猿轡さるぐつわ)” の例文
こちとらの大家さんが高い家賃を取上げてたまさかに一杯飲ます、こりゃ何もなさけじゃねえ、いわば口塞くちふさぎ賄賂まいないさ、うらみを聞くまいための猿轡さるぐつわだ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
教授に逢って二三世間話をし、その間に貴様が教授の声色こわいろや癖を研究する。それから突然二人で教授を縛り上げて猿轡さるぐつわをかませる。
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と驚くすきもありません。やうやく解いてもらつた繩をもう一度掛け直したばかりでなく、今度は念入りに猿轡さるぐつわまで噛ませて引摺り上げます。
川手氏は長椅子に横たわったまま、身体中をグルグル巻きにされて、固く長椅子にしばりつけられていた。その上、口には厳重な猿轡さるぐつわだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
クラネクとベルセネフの二人は、猿轡さるぐつわをかまし両手を縛った女を林の中へ運んで往った。女はベルセネフの肩にかつがれていた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私は先刻さっき、被告人に有利に疑を挿んだ時申す事を落しましたが、道子が猿轡さるぐつわようのものをはめられて居た形跡はまったくなかったのです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
早く云うと、帆村君は、紅子を昏睡こんすい状態に陥し入れ、その側へ、猿轡さるぐつわをした鬼川を連れて来、紅子を通じて、鬼川の秘密を探らせたのです
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
範覚のやった所業しわざなのであろう、両手両膝をしばられて、猿轡さるぐつわまでかまされた浮藻の姿が、痛々しくその奥に横仆よこたわっていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして、その肉体は明らかに「強制的の結婚」によって蹂躙じゅうりんされていることが、その唇を隈取っている猿轡さるぐつわ瘢痕あとでも察しられるのでした。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
辰馬久は目隠しをされ、猿轡さるぐつわをはめられ、両手を縛られていた。シークな彼が、この時位物哀れに見えたことはなかった。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
まさか、父親の圭一郎を投げ倒して猿轡さるぐつわをかませ、眼球が飛び出すほど喉吭のどぶえを締めつけるやうなことはしもしないだらうが。彼は氣が銷沈した。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
金庫のそばには、五十四五位に見える、痩形の、顔面骨がんめんこつの尖った、前頭部の禿あがった男が、両手をしばられ、猿轡さるぐつわをはめられて倒れていました。
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「あの女が、おれのことばに、なんというかあわからないが、もしジタバタするようだったら、猿轡さるぐつわにかごという支度よりほか仕方があるまいな」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云う者がある、——見ると、後手にいましめられたまま、猿轡さるぐつわを外して、髪を振乱した女……思いもかけぬ町であった。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、小門の入口のところで二人の巡査が目隠しをされ、猿轡さるぐつわを嵌められて、細縄で縛られているのを見つけた。
そこへ善兵衛も上がって来まして、泣き声が近所へきこえては悪いというので、お定に猿轡さるぐつわをはませて、押入れのなかへ監禁してしまったのでございます。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つと侍が身をどかすと、狭い一間の行燈のそばに、閑山と飯たき久七、二人ともぎりぎりにしばり上げられて、おまけに猿轡さるぐつわをかまされてころがっている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
猿轡さるぐつわと申して口の中へ何か小さい片布きれを押込み、其の上を手拭にて堅くしばり、島田髷はガックリと横に曲り、涙が伝わって襦袢の半襟が濡れて居りまする。
息子は、信じなかったけれ共、あんまりせめられ様がひどいので、取りのぼせて、自分で猿轡さるぐつわをはめて、姑の床のすぐ目の前で、夜中に喉をついて仕舞った。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
まず、醜言症を聴かせぬためマヌエラには猿轡さるぐつわをし、ドドを連れて、そっと一同が小屋を忍びでたのである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
手足こそ縛られているけれども、いっこう猿轡さるぐつわめられた模様もないのに、口を利かないのはなぜだろう。
遠くにあって、猿轡さるぐつわをはめられ、手足を縛られ、痲痺まひしてるようだった。その力が何を望んでいるのか、やがて何になろうとするのか、彼には想像もつかなかった。
「どれ、俺は出掛けるとしよう。俺が帰って来るまで昼寝でもしているが可い」といいながら、手早くビアトレスに猿轡さるぐつわをはめて、部屋に続いた奥の寝室へ引立てた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
すっぼり頭からくるんどかないと、今日びの物々しい戒厳では、一寸、仕事がむずかしいからな。あのカーキ服の歩哨に猿轡さるぐつわをはめた女が見つかった日にゃ最後だよ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
うさんなやつらに取り巻かれた時にゃあ、少しは騒ぎ立てるのがあたりまえだ。お前さんが声を立てたにしろ、それでどうしようっていうんじゃねえ。猿轡さるぐつわさえもはめはしねえ。
そうして彼が大声をあげないさきに猿轡さるぐつわをはめて、寝台の下にしばりつけてしまった。医者はデッキへ通じるドアを鍵をかけないでおいたので、私たちはそこを通って躍り出した。
見るに身は細引ほそびきにて縛られ口には猿轡をはめてあり友次郎は見も悼ましくまづしばりし繩を解捨ときすて猿轡さるぐつわをものくるにとく手遲しとお花は友次郎に抱付いだきつき流石さすがに餘處を兼しか聲をも立ず泣けるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
迷亭の駄弁もこれで一段落を告げたから、もうやめるかと思いのほか、先生は猿轡さるぐつわでもめられないうちはとうてい黙っている事が出来ぬたちと見えて、また次のような事をしゃべり出した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お望みとあらば太洋に猿轡さるぐつわかませたまふもままなのを気が付かないで。
たつ奴も立つ奴も中止——中止——口に猿轡さるぐつわをかませるのだ
死ぬる迄土地を守るのだ (新字新仮名) / 今村恒夫(著)
「栄ちゃん、此奴の帯を解いて猿轡さるぐつわを篏めておやり」
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これが私を殺すのです——と云って、置処おきどころのなさそうな顔をそむける。猿轡さるぐつわとか云うものより見ても可哀あわれなその面縛めんばくした罪のありさまに
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男がやゝ氣を取直したときは、自分の帶でメチヤ/\に縛られ、丁寧に猿轡さるぐつわまで噛まされて、林の中の薪小屋に抛り込まれて居りました。
当夜とうや例のとおり、研究室内に泊っていた筈だが、どうしていたかと云うと、赤外線男のために、もろくも猿轡さるぐつわをはめられ両手をうしろしばられて
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おお、そこに猿轡さるぐつわをかけられて、いましめられている女の影は、まさしく、あの夜から行方の知れなくなったお延である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろ手に縛りあげ、猿轡さるぐつわませた渡辺蔵人をれ、万三郎はかよを抱いていた。伝次や秀と交代しながら、ずっとそうして抱いて来たのであった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夕方叔父の屋敷から出て、隅田の流れを見ていると、突然背後から猿轡さるぐつわを噛まされ、おりから走って来た駕籠に乗せられ、誘拐されたということである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全身をぐるぐる捲きに縛られた上に、顔全体を隠す様な、はばの広い布の目隠しをされ、猿轡さるぐつわさえはめられている。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
銀次の背中には、細引でグルグル巻にして、黒い覆面で猿轡さるぐつわをはめた小女をかついでいたが、そのまま月の沈んだ薄あかりの道をスタスタと町の方へ急いだ。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は子供をしっかと上衣うわぎくるんで、ひしと抱きしめながら、絹半巾きぬハンケチを丸めて早速の猿轡さるぐつわとし三階へ駈け上った。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
裏口の戸を叩いたのは浅井の仲間か手下で、なに心なく出て行ったお角さんに猿轡さるぐつわでも嵌めて担ぎ出したのでしょう。お豊さんの方は運よく助かったわけです。
怪談一夜草紙 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小田刑事は、思わず「あッ」と叫んで、二人のそばにかけより、二人の縄を解き、猿轡さるぐつわをはずしました。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
其の次の間に、年齢十六七の娘が縛られ、猿轡さるぐつわをかけられて声も出す事が出来ませんで、唯涙をはら/\こぼして、島田髷を振りみだし、殊にあわれな姿でおります。
猿轡さるぐつわをはめられて、引転がされているところに、頬冠ほおかむりした二人の兇漢が、長いのを畳へつきさして、胡坐あぐらを組んで脅迫のていは、物の本などで見る通りの狼藉ろうぜきです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
島田家の物置から、ほんものの甲刑事が後ろ手にしばられて、猿轡さるぐつわをはめられて発見されたという報告が、溝川署へついたのは、それから五分もたたぬうちでありました。
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
手足を縛られ猿轡さるぐつわをはめられておぼらせられてるかのようで、身をもがいてはまた底のほうへ沈んでいった。——ついに夜明けとなった。雨の日の遅々とした灰色のあけぼのだった。
「やかましい」と怒鳴りつけて、それからみんなに、「さあ、猿轡さるぐつわをはめさっしゃい」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
哀れな奴等の猿轡さるぐつわ
歩哨戦 (新字新仮名) / 今村恒夫(著)
「内君、いろいろなことを言ってきのどくだけれど、私の出たあとで声を立てるといけないから、少しの間だ、猿轡さるぐつわめてておくれ」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土蔵のツイ側、ガラクタを入れた物置のはりに、両腕を縛った上、猿轡さるぐつわまで噛まされた十五六の娘が、高々と吊されているのです。