快い旋律が、目に見えない紫の糸となって、信一郎の心に、後から後から投げられた。それは美しい女郎
蜘蛛
(
ぐも
)
の吐き出す糸のように、
蠱惑
(
こわく
)
的に彼の心を
囚
(
とら
)
えた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
すなわち女優諸君が真に美貌に執するならば、そしておのれの持つ最も
蠱惑
(
こわく
)
的な美を発揮したいならば、むしろすすんで眉を落し歯を染めるべきであるということを私は提言したいのである。
演技指導論草案
(新字新仮名)
/
伊丹万作
(著)
その青藍色の
湯池
(
とうち
)
は
蠱惑
(
こわく
)
的である。美しさの余り眩惑されて身を投じるものもないとは限らぬ。
又
(
また
)
十分の威厳を備えておる。百二十度の熱湯は
儼
(
げん
)
として人を近寄らしめない。
正
(
まさ
)
に女王の感じである。
別府温泉
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
しかし夢中ではあんなに
蠱惑
(
こわく
)
的に見えた物語の筋も
鳥料理
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
愛に充ちてはいるが、しかしインド的な
蠱惑
(
こわく
)
はない。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
まことに縁なきけんらんで、それに女性の
蠱惑
(
こわく
)
を連想すれば、かえって魔術師の箱をのぞくようなふしぎな気味わるさにとりつかれる。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
白い羽根のついた黒い帽子を
目深
(
まぶか
)
にかぶり、ネロリ油の強烈な
蠱惑
(
こわく
)
的な香をさしてサーカスの女のようなミサコは高慢な夜を感じていた。
女百貨店
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
彼は、眼前の、この世ならぬ
妖
(
あや
)
しさに
蠱惑
(
こわく
)
され、自分の幻影を壊すまいとして、そのまましばらくは、じっと姿勢を変えなかったのである。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
そういわれた瞬間、私の
眼底
(
がんてい
)
には、どういうものか、あのムチムチとした
蠱惑
(
こわく
)
にみちたチェリーの
肢体
(
したい
)
が、ありありと浮び上ったことだった。
ゴールデン・バット事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
且
(
かつ
)
はその鏡に自分の娘ふたりを
蠱惑
(
こわく
)
する不可思議な魔力がひそんでいるらしいことを認めたので、いよいよそのままには捨ておかれないと思って
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
コンナ素晴らしい幻影が見えるのは、黴毒が頭に来ているせいじゃないか知らんと思ったくらい
蠱惑
(
こわく
)
的な姿であった。
冥土行進曲
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
驚きの表情はすぐ葉子の顔から消えて、
妖婦
(
ようふ
)
にのみ見る極端に肉的な
蠱惑
(
こわく
)
の微笑がそれに代わって浮かみ出した。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
蠱惑
(
こわく
)
に
充
(
み
)
ちて来るようになり、そしてそれらの一つ一つが、私に取って味わい尽せぬ無上の物になるのでした。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それを見詰めていると、冷たい
焔
(
ほのお
)
に対して感ずるような、恐ろしい
蠱惑
(
こわく
)
と
懊悩
(
おうのう
)
をさえ感じさせるのです。
銭形平次捕物控:082 お局お六
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
人妻の艶かしさを処女の慎ましさに包んでいるような妻の顔……それが……その喉の下にポツンと一つ小さく付いている
黒子
(
ほくろ
)
までが、何ともいえぬ
蠱惑
(
こわく
)
と悩ましさとをもって
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
「
傾城塚
(
けいせいづか
)
での
蠱惑
(
こわく
)
が、亡霊のようにつきまとっている。しかし」とやっぱり考えられた。
剣侠受難
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
少年はひやひやしながら、嫌悪と
蠱惑
(
こわく
)
の入りまじつた不思議な感情をもてあます。
地獄
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
その眼をなおよく見んために
覆面
(
ヴェール
)
を引き裂こうとした
刹那
(
せつな
)
、このたびはその
蠱惑
(
こわく
)
から脱せんとつとめ、主宰的精神の魔法の網を、スフィンクスの顔にふたたび投げかけようとしていた。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
蠱
漢検1級
部首:⾍
23画
惑
常用漢字
中学
部首:⼼
12画
“蠱惑”で始まる語句
蠱惑的
蠱惑力
蠱惑精𨇤