白々しろじろ)” の例文
銀行は窓も入口も、すっかりよろい戸がおろされて、三階だての前面が、まるで映画のスクリーンのように、白々しろじろと照らしだされていました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると彼の真後まうしろには、白々しろじろと尾を垂れた鶏が一羽、祭壇の上に胸を張ったまま、もう一度、夜でも明けたようにときをつくっているではないか?
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まだ山国は肌寒はださむい四月の中旬の、花ぐもりのしたゆうがた、白々しろじろと遠くぼやけた空の下を、川面かわづらに風のく道だけ細かいちりめん波を立てて
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白々しろじろとして、ぎんのペンセルのように、あまがわが、しんとした、よるそらながれて、そのはし地平線ちへいせんぼっしていました。
銀のペンセル (新字新仮名) / 小川未明(著)
山の端に立った俤びとは、白々しろじろとした掌をあげて、姫をさし招いたと覚えた。だが今、近々と見る其手は、海の渚の白玉のように、からびて寂しく、目にうつる。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
梨の花は濡れ光った葉の中で白々しろじろと咲いていた。そして、点燈夫は黙って次の家の方へ去っていった。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
肩を斜めに前へ落すと、そでの上へ、かいなすべつた、……月が投げたるダリヤの大輪おおりん白々しろじろと、揺れながらたわむれかゝる、羽交はがいの下を、軽く手に受け、すずしい目を、じっと合はせて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはから狻猊さんげいか何かの、黄金色きんだの翠色みどりだのの美しくいろえ造られたものだった。畳に置かれた白々しろじろとした紙の上に、小さな宝玩ほうがんは其の貴い輝きを煥発かんぱつした。女は其前に平伏ひれふしていた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
砂原すなはらのうへに白々しろじろにづるはしろがねすすきといふにし似たり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
しばらくののち、そこには絹を張ったような円錐形えんすいけいふくろが一つ、まばゆいほどもう白々しろじろと、真夏の日の光を照り返していた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ふゆは、広場ひろばつち白々しろじろとてらしていました。ただ、かみくずが、かぜにふかれて、そのうえをとんでいます。二人ふたりは、なにをかんがえているのか、ぼんやりと、まえほうをながめていました。
かざぐるま (新字新仮名) / 小川未明(著)
餌食が其の柔かな白々しろじろとした手足をいて、木の根の塗膳ぬりぜん錦手にしきで小皿盛こざらもりと成るまでは、精々せいぜい、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳おどりはねるまで、たのしませて置かねば成らん。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瓢箪へうたんなりの池も澄んでゐれば、築山つきやまの松の枝もしだれてゐた。栖鶴軒せいかくけん洗心亭せんしんてい、——さう云ふ四阿あづまやも残つてゐた。池のきはまる裏山の崖には、白々しろじろと滝も落ち続けてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、村々むらむらは、白々しろじろとしたゆき広野こうやなかに、くろくかすんでえました。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
磨出みがきだしたい月夜に、こまの手綱を切放きりはなされたように飛出とびだして行った時は、もうデロレンの高座は、消えたか、と跡もなく、後幕うしろまく一重ひとえ引いた、あたりの土塀の破目われめへ、白々しろじろと月が射した。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬のかかり白々しろじろと、中にも、円髷まるまげったその細面ほそおもて気高けだかく品の女性にょしょうの、もつれたびんの露ばかり、面婁おもやつれした横顔を、またたきもしないそうの瞳に宿した途端に、スーと下りて、板の間で
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし半町はんちょうほど逃げ延びると、わたしはある軒下のきしたに隠れながら、往来の前後を見廻しました。往来には夜目にも白々しろじろと、時々雪煙りがあがるほかには、どこにも動いているものは見えません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
色もなるほど白々しろじろとしたが、衣服の下に、一重ひとえか、小袖か、真白いきぬまといいる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桃色の小枕ふっくりとなまめかしいのに、白々しろじろと塔婆が一基(釈玉しゃくぎょく)——とだけうっすりと読まれるのを、面影に露呈あらわに枕させた。かしらさばいて、字にはらはらと黒髪は、かもじ三房みふさばかりふっさりと合せたのである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)