祈祷いのり)” の例文
仏教信者は食事をする時、先づ飯を一はしとつて仏に供へる事を忘れない。耶蘇教信者はまた食卓につくと、屹度感謝のお祈祷いのりをする。
「ここやかしこで雨乞いの祈祷いのりも、噂ばかりでなんの奇特きどくも見えぬ。世も末になったのう」と、忠通も力なげに再び溜息をついた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此からは屹度親のいう事を聞くから助けてくれるようにと祈祷いのりをした。そしてもう直ぐに瀑布たきだろうと思って舟の中に突俯して泣いた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「おさないひめたちが、このあいだから風邪かぜなやんでいる。奥もきょうはそれで祈祷いのりにまいった。アレは昔からその宗門しゅうもんでもあった」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ今夜と違っておられます事は尼様達のお祈祷いのりの代りにたけりに猛る武士もののふのひしめきあらぶ声々こえごえが聞こえていたことでござります
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
智恵子は、シツカリと吉野の脱ぎ捨てた下駄を持つた手を、胸の上に組んで、口の中で何か祈祷いのりをしながら、熱心に男のするさまを見てゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼心をこめし祈祷いのり歎息ためいきをもて、かの魂の待つ處なる山の腰より我を引きまた我を他の諸〻の圓より救へり 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
アーメン嫌いな人達の中で、時々捨吉が二階へ上って行って祈祷いのりの仲間入をするように成ったは、同じ居候いそうろうの玉木さんをあわれむという心からであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かかる場合ばあいにのぞみて、人間にんげんたのむところはただ神業かみわざばかり……。わたくしは一しん不乱ふらんに、神様かみさまにお祈祷いのりをかけました。
食事が濟み、ミラア先生がお祈祷いのりをすますと、級の生徒は列を作つて、二人づゝ二階へとのぼつて行つた。
ひかりを鎧うた浄い暁のなか、むしばまれた祈祷いのりの囁きがたちのぼる。一と夜、悪の扉にもたれてゐたかれらが、聖らかな眼ざめにかへるのだ。——一斉に咒詞を呟きながら。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
わたしはもう祈祷いのりをささげに来た人としての謹慎の態度を持ちつづけていられなくなりました。
怪しげな呪禁まじない祈祷いのりをして、助かる病人まで殺してみたり、医者の薬を遠ざけて、ますます病気を悪くしてみたり、盛んに迷信や邪信を鼓吹して、愚夫愚婦を惑わしている
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
身もたまも捧げて彼を愛すと誓へる神前の祈祷いのり、嬉しき心、つらおもひ、千万無量の感慨は胸臆三寸の間にあふれて、父なる神の御声みこえ、天にます亡母はゝの幻あり/\と見えつ、聞えつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ほんとうは祈祷いのりをし乍ら、同時に祈らるるものの心地にならなければいけません。」
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
考へるあしのをののき。無限への思慕。エロスへの切ない祈祷いのり。そして、ああそれが「精神」といふ名で呼ばれた、私の失はれた追憶だつた。かつて私は、肉体のことを考へて居た。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
蕁麻いらくさで織った贖衣を素肌に着、断食をし、滝のように涙を流して懺悔の祈祷いのりをする。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかしてヨブはその最後において「しかれどもわが手には不義あるなくわが祈祷いのりは清し」と主張して、いぜんとしておのれの無罪を高調し、この罪なき彼を打つ神の杖の無情をうらんでいる。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
(嗚呼聽く祈祷いのりの聲よ)世はやみなる。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
こころしづかにゆふべ祈祷いのりをささげ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
静かに起る日の祈祷いのり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それを見送ってから、山岳切支丹族のともがらも、祈祷いのりのちに、附近の山へちりぢりばらばら蜘蛛くもの子のように立ち去りました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
論より証拠はきのうの祈祷いのりじゃ。お前たちもお師匠さまと一つになって、悪魔調伏の祈祷をせられたが、あっぱれその効験しるしが見えましたか。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
急いで部屋を出て見ると、台所には震えながら祈祷いのりをあげている下宿の主婦かみさんがある。屋外そとには暗い空を仰いで稲妻いなずまのような探海燈の光を望む町の人達がある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お祈祷いのりも済んだし懺悔ざんげもしたし今日のお勤行つとめはつとめてしまったからそろそろ妾は寝ようかと思うよ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まろき大溪おほたにに沿ひて來れる民泣いて物言はず、足のはこびはこの世の祈祷いのりの行列に似たりき 七—九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それは私達の愛でした。神様の目に罪と見える私達の愛でした。更に祈祷いのりを捧げているうちに、何時のまにか死が逃げてしまったのです。私は死を否定して愛を——凡てを肯定する愛を
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「恐れ入りますが、食前のお祈祷いのりを貴方にお願ひしたいものですな。」
知りし愛の祈祷いのりをいつく時か
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
祈祷いのりのこゑと
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
「私が甲州へゆく途中で、やはり、こんな深い谷あいで、大勢のものが集まって、祈祷いのりをあげていたのを見たことがあるわ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間の霊魂を地の底から引き出して来るような笛の音。聞く人の心をせき立てて犯罪の庭へでも追いやるような、惨酷な調子の鉦の音……小声で唱える合唱の祈祷いのり
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もうどうしても猶予は出来ないので、信西入道と相談の上で、自分はきょうから身をきよめて七十日の祈祷いのりを行なうことにきめた。左大臣頼長ももちろん同意である。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夕方の静かな時に、捨吉は人の見ない玄関の畳の上にひざまずいた。唯独り寂しい祈祷いのりの気分に浸ろうとした。丁度そこへお婆さんが通りかかった。捨吉は頭を上げて見て思わず顔を真紅にした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
祈祷いのりに伏し沈む枳佐加比比賣の
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
この一団は人里をはなれたかかる山奥に来て、幕府がきびしく禁じている邪宗門じゃしゅうもん祈祷いのりを奉じているらしく想像されます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが解っているために妾の声はお祈祷いのりふるえ妾の眼は涙に濡れ……そうして妾の生涯は……
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
祈祷いのりあげよ』と星の
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「今がいままで、一のうちに祈祷いのりの鐘をならしていた伴天連バテレンがみょうなそぶりで、ご城内の要害ようがいをさぐり歩いているという小者の知らせでござります」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
! ……また打たれた! ……飛天夜叉組じゃ! ……いかにもそうじゃ! ……こうなっては法も祈祷いのりも! ……間に合わない! 間に合わない! ……どうしようぞ、範覚範覚!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いざ祈祷いのりをぞはえおほき
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
範宴は自分の行く末を照らすのりのようにそれを見ていた。彼の頬のくまが、赤くなすられていた。黙然もくねんと、火に対して、祈祷いのりと誓いをむすんでいた。すると——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや明瞭はっきりと云うのを聞けば、それは回教ふいふいきょう祈祷いのりであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
祈祷いのり永劫とは金泥こんでい
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
濠端ほりばたにたって、なにやら祈祷いのりをささげている伴天連をみかけて、美しい夫人が鋲乗物びょうのりものめさせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いぜんから高徳こうとくの聞えはあって、後醍醐に瑜伽灌頂ゆがかんちょうの法をさずけ、元弘の元年には、例の“中宮御産ごさん祈祷いのり”と称し、北条調伏ののろいを行ったかどで、硫黄島いおうじま流しとなった豪僧なのだ。