をとこ)” の例文
板橋は無邪気なをとこで、薬取の任を帯る毎に、途次親戚朋友の家を歴訪して馬牛の襟裾きんきよを誇つたさうである。松田氏の云ふを聞くに、細川家も亦柏軒の病家であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
着せたるをとこ六個むたりかつがせ音羽へ至り路次口にまたせ置つゝ進入り昨日きのふれいのべたる上𫥇人なかうどを立て良辰よきひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、そばへもせぬ下働したばたらきをとこなれば、つるぎ此處こゝにありながら、ことともぞんぜなんだ。……成程なるほどべ、と給仕きふじつて、鸚鵡あうむこれへ、といそいでぢやうに、で、こしもとたせたのよ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
をとこ自分じぶんのかたる浄瑠璃じやうるりに、さもじやうがうつったやうな身振みぶりをして人形にんぎやうをつかつてゐました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
ういふふうところからラクダルの怠惰屋なまけや國内こくない一般いつぱん評判ひやうばんものとなり、人々ひと/″\何時いつしかこのをとこ仙人せんにん一人ひとりにしてしまひ、女はこの庄園しやうゑんそばとほる時など被面衣かつぎの下でコソ/\とうはさしてゆく
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
佛蘭西人フランスじんだアルゼリヤをおかさない數年前すねんぜんに此ブリダアのまちにラクダルといふひとんでたが、これは又たたいした豪物えらぶつで、ブリダアの人々から『怠惰屋なまけや』といふ綽名あだなつてをとこ
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
四十ばかりのをとこでした、あたまには浅黄あさぎのヅキンをかぶり、には墨染すみぞめのキモノをつけ、あしもカウカケにつヽんでゐました、そのは、とほくにあをうみをおもはせるやうにかヾやいてゐました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
然るに自分は労を憚らずして往く。是は確に先生の一讚詞に値するとおもつた。さて事果てて後、還つて先生を見ると、先生は色よろこばざる如くであつた。そしてかう云つた。足下は無情なをとこだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なんと、棕櫚しゆろのみところに、一人ひとりちひさい、めじりほゝ垂下たれさがつた、青膨あをぶくれの、土袋どぶつで、肥張でつぷり五十ごじふ恰好かつかうの、頤鬚あごひげはやした、をとこつてるぢやありませんか。なにものともれない。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
このをとこくらべると流石さすがのブリダアの市人まちびと餘程よほど勤勉きんべんたみはんければならない、にしろラクダルのえら證據しようこは『怠惰屋なまけや』といふ一個ひとつ屋號やがうつくつてしまつたのでも了解わかる、綉工ぬひはくやとか珈琲屋かうひいやとか
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)