紅白粉べにおしろい)” の例文
あたしゃ今こそおまえに、精根せいこんをつくしたお化粧けしょうを、してあげとうござんす。——紅白粉べにおしろいは、いえとき袱紗ふくさつつんでってました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いまだに宿やどとてもさだまるまじく、はゝ此樣こんになつてはづかしい紅白粉べにおしろい、よし居處ゐどころわかつたとてひにてもれまじ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もっと女らしく紅白粉べにおしろいでもつけて、殿下の舞踊のお相手でも務められたら、さぞ、仕合せだろうと、そんな気がしましたわ」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
身動みじろぎもせず聞きんだ散策子の茫然ぼんやりとした目の前へ、紅白粉べにおしろいの烈しいながれまばゆい日の光でうずまいて、くるくると廻っていた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五節句の中で、雛祭りという時候の関係からいっても、華美な艶麗な感じで聯想さるる。紅白粉べにおしろいをつけて美しく著飾きかざっている女の子を聯想する。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ばあさんになってもそうですが、若い娘さんなんか特に目立ちます。しかしおなじ紅白粉べにおしろいをつかっても、上手じょうず下手へたとでは、たいへん違います。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
見ればかれらは紅白粉べにおしろいをつけて、その艶容は娼婦の如くであるのみか、その内服は真っ紅で、下飾りもまた紅かった。
何としても、彼を賭に負かして、司馬懿仲達が紅白粉べにおしろいをつけ、女の着物を着てあやまる姿を見てやらなければならん
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女でいうと紅白粉べにおしろいの飾りも同じことで、本来はいずれも年に一度か二度の、晴の日のみに許されることであったのを、自由に任せて毎日のごとくこれを受用し
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
紅白粉べにおしろいまでつけて、ニヤリニヤリと岡っ引を迎えるといった肌合いの女——けちで無慈悲で、強欲ごうよくだった寅五郎と、生れ変って来ても気性の合いそうもない柄です。
五十日あまりは新妻らしく結っていた髪も、髪結い賃と暇が惜しいため、いつか束ね髪で済ますようになり、もちろん紅白粉べにおしろいなどつけることもなくなっていった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、それから今の女の教育が何の役にも立たない事、今の女の学問が紅白粉べにおしろいのお化粧同様である事
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
酔に乗じた老松の端唄はうた口唇くちびるいて出た。紅白粉べにおしろいに浮身をやつすものの早い凋落ちょうらくいたむという風で
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
七十八軒の本宿に、二十四軒の旅籠屋はたごや紅白粉べにおしろい飯盛女めしもりおんなに、みとれるようなあだっぽいのがいる。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お文と源太郎とは、人込みの中を抜けて、つまを取つて行く紅白粉べにおしろいの濃い女や、萌黄もえぎの風呂敷に箱らしい四角なものを包んだのを掲げた女やにれ違ひながら、千日前せんにちまへの方へ曲つた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
「お仙の阿魔あまに男なんかあるものか、紅白粉べにおしろいはおろか、油一貝ひとかい買ったことのねえ身の上だ——へッ」
女の紅白粉べにおしろいなどもやはり酒と同様に、本来は祭とか式典とか、おおよそ酒の用いられなければならぬような日に、女を常の女でなくするために施したのが化粧けしょうであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
情夫おとこ西門慶せいもんけいの姿が梯子段はしごだんをころげるように降りて来るなり、隣家の王婆の裏口へ消えて行ったし、女の金蓮きんれんは金蓮でまた、にわかにわが手で髪をみくずし、紅白粉べにおしろいを洗い落すなど
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内佛ないぶつの安置してあつたこの室は、この家へ女氣をんなけが入るやうになつてから、納戸に用ゐられて、紅白粉べにおしろいの匂ひで一杯になつてゐるが、竹丸の怖々こはごは覗いた時、修驗者の姿は見えないで
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
……抱妓かかえが五人とわけが二人、雛妓おしゃくが二人、それと台所とちびの同勢、蜀山しょくざんこつとして阿房宮、富士の霞に日の出のいきおい紅白粉べにおしろいが小溝にあふれて、羽目から友染がはみ出すばかり、芳町よしちょうぜん住居すまい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東海道金谷の宿はずれに、なまめかしい一かくがある。間口の狭い平べったい板屋造りで、店先にさまざまな屋号を染出した色暖簾いろのれんを掛け、紅白粉べにおしろいの濃い化粧をしたなまめかしい令嬢たちが並んでいる。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こめつ可笑をかしく面白おもしろものがたりながらしづみがちなるしゆ心根こゝろねいぢらしくも氣遣きづかはしくはなれぬまもりにこれもひとつの關所せきしよなり如何いかにしてかえらるべき如何いかにしてかのがるべきおたかかみとりあげず化粧けしやうもせずよそほひしむかし紅白粉べにおしろい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「言わいでか。紅白粉べにおしろいを塗りたくって、さもなまめかしゅうしていやがるが、一ト皮けば、その下はむじなか狐とも変りはなかろう。舞台の夜は前芸で、奥の芸は女の淫を売る女狐めぎつねじゃわ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう澤山だ、歸つてくれ。——水本賀奈女にさう言ふが宜い、踊の師匠の看板かんばんを外して、紅白粉べにおしろいを洗ひ落し、疣尻卷いぼじりまきにして賃仕事でも始めて見ろとな。世の中に怖いことがなくなるぜ」
ついこの前途さきをたらたらと上りました、道で申せばまず峠のような処に観世物みせものの小屋がけになって、やっぱり紅白粉べにおしろいをつけましたのが、三味線さみせんでお鳥目ちょうもくを受けるのでござります、それよりは旦那様
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十八をかしらに九人の子福者、唐物、小間物から、風邪薬にしもやけ薬、紅白粉べにおしろいまで売って、一と通りはやっているものの、内福で有名な浜田屋などと違って、内輪はかなり苦しそうです。
「もうたくさんだ、帰ってくれ。——水本賀奈女にそう言うがいい、踊の師匠の看板を外して、紅白粉べにおしろいを洗い落し、疣尻巻いぼじりまきにして賃仕事でも始めてみろとな。世の中に怖いことがなくなるぜ」