疝気せんき)” の例文
旧字:疝氣
あるいは疝気せんきの気味にて、外出あいかなわず、まことに失礼ながら貴殿がかわって御使者におたちなされたと言われるのでござろう
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
殊に今は、疝気せんきを起こしているのだから、爺は、仕事への倦怠と、伜への憂慮との、この二つの間にもだもだしているのである。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
お客さまのうちにはよくほたるを啼けとか、疝気せんきの虫を啼けとかいう註文が出ますが、それはわたくし以上の天才にもおそらくできますまい。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
急にあわせが欲しいほどに涼しくなって、疝気せんきもちの用人はもう温石おんじゃくを買いにやったなどといって、蔭で若侍たちに笑われていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近隣の人も、さては家屋敷に因縁があったのだろうとうわさしていたが、中には行くさきざきまで気遣って、人の疝気せんきに気をもむ連中も少なくなかった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
若い時分から疝気せんきなら何処どこいとか歯の痛いのには此処こゝいとか聞いてるから据えて遣ると、むこうから名を附けて観音様の御夢想ごむそうだなぞと云って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それがいけないんで、仁三郎さん。お互に年は取りたくないネ。持病の疝気せんきこうじて、近頃は腰も切れない始末さ。気ばかり若くたって、もういけねえ」
道化役者が疝気せんきの発作におそわれればその派手な衣裳もその病苦をあらわすにちがいないし、兵士が砲弾にちあてられればぼろも紫衣のけだかさをもつであろう。
さればかの迂儒うじゅの眼中より見ればほとんど理由もなく因縁もなく、他人の疝気せんきを頭痛に病むの類たるがごとく、実に咄々とつとつ怪事のごとしといえども、決してしからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一昨日おとつい昇に誘引さそわれた時既にキッパリことわッて行かぬと決心したからは、人が騒ごうが騒ぐまいが隣家となり疝気せんき関繋かけかまいのないはなし、ズット澄していられそうなもののさて居られぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そのなかで疝気せんきの湯がいちばん熱く、綿の湯というのが名前の如く、やわらかくてぬるいことになっているが、それは盛りの時分のことで、今はどれも同じようなもので
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そこが胃だあな。左が胃で、右が肺だよ」「そうかな、おらあまた胃はここいらかと思った」と今度は腰の辺をたたいて見せると、金さんは「そりゃ疝気せんきだあね」と云った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
原武太夫はらぶだゆうが宝暦末年の劇壇をののしり、享保の芸風を追慕してまざりし『となり疝気せんき』または手柄岡持てがらのおかもちが壮時の見聞けんぶんを手記したる『あと昔物語むかしものがたり』等をひもときて年々の評判記と合せ読み
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
来やがった、来やがった、陽気が悪いとおもったい! おらもどうも疝気せんきがきざした。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「先生、うか御戯談ごぜうだんおつしやらないで下さい。私は疝気せんきを病んでるんですから。」
さればとて古い人を新らしく捏直こねなおして、何の拠り処もなく自分勝手の糸を疝気せんき筋に引張りまわして変な牽糸傀儡あやつりにんぎょうを働かせ、芸術家らしく乙に澄ますのなぞは、地下の枯骨に気の毒で出来ない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一種強烈なる芳香を有し、駆虫くちゅう袪痰きょたん、健胃剤となる。また芳香を有するがため、嬌臭きょうしゅう及び嬌味薬となる、あるいは種子を酒に浸し、飲用すれば疝気せんきに効あり。茴香精、茴香油、茴香水を採録す
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
阿倍仲麻呂あべのなかまろが、たった一つ和歌を作っただけであるのに、その一つを、疝気せんき持ちの定家さだいえ引奪ひったくられ、後世「かるた」というものとなって、顔の黄ろい女学生の口にかかって永久に恥をさらして居る。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
中川君、茄子というものは全体人の身体からだくすりだろうかあるいは毒だろうか、よく世間では毒なもののように言って夏中茄子を食べないと冬になって風邪かぜかないとか疝気せんきが起らないとかいうね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あたかもそのかみの歌舞伎女形、「疝気せんきをもしゃくにしておく女形」
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「行というのは、まあ、たいていこうしたものなんでしょうが、でも、こんなところに坐っていると冷えこんで疝気せんきが起きますぜ。……いったい、どういう心願でこんなところにへたりこんでいるんですか」
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ようよう、眼もと千両ときたな、本気も疝気せんきも脚気もねえ、十八万六千石の若殿さまだ、いいからぐっといきねえ、明日の朝あたまが痛えなんという酒じゃねえなだの生一本、おまけに勘定つけの心配がねえとくるから安心だ」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あまり威張ったことじゃないよ——俺はもう疝気せんき喘息ぜんそくが起きそうでとてもかなわないから、何が何んでも帰るよ
仰向あおむけに寝たらば楽になるかと思うと、疝気せんきが痛くなったりしていけませんから、廊下へ出ておどったらかろうというように、実に人は苦の初めを楽しむと云って
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
呼べど叫べど答ざれば、「老爺おやじめ、また疝気せんきでも起しおったな。」走出でて門を開けばはや往来には人の山、津浪のごとく流込むに、「こりゃ何事じゃ。」と執事はきょろきょろ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引っ張られたのは初さんに引っ張られたのかと思う読者もあるかもしれないが、そうじゃない。そう云う気分が起ったんで、強いて形容すれば、疝気せんきに引っ張られたとでもじょしたら善かろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それをまた例の福本日南が、頭の禿に触られでもしたかのやうに博士につてかゝつて、往時むかしの事を疝気せんきに病むよりは、いつそ博士の育てた高等遊民の救済法でも考へたがよからうと口をとがらせた。
その証拠に殆んど過半は痔持ち疝気せんき持ちです。アハハ
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
雑司ヶ谷の荒物屋の利八という親爺おやじがある。寅旦那にひどい眼に逢わされたとかで、いつかはきっと殺してやると触れ廻しているが、その晩は疝気せんきを起して早寝を
なにひとはね疝気せんきおこつていけないツてえから、わたしがアノそれは薬を飲んだつて無益むだでございます、仰向あふむけにて、脇差わきざし小柄こづかはらの上にのつけてお置きなさいとつたんで。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただ気をつけてしかるべき事は、自分の心的状態がまだそんな廻り合せにならないのに、人の因果を身に引き受けて、やきもきあせるのは、多少ひと疝気せんきを頭痛に病むのかたむきがあるように思います。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ムヽウ禁厭まじなひかい。弥「疝気せんき小柄こづかぱら(千じゆ小塚原こづかつぱら)とつたらおこりやアがつた、あとから芳蔵よしざうむすめ労症らうしやうだてえから、南瓜たうなす胡麻汁ごまじるへつてえました。長「なんだい、それは。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「音羽の荒物屋の利八は疝気せんきが起きて早寝をしたのは本当で、音羽の本道(内科医)が言うんだから嘘じゃないでしょう。——あの晩の容体じゃ、便所へ行くのも難儀だったにちげえねえって」
いやもうわしは酒は飲まず、ほかたのしみも無いので、まア甘い物でも食い、茶の一杯も飲むくらいが何よりの楽み、それに私はまア此の疝気せんきが有るので、疝気を揉まれる心持はこたえられぬて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また此の重三郎の親父は梨子売を致す重助と申す者で、川崎在の羽根田村に身貧に暮して居りまするが、去年の暮から年のせえか致して寒気さむさあたる、疝気せんきが起ったと見えまして寝て居ります。
家根やねの上に葮簀よしずが掛って居て、其処に看板が出てあったよ、癪だの寸白疝気せんきなぞに利くなんとか云う丸薬で、黒丸子くろがんじの様なもので苦い薬で、だらすけみたいなもので、癪には能く利くよ、お前ねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)