いじ)” の例文
しかし一歩門外もんそとへ出れば、最う浮世の荒い風が吹く。子供の時分の其は、何処にも有るいじめッという奴だ。私の近処にも其が居た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「芹沢様とやら、お前は、新撰組の隊長でありながら、わたしのような弱いものをいじめてどうなさいます、どうぞお許し下さいませ」
軍律を厳守することでも、新兵をいじめることでも、田舎に帰って威張ることでも、すべてにおいて、原田重吉は模範的軍人だった。
ちがった習慣、ちがった規則、ちがった発音、ちがった読本の読み方。それに理由もなく新来者をいじめようとする意地の悪い沢山の眼。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
柳沢、そんなことをいって僕の居ない時に梓君をいじめるのか、せ。いよ、待て、まあ、僕のいうことを、今君のいうごとくんばだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はずかしさで唇までがって言うことを聴かないように思えた、「私、あなたを愛してますわ。どうしてあんなに私をいじめるの?」
そうしてウンウン云っていじめ付けられていたんだ……馬鹿馬鹿馬鹿。馬鹿の、馬鹿の、大馬鹿揃いだったんだ……三人が三人とも……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
若旦那それでは貴方まるで花魁をいじめるようなもので、花魁がお可愛相です、あのお客に花魁が惚れるのなんてえことがありますものか
母の言葉には兄一人でさえたくさんなところへ、何の必要があって、自分までこの年寄をいじめるかと云わぬばかりの心細さがこもっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前に今うちを出られては、いかにもわしがいじめ出しでもしたように親類たちから思われるからもう少し辛抱しんぼうしていておくれ」
ラヴィニアはいつも意地悪で、この間まで学校の誇とされていたセエラをいじめるのは、殊にいい気味だと思っていたのでした。
「……止せっ、いつまで、泣いてやがって。気が滅入めいってしまわあ。もういじめねえから黙れ。……うむ、水をいっぺい持って来てやろうか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎夏、鎌倉の海で遊びくらした仲で、サト子にいじめられながら、サト子の行くところならどこへでもついてくる、人なつっこい少年だった。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
深山の口から、何か自分をいじめるよな材料たねでも揚げて来たかのように、帰るとすぐ殺気立った調子で呼びつけられたのが厭でならなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのうちお孃さんは、宇佐美の本當の娘でないとわかり、妾のお秋にいじめられてゐるのを見て、可哀想が嵩じて二人は好い仲になつたのだらう
村の子供をいじめて、子供の持っている銭を取上る、町へ出ては商家あきないやの隙をねらって品物を盗んで来る。だからこの吉太を善く言うものはなかった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
民さんが力ずくで昌さんをいじめるらしい。何かみ合うような音も聞える。昌さんが「あーア、あーア」という引っ張った悲しげな声をたてる。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
浜子は継子の私をいじめた罰に父に追いだされてしもうたと言うのですが、私は父がそんなに自分のことを思ってくれているとはなぜか思えなかった。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
三月の休暇やすみまでは帰って来られないんだ。けれども家にいて姉さん達にいじめられるよりか余程よっぽどましだと思う。学校には乃公位の子供も大勢いるそうだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とうとう彼は雑談の環の中から声を皮肉にしてなじった。夫人が童女のままで大きくなったような容貌ようぼうも苦労なしに見えて、何やらいじめ付けたかった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夫人は、前川氏を意地悪く、真綿で首をめるようないじめ方をして、つまり精神的にサジズムによって、その不満をいやしているような傾向があった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
けれど、一番若い銀平ばかりいじめるのは、いけないということになった。そして、三人一緒に小使室の土間へ入って行って、私が小使さんに訳を話して
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「とにかく、てめえは蔦が逃げていったのを、わしらがいじめたからだとでも思っているんだろう! 正勝!」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そのたたりであの奥様も子供の時分から継母ままははにかかってえらくいじめられたとか苦労なすったとかいっとるですが、どこまでほんとの話かどうかは知れねえですが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この執法僧官はモンラムの間とチョエン・ジョェの時にラサ府市民及び僧侶をいじめて金を取るのみでない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「今朝も大分警視庁の人にいじめられましたから、もう平気でしゃべれますよ」と鴨田研究員は前提ぜんていして「私は時計を見ないくせなのでしてネ、正午ひるのサイレンからして、 ...
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「誰かがひどくしたのかね。誰かにいじめられたの」私は入口の方をチョッと見やりながらいた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「ここは毎年そいつにいじめられる処なんだ」というTの説明に、慌てて窓硝子ガラスの曇りをぬぐってみると、本当に車窓のすぐ前にその幻境のような景色が現われ出たのである。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今戸焼のたぬきみたいだ。どうせそんなものよ。ねえ、カンノン様。私はあんたなんか拝む気はないのよ。もっといじめて下さい。御利益と云うものは金持ちに進上して下さい。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
旧臘きゅうろうのことである。まだ十日とは経っていない。恋に敗れた近江之介が、新家庭の歓楽に浸り切っているであろう、喬之助を、事ごとに役所でいじめるのに不思議はなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、お絹のおふくろがいじめられているとすればこいつはだまっているわけにはゆかぬ。大人よりも図体の大きい藤作は、こび権に対する不安も恐怖感も持ってはいなかった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
がしかしその家庭の紊乱——生みの母がいなくて継母にいじめられ、異母弟に邪魔物にせられ——あらゆる苦しみ悲みの結果であると知ったら其処に同情の涙が流れないであろうか
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
すると、近所の部落では昔その祖先にいじめられて来ている故、慄然として声を聞いて怖るる。かかる必要から祖先崇拝は起っていると思う。即ち、死せる祖先を利用したものである。
まして姑と一所に定住している大多数の嫁がそれらの姑の下にあるいは干渉され、あるいはいじめられ、あるいは意地悪く一分いちぶだめしに精神的に虐殺されつつあるのは言うまでもない。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
彼の得意とするところは、自分より弱いものをいじめることにあった。すでに「声がわり」のした、腕力といい、体格といい、すっかり若衆の彼に敵対するものは生徒中には一人もなかった。
橋の上 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
僕は Pensées を、自分の胃袋の中で、思いきりいじめつけてやった。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
これまで、どれだけ、子供のことで、ッちゃんをいじめたと、お思いになる?
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
噛みはせぬが、威嚇いかくする。彼が流浪るろう時代に子供にいじめられた復讎心ふくしゅうしんが消えぬのである。子供と云えば、日本の子供はなぜ犬猫を可愛かあいがらぬのであろう。直ぐ畜生ちきしょうと云っては打ったり石を投げたりする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
可哀想なパラーシャをいじめないでくれと要求されたんです。
でも細君があると知れてから、随分んでいじめてやった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
例えば可憐かれんな小動物がいじめられているのを見て、哀憐あいれんの情を催し、感傷的な態度で見ている人は、その態度に於て主観的だと言われる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それがというと、養子の奴が、飛んだ癇癪持で、別に、ほかに浮気なんぞするでもなしに、朝から晩まで、お雪さんをいじめるんだってね。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客「フヽヽヽヽム、ひどいね花魁、あゝあやまった/\もう、フヽヽヽヽム、そんなにいじめなくもいゝじゃないか、あやまったッたてえばよ」
そのために私は、金のある人々にき使われ、いじめられ、さいなまれ抑えつけられ、自由を奪われ、搾取さくしゅされ、支配されてきた。
私は元来実感の人で、始終実感で心をいじめていないと空疎になる男だ。実感で試験をせんと自分の性質すらく分らぬ男だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「さう氣が付いたところで、親の金を持出した道樂息子や、嫁にいじめられて身投げの場所を見に來たしうとめを、往來でつかまへるわけには行くまい」
ナニ、誰か殺したんだろうって? 冗談じゃねえや……ナニ、米友、お前がいじめ殺したんだろうって? ばかにするない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「奥さま、どうしたと、おっしゃるんですの。私に、案内させておきながら、お姉さまをいじめるなんて、厭ですわ。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あなたがあんまりいじめるからですよ。さあ云え、さあ云えって、責めるように催促されちゃ、誰だって困りますよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だいぶ困っているようだな。君をいじめてみたってしょうがないから、長くなければ、つきあってやってもいい」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)