)” の例文
お鶴どんが其の傘を後からしかけてなはつたのを、わたへは山から戻りに見ましたけど、それや上品で、思はず頭が下がりました。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
と節子はすこし顔をあかめた。彼女は何事も思うに任せぬという風で、手にした女持の洋傘のすこし色のせたのをひろげてした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かみさんの人が下女を連れて芝居の番附を澤山に手に持つてゐるのが通る。二人の女に、各一人の男が日傘をしかけてやつてゐるのが通る。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
お勢は大榎おおえのき根方ねがたの所で立止まり、していた蝙蝠傘こうもりがさをつぼめてズイと一通り四辺あたり見亘みわたし、嫣然えんぜん一笑しながら昇の顔をのぞき込んで、唐突に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女がクリーム色の洋傘こうもりして、素足に着物のすそを少しまくりながら、浅い波の中を、男と並んで行く後姿うしろすがたを、僕はうらやましそうにながめたのです。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
からかさした一人の武士が静々と町を歩いていた。と、その後から覆面ふくめんの武士が、慕うように追って行った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
建水分神社の宮司岡山氏が、私たちのため、雨傘をし添えて、石階数百段を木履ぼくりで案内してくださる。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『蝙蝠傘をしてるのになあ、貴方あんた、それだのに此の禿頭から始終しよつちゆう雫が落ちてくるのですものなあ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お大は何處かの番傘をして、ブヨ/\した横肥よこぶとりの體を、町の片側からノソ/\と歩いてゐる。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
色の褪めた明石の單衣を着て、これも色の褪めた紫紺の洋傘かうもりしたみのるの姿が、しばらくすると、炎天の光りに射られて一帶に白茶けて見える牛込の或る狹い町を迷つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
下駄穿げたばきに傘を提げて、五月闇さつきやみの途すがら、洋杖ステッキとは違って、雨傘は、開いてしても、畳んで持っても、様子に何となく色気が添って、恋の道づれの影がさし、若い心をそそられて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「アンタに賞められると話す張合いがある。……ところがなあ。い事には魔がすちゅうてなあ。アンタも知っておんなさるか知らんが、この縁談に一つの大きな故障が入ったらしい」
私はおしづさんが蝙蝠傘をして歩く他所よその女を羨むのを見て驚かされた。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
そんなことを思っては、私は方々、目的あてもなく歩き廻った。天気が好ければよくって戸外そとに出るし、雨が降れば降って家内うちにじっとしていられないで出て歩いた。破れた傘をして出歩いた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
小柳の顔には暗い影がした。しかし案外おちついた態度で寂しく笑った。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天幕を出る時ぽと/\落ちて居た雨はみ、かさす程にもなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その日に限っては、主人の源ですら御しきれません——ところどころの松蔭に集る娘の群、紫絹の美しい深張ふかばりした女連なぞは、叫んで逃げ廻りました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うちにばかりいて、よくこう満足していられると藤尾が思う。——糸子の眼尻には答えるたびに笑の影がす。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうひとりの獄卒は処刑用の大きな“鬼頭刀きとうとう”をささげている。すこし離れて、の長い青羅せいらの傘を、べつな獄卒が、かっぷくのいい堂々たる男の上にしかけて行く。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
緋鹿子ひがのこ背負上しょいあげした、それしゃと見えるが仇気あどけない娘風俗ふう、つい近所か、日傘もさず、可愛い素足に台所穿ばきを引掛けたのが、紅と浅黄で羽を彩るあめの鳥と、打切ぶっきり飴の紙袋を両の手に
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聲をかけられたのは、三人連にんづれの女である。いづれしま無地むぢかの吾妻アヅマコートに、紺か澁蛇しぶじやかの傘をして、めかし込んでゐるが、聲には氣もつかず、何やら笑ひさゞめきながら通過ぎやうとする。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
……蝙蝠傘かうもりがさしてるのに、拭いても拭いても顔から雫がるのですものなあ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
役所の帰りに荷車を引いて帰る男、制服のズボンで我慢をしている会社員、女持ち洋傘こうもりして行く役人なぞいう式は、いくらでも見付かる。番傘とゴム靴に到っては数限りないと云ってよかろう。
開通即下のごったかえす㓐別館の片隅で、いわいの赤飯で夕飯を済まし、人夫の一人に当年五歳の女児鶴、一人に荷物を負ってもらい、余等夫婦洋傘をしてあとにつき、斗満とまむの関牧場さして出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
美しい洋傘こうもりした人々は幾群か二人の側を通り過ぎた。互に当時の流行を競い合っての風俗は、華麗はでで、奔放ほしいままで、絵のように見える。色も、好みも、皆な変った。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこに光春の家臣が堵列とれつしていた。ひとりの老臣は、傘をひらいて、うやうやしくさし出した。それを四方田政孝がうけ取って主人の上にしかける。藤田伝五は、光秀のみのを持つ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丸山の下の横丁まで來ると、其角そのかどを曲る出前持の松公に逢つた。松公は蕎麥そばの出前を、ウンと肩の上へ積上げて、片手に傘をして居たが、女の姿を見て見ぬふりをして行過ぎやうとする。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
茶屋で、「お傘を。」と言ったろう。——「お傘を」——家来どもが居並んだ処だと、このことばは殿様に通ずるんだ、それ、麻裃あさがみしもか、黒羽二重くろはぶたえはかまで、すっとす、姿は好いね。処をだよ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪は夜会巻やかいまきというものに結って、静岡ではこのごろ、県令の奥様がしているといわれている舶来の蝙蝠傘こうもりがさを持って、散りしいている地上の花へ、傘の先で何やら描いていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと鳥影が……影がした。そこに、つい目のさきに、しなやかなおんなが立った。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
扮装みなりなぞは気がつかず、洋傘かさは持っていたようでしたっけ、それをしていたか、畳んだのをいていたか、判然はっきりしないが、ああ似たような、と思ったのは、その行方が分らんという一人。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
の長い飴色あめいろの大きな傘を、童女わらべはうしろからしかけた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、日常どこか、病影がしていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小山夏吉の眉に、陰がした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)