荒磯あらいそ)” の例文
泥濘ぬかるみ捏返こねかへしたのが、のまゝからいて、うみ荒磯あらいそつたところに、硫黄ゆわうこしけて、暑苦あつくるしいくろかたちしやがんでるんですが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
南の海上のザンのいお儒艮じゅごん)の物語と対立して、東日本の荒磯あらいそにはアシカ・アザラシ・ミチの寝流ねながれなどの話がもとは多かった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伊那丸は、金剛力こんごうりきをしぼって、波のほうへ、つなをひいてみたが、荒磯あらいそのゴロタ石がつかえて、とてもうごきそうもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしこれ等がな消えせて山上にっている一本松のように、ただ一人、無人島の荒磯あらいそに住んでいたらどうだろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
岩石がんせきつるぎのやうに削立つゝたつて荒磯あらいそへんだのを、兵曹へいそう元氣げんきまかせて引廻ひきまはされたので、ひどつかれてしまつた。
二人がかりでやっと動くような大きな石ころもまじえて、まるで荒磯あらいそのように石だらけの道だった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
荒磯あらいそに波また波が千変万化して追いかぶさって来ては激しく打ちくだけて、まっ白な飛沫ひまつを空高く突き上げるように、これといって取り留めのない執着や、憤りや、悲しみや
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ついては汝に荒磯あらいそという名を与える、もう来るな、と言っていそいで敬遠してしまった。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
荒磯あらいその描いてある衝立ついたての前で、いまこう、肩肘かたひじを張って叫び揚げた武士さむらいがある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
荒磯あらいそかげに心苦しく存じました二葉ふたばの松もいよいよ頼もしい未来が思われます日に到達いたしましたが、御生母がわれわれ風情ふぜいの娘でございますことが、御幸福のさわりにならぬかと苦労にしております」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
海はどよもす荒磯あらいそべ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
暮はさみしき荒磯あらいそ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
荒磯あらいその小屋に小父さんが一人居て、——(目こそくらけれど)……どうとかして——(寄する波も聞ゆるは)……と言うと、舞台中ざあと音がしてね
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
糸満いとまん人が九州の荒磯あらいそに出没し始めると、今まで記述せられなかった色々の多彩の魚が市場に現われて、内外の魚学者を喫驚びっくりさせたという話も聴いている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分は荒磯あらいそに一本流れよった流れ木ではない。しかしその流れ木よりも自分は孤独だ。自分は一ひら風に散ってゆく枯れ葉ではない。しかしその枯れ葉より自分はうらさびしい。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
山のけずりて道路みち開かれ、源叔父が家の前には今の車道くるまみちでき、朝夕二度に汽船の笛鳴りつ、昔は網だに干さぬ荒磯あらいそはたちまち今のさまと変わりぬ。されど源叔父が渡船おろしの業は昔のままなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
海岸かいがんいわうへからはてしなき大海原おほうなばらながめたり、いへうしろ椰子林やしばやしで、無暗むやみうるはしき果實くわじつたゝおとしたり、またはいへのこつてつた水兵すいへい案内あんないされて、荒磯あらいそのほとりで、海鼈うみがめつたりして
暮はさみしき荒磯あらいそ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
三冬さんとうちつすれば、天狗てんぐおそろし。北海ほくかい荒磯あらいそ金石かないは大野おほのはま轟々ぐわう/\りとゞろくおと夜毎よごとふすまひゞく。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うしおさみしき荒磯あらいそ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
北も南も吹荒ふきすさんで、戸障子をあおつ、柱をゆすぶる、屋根を鳴らす、物干棹ものほしざお刎飛はねとばす——荒磯あらいそや、奥山家、都会離れた国々では、もっとも熊を射た、鯨を突いた、たたりの吹雪に戸をして
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしほさみしき荒磯あらいそ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けむりなみだ。荒磯あらいそいは炬燵こたつ眞赤まつかだ。が此時このとき燃拔もえぬけてはなかつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)