燕子花かきつばた)” の例文
小川が一筋流れていて、燕子花かきつばたの花が咲いていた。と、小枝は手を延ばしたが、長目に燕子花の花を折った。と、小枝は唄い出した。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
保吉はばらせんを探りながら、「たけくらべ」、乙鳥口つばくろぐちの風呂敷包み、燕子花かきつばた、両国、鏑木清方かぶらぎきよかた、——その外いろいろのものを思ひ出した。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
風情ふぜい一段いちだんで、みぎはには、所々ところ/″\たけひく燕子花かきつばたの、むらさきはなまじつて、あち此方こちまたりんづゝ、言交いひかはしたやうに、しろはなまじつてく……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
濁江の水に材木がひたしてある。浮ぶともなく浮んでいるその材木の陰に、燕子花かきつばたの花が咲いている、というのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しかしちょうど、中門の上の新陰堂の池のほとりには、燕子花かきつばたがさいているし、山つつじの花もぼつぼつ紅くなっている。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
某が刀は違棚ちがいだなの下なる刀掛に掛けあり、手近なる所には何物も無之故、折しも五月の事なれば、燕子花かきつばたを活けありたる唐金からかねの花瓶をつかみて受留め、飛びしざりて刀を取り、抜合せ
日本家屋の脊梁は多くの場合に於て、精巧な建造物である。編み合わした藁から植物が生える。時に空色の燕子花かきつばたが、美事な王冠をなして、完全に脊梁を被っているのを見ることもある。
射干ひあふぎにも似、菖蒲あやめにも似たる葉のさま、燕子花かきつばたに似たる花のかたち、取り出でゝ云ふべきものにもあらねど、さて捨てがたき風情あり。雨の後など古き茅屋かややの棟に咲ける、おもしろからずや。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
取りえずその花を下げたあとへ、水盤に燕子花かきつばた姫百合ひめゆりとを配して持って来たが、幸子はそれさえ重苦しく感じて、いっそ何もなしにして貰い、せいせいするような歌の掛軸をでもと夫に頼んで
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
広沢や一輪見ゆる燕子花かきつばた 蒼虬
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
つま妻鳥めどり燕子花かきつばた
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
丁度ちやうどわたしみぎはに、朽木くちきのやうにつて、ぬましづんで、裂目さけめ燕子花かきつばたかげし、やぶれたそこ中空なかぞらくも往來ゆききする小舟こぶねかたちえました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
燕子花かきつばたさく八橋も、渡れば渡る渡りがね、そこへあとから追って来た、業平朝臣なりひらあそん狩衣かりぎぬや、オーイ、オーイと呼びかける
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
園丁に牡丹をらせたり藤の花の大きな鉢を抱えさせて、なお去りがてに、躑躅つつじ燕子花かきつばたのあいだを逍遥している金髪美人や同伴の老紳士といったような外人達には
彼等の詩的恋愛は未だに燕子花かきつばたのやうに匂やかである。クリストは度たび彼女を見ることに彼の寂しさを慰めたであらう。後代は、——或は後代の男子たちは彼等の詩的恋愛に冷淡だつた。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これは「雨の日や門提て行かきつばた」という信徳の句に対したので、単に燕子花かきつばたを提げて通るというだけの景色に、「簾まけ」の一語によって山を作ったのが、其角一流の手段なのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
つま妻鳥めどり燕子花かきつばた
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこンとこは梅林で、上の山が桜の名所で、その下に桃谷というのがあって、谷間たにあい小流こながれには、菖蒲あやめ燕子花かきつばたが一杯咲く。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夏水仙や金盞花きんせんか突羽根草つくばねそう燕子花かきつばた、小川のふちには雪かとばかりの花が白々と乱れている。遠く見渡せば丘をめぐって焔のような躑躅つつじの花が燃え立つばかりに咲いている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこンとこ梅林ばいりんうへやまさくら名所めいしよで、そのした桃谷もゝたにといふのがあつて、谷間たにあひ小流こながれには、菖浦あやめ燕子花かきつばた一杯いつぱいく。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは初夏のことでありまして、河の両岸には名に高い、燕子花かきつばたの花が咲いていました。
真間の手古奈 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土地の故参で年上でも、花菖蒲はなあやめ燕子花かきつばた、同じ流れの色である。……生意気盛りが、我慢も意地も無いまでに、身を投げ掛けたは、よくせき、と清葉はしみじみ可哀あわれに思った。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御歯黒蜻蛉おはぐろとんぼが、鉄漿かねつけた女房にょうぼの、かすかな夢の影らしく、ひら/\と一つ、葉ばかりの燕子花かきつばたを伝つて飛ぶのが、此のあたり御殿女中の逍遙しょうようした昔の幻を、さびしく描いて、都を出た日
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やなぎおくに、けて、ちひさな葭簀張よしずばり茶店ちやみせえて、よこ街道かいだう、すぐに水田みづたで、水田みづたのへりのながれにも、はら/\燕子花かきつばたいてます。はうは、薄碧うすあをい、眉毛まゆげのやうな遠山とほやまでした。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御歯黒おはぐろ蜻蛉とんぼが、鉄漿かねつけた女房にょうぼの、かすかな夢の影らしく、ひらひらと一つ、葉ばかりの燕子花かきつばたを伝って飛ぶのが、このあたりの御殿女中の逍遥しょうようした昔の幻を、寂しく描いて、都を出た日
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)