痙攣ひきつ)” の例文
キャラコさんが、そうたずねると、佐伯氏は、急にキュッとほほの肉を痙攣ひきつらせ、なんともいえない暗い顔をしておし黙ってしまった。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
正吉の手頸を掴んだお美津の手がわなわなとおののいていた。然しその眸子は、急に大胆に輝き、あかくしめった唇は物言いたげに痙攣ひきつった。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
将曹は、脣と、頬とを痙攣ひきつらせながら、人形と、箱とを、名越の前へ投げ出した。がちゃんと音がして——人形の片手がもげた。仙波が
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ろうのような頬を恐怖に痙攣ひきつらせて、眼ばかり異様に輝やく娘は、精も根も尽き果てたように、千種十次郎の胸にすがり付きます。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
大戸は開いてゐるので、風が吹きこみ、蒔の下半身から水がしたゝり、紫色にくろずんだ頬を固く痙攣ひきつつたまゝ速く荒い呼吸をしてゐた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
見よ、お由の顔! 歯を喰絞つて、眼を堅く閉ぢて、ピリピリと眼尻の筋肉にく痙攣ひきつけてゐる。髪は乱れたまま、衣服きものはだかつたまま……。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
町の医者は「それは潔癖症といって一種の精神病患者です」というが、病的というほどの痙攣ひきつって棘々とげとげした感じのものは持っていません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
俄かに渇きが湧いて、咽喉が痙攣ひきつるやうになつた。西大寺村はついそこに見える。私は痺れるやうな足を引摺つてとぼとぼと歩いて行つた。
旋風 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
何事が起って、何故体が痙攣ひきつったかは呑込めないが、とにかく自分じゃてそうもないので、抱き起して貰おうと思って火夫を呼びました。
師よ、唖の霊にかれたるわが子を御許に連れきたれり。霊いずこにても彼に憑けば、痙攣ひきつけ泡を吹き、歯を食いしばり、そして痩せ衰う。
それでもある時なぞは着いてすぐ玄関に舁ぎ据ゑた駕籠の、扉をあけて手から手へ渡されたばかりでもう蒼くなつて痙攣ひきつけて了つたさうである。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ムックリね起きた紋兵衛は、血走った眼をおどおどさせ、痙攣ひきつった唇を思うさま曲げ、手を胸の辺で掻きまくり、肩に大波を打たせたかと思うと
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よっぽど悪戯がきいたと見え、汗ばんだからだがびくびく痙攣ひきつりなかなか昂奮のおさまらぬ面持だった。馬勒くつわがとれ、くらもどこかへ落ちてしまっている。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
途方もないしかつらに顔を痙攣ひきつらせたりしながら笑いこけていると、スクルージの姪に当るその妻もまた彼と同様にきゃっきゃっと心から笑っていた。
縫い合わせた痕が醜く幾重にも痙攣ひきつって、ダブダブと皺がより、彎曲わんきょくしたくるぶしから土踏まずはこぶのように隆起して、さながら死んだふかの腹でも眺めているような
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
痙攣ひきつったように、ふるえだした。醜悪な顔が化物のようになり、むきだされた乱杭らんぐい歯が、ガチガチ、鳴る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そうして例の異様な微笑を左の眼の下に痙攣ひきつらせながら、依然として謹厳な口調で言葉を続けた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同じ立場たてばで、車をがらがらと引込んで休んだのは、やっぱり、今残る、あの、一軒家。しかも車から出る、と痙攣ひきつけて、大勢に抱え込まれて、お綾の膝に抱かれた処は。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫婦喧嘩は、始終の事で珍しくも無いが、殊更とりわけ此頃亭主が清元の稽古に往く師匠の延津のぶつ○とかいうひと可笑おかしいとかで盛に嫉妬やきもちを焼いては、揚句がヒステリーの発作で、痙攣ひきつける。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
左の脚の筋が痙攣ひきつつて、股と膝との関節に烈しい疼痛を覚えた。併しもう五六日で正月だといふ忙しい時分であつたので、私は黙つて、我慢しきれるだけ我慢しながら立ち働いた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
と云いかけて実親じつおやの無慈悲を思うも臓腑はらわたにえかえるほど忌々いま/\しく恨めしいので、唇が痙攣ひきつり、烟管きせるを持った手がぶる/″\ふるえますから、お柳は心配気に長二の顔を見詰めました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仰向にひっくり返って、息を喘ませながら、喉に火の玉でもつかえてるような風に、変梃な口の動かし方をして、しきりに神棚の方を指さした。その手はもう冷たく痙攣ひきつりかけていた。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いや、何しろフアイヤガンと銘打つてあるんですから、それ自身爆発することは確実ですよ。」博士は眼鏡の底から目縁の痙攣ひきつたやうな目を光らせながら、その若い刑事の顔を見たが
フアイヤ・ガン (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そして、「糠だ、糠だ!」と叫びながら、身体が痙攣ひきつるようにのた打ち廻った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
そして痙攣ひきつつたやうな声で、途切れ途切れに
道化芝居 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
唇が獨りでに痙攣ひきつつた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
痙攣ひきつる如く手を伸べぬ。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その唇は心の忿りをそのまま語るかのように痙攣ひきつっていた、……人々はその表情を見て、いずれも虚を衝かれたように膝を正した。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
癇の強い娘と見え、これを聞くと花は痙攣ひきつった顔になり、今にも卒倒するかと思われるような眼つきで真名古を見上げながら
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
口元が痙攣ひきつけてゐる。胸が死ぬ程苦しくなつて嘔氣はきけを催して來た。老い果てた心臟はどきり、どきり、と、不規則な鼓動を弱つた體に傳へた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
群衆はこれを取り巻いて騒然としており、子は痙攣ひきつけて泡を吹き、子の父はほとんど絶望にひんして叫んでいたのです。
継母の烈しい言葉の前に、関子はっと立ちすくみました。その顔は白粉おしろいの色が変るほど真っ蒼になって、美しい口許がピリッピリッと痙攣ひきつります。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そのしわだらけに痙攣ひきつった横顔を眺めながら、私は煙に捲かれたように茫然となっていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
死にかかつた小猫は痙攣ひきつるやうに後脚をびくびくふるはせて、真つ黒な頭を持ち上げようとしましたが、雑文ばかり流行はやつて、一向秀れた創作が出ないと言ふ批評家の言葉が耳に入つたものか
黒猫 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
最早何のじ恐れるところもない。不貞の妻に夫として当然の権利の行使をするのだ。妻に裏切られた憤りと忿懣に口もきけぬくらい顔を痙攣ひきつらせつつも、私は力強い男の怒りに満ちた声を出した。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
痙攣ひきつれるくちはし、光なくなやめるまなこ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちょっと触っただけで、昂奮して、眼のなかを白くして、痙攣ひきつけてしまうというすごい過敏ぶり……気が触れてるんじゃないかと思ったくらい。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
正陟の眠たげな調子がそこで変った、糸のように細かった眼がきらりと光り、たるんでいた頬がぴくぴくと痙攣ひきつった。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
口は蟇の樣に開けた儘、ピクリピクリと顏一體が痙攣ひきつけて兩側で不恰好に汗を握つた拳がブルブル顫へて居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
見ると若い親方は、眼を真白くなる程みはって、鏡の中の吾輩の顔を凝視している。ピリピリと動く細い眉。キリキリと冴え上っためじりゆが痙攣ひきつった唇。……吾輩の耳の蔭でワナワナと震える剃刀……。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
口はがまの様に開けた儘、ピクリピクリと顔一体が痙攣ひきつけて両側りやうわきで不恰好に汗を握つた拳がブルブル顫へて居る。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
舌が口の中に一杯になるほど膨れあがり、唇は芝蝦の子でも跳ねるようにピクピクと痙攣ひきつれる。断食も、苦行も、この誘惑から逃れさせる力を持っていない。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何かを! 見よ、彼の眉がきりきりと痙攣ひきつった。そして固く引結んだ唇に活々いきいきとした微笑ほほえみきざまれて来た。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同時にモウ一度、彼独特の物凄い笑いを、顔面に痙攣ひきつらせた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ギシ/\する茶壺の蓋を取つて、中蓋の取手に手を掛けると、其儘後藤君は凝乎じつと考へ込んで了つた。左の眉の根がピクリ、ピクリと神経的に痙攣ひきつけてゐる。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
然しその唇は感動を耐えるために痙攣ひきつっていた、「わたくしこそ、不束者ふつつかもので、色々と旦那さまの足手まといにばかりなっておりました、どうぞおゆるしあそばして……」
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひわと申すものは、日ごろから癇のつよい娘でございまして、よく痙攣ひきつけたり倒れたりいたします。
主人杉浦氏の小鬢こびんのあたりがあおくなり、右の頬がぴくっと痙攣ひきつった。癇が強そうだと思ったとおり、氏はその年齢と格式をもって抑えきれないほどの忿いかりを発した。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
沼田は片肌を脱ぎ、森川は立襟の洋服の釦を脱して風を入れ乍ら、乾き掛つた白粉で皮膚が痙攣ひきつる樣なのを氣にして、顏を妙にモグ/\さしたので、一同は又笑つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
狭山は沈鬱なようすでゆっくりと顔をあげると、唇の端をひきさげて眉の間を緊張させ、頬をピクピク痙攣ひきつらせながら、私の顔を正視したまま、頑固におし黙っている。
海豹島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)