某日あるひ)” の例文
某日あるひそれは晴れた秋の午後であった。雑木の紅葉した山裾を廻ってある谷へ往った。薩摩藷などを植えた切畑が谷の入口に見えていた。
忘恩 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから十年ほど経つうちに、お杉の家は死絶しにたえてしまった。二人の名も大方忘れられてしまった。しかるに某日あるひのこと、樵夫きこりが山稼ぎに出かけると、の虎ヶ窟の中から白い煙の細くあがるのを見た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甲斐かいの国を遍歴している時、某日あるひある岩山の間で日が暮れた。そこで怪量は恰好かっこうな場所を見つけて、おいをおろして横になった。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それによると平左衛門のめかけのおくにが、某日あるひ新三郎が死んだと云ってお露を欺したので、お露はそれをに受けて尼になると言いだしたが
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ住持は檀家だんか待夜たいやに招かれたので、名音も其の供をしてったが、意外に手間取って帰ったのは夜の十二時過ぎであった。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は某日あるひ袞繍橋こんしゅうきょうに住んでいる朋友ともだちのことを思い出して訪ねて往った。朋友は久しぶりに訪ねて来た喬生をめて酒を出した。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ黄昏ゆうぐれ隣村から帰っていた村の女の一人は、眼も鼻もない怪人のことが気になるのでこわごわ歩いていると、前を一人の女が往っている。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「私は、家にいると、某日あるひ、背の高い坊主が来て、私を睨んだことをおぼえておりますが、それからは、何をしていたやらさっぱり判りません」
怪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひのことであった。兼五郎の細君さいくんが台所で飯をいていると、突然釜がふわりふわりと天井の方へあがりはじめた。これには女房も蒼くなって
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
五月雨のころは過ぎて世は七月の暑い世界となった。某日あるひの夕方平太郎と権八の二人は、二筋川の方へ納凉に往っていた。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其の客が某日あるひ校書げいしゃを伴れて見物に来ていたが、芝居がはねると喜多村さんを伴れて、いっしょにとんだ屋へ往って飯をうことになったところで
とんだ屋の客 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひお岩が庖厨かっての庭にいると、煙草屋たばこや茂助もすけと云う刻み煙草を売る男が入って来た。この茂助はお岩の家へも商いに来ていたのでお岩とも親しかった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ隣の友達と裏の田圃たんぼへ出て、虎杖いたどりを採って遊んでいると、どこからともなく六十位の優しそうな老人が来て
虎杖採り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひの夕方、村の女の一人がその三味線松の下を通っていると、すぐ前に女が歩いている。村の女はれが見つかったので喜んで傍へ往き、土地のことば
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
上州じょうしゅう田舎いなかの話である。某日あるひの夕方、一人の農夫が畑から帰っていた。それはの長いくわを肩にして、雁首がんくび蛇腹じゃばらのように叩きつぶした煙管きせるをくわえていた。
棄轎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其の老人が某日あるひ物置の庭で、繩を綯いながら話してくれた話は、老人がじぶんで知っている話か、それとも何か書物にでもあった話か其処は私には判りません。
死人の手 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは五月雨の降るころであった。侘しい雨が毎日降っていた。某日あるひ平太郎は雨の間を見て隣家へ遊びに往った。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひそのかんかん岩へ遊びに往って、天狗に投げられたと云って頭の怪我を見せて、「白兎が、早う返れ返れと云うてくれたと云うが、俺には見えざった」
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と云って夜となく昼となく其の附近を狂い歩いていたが、某日あるひ、村の農夫が亀ヶ淵へ往ってみると、そこには青ずんだ水の上に、お千世の死体が浮いていた。
亀の子を握ったまま (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
丹治が怪異にった噂は何時いつの間にか知人の間にひろまった。土佐藩の有志で有名な小南こみなみ五郎右衛門は、某日あるひみちで丹治に会うとその実否じっぴをたしかめようとした。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ、その日は酒と肴を持って廷章の家へ往ったところで、廷章は野良へ往って留守であった。南は一人で酒を飲みながら機会を待っていた。少女は傍へ来た。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ張は、其の人蔘を尋ねて深い山の中へ入って往きました。そして朝から晩まで彼方此方と尋ねましたが、そんなよい人蔘が直ぐ見つかるものではありません。
人蔘の精 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鎌倉の八幡宮の前にあったあの雪の下の饅頭屋まんじゅうやへ、某日あるひ二通の書翰しょかんが届いた。一通は横浜のの女の家から来た書翰で、一通は佐倉に居る××君の書翰であった。
二通の書翰 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三たび目の野草やそうの花が咲いた。彼は某日あるひ水を飲むために谷川の岸に出た。狭い流れではあるが滝のように流れ落ちる水が岩にぶっつかってすさまじい光景を呈していた。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひその主人は、何か好い獲物はいないだろうかと思って、鉄砲を手にしながら樽の滝へ往った。そして、杉の樹の森々と茂った瀑の横から瀑壺の方へおりて往った。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その来宮様は、某日あるひ例によってしたたか酒を飲んで帰って来た。その時は師走しわすの寒い日であったが、酒で体が温まってほかほかしているので、寒さなどは覚えなかった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ其の長者の家へ、穢いなりをした旅僧が錫杖を鳴らしながら来て手にした鉄鉢をさし出して
長者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
N大尉は非常によろこんで、それから毎日のように二人で練習飛行を行ったが、某日あるひN大尉が練習を終って兵舎へ帰って汗を拭いていると、練習生の一人が飛びこんできた。
空中に消えた兵曹 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
神職講習会へ来ていた備前びぜん国幣中社安仁こくへいちゅうしゃやすひと神社の禰宜太美万彦ねぎふとみのよろずひこと云う者が、某日あるひ一人のつれとともにやって来た。万彦は宮地翁の机の傍にあった神仙記伝の原稿に眼をけた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主翁ていしゅはこう云ってじょちゅう口留くちどめをしたが、どうしても不思議でたまらないので、某日あるひ、この土地に昔から住んでいると云う按摩あんまを呼んだ時に、肩をんでもらいながら聞いてみた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ新一は、やはりその怪しい獣のことを考えながら、往くともなしに寺の卵塔場の中へ入って往った。それは風のない夕方のことで夕陽が微赤い光をそのあたりに投げていた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蔦芳は中村座の開場が近くなったので、毎日吉原から通っていたが、某日あるひ浴衣ゆかたが汗になったので、更衣きがえするつもりで二階の昇口あがりぐちったところで、わかい男が梯子段はしごだんへ腰をかけていた。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僧は十日ばかりも続けて来たが、某日あるひ用事でも出来たのか待っていても来なかった。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
秋の収穫が目前に迫った某日あるひのこと、位牌田の隣の田を作っていた農夫が、ひるになって弁当をうつもりで、そこの畦径あぜみちへ腰をおろして、何の気なしに位牌田の方へ眼をやったところで
位牌田 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
房州の海岸に一人のわかい漁師が住んでいた。某日あるひその漁師の女房が嬰児あかんぼの守をしながら夕飯の準備したくをしていると、表へどこからともなく薄汚い坊主が来て、家の中をじろじろと覗き込んだ。
海坊主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
沼津で歿くなった際、形見として弟子の中川海老蔵に与えたが、海老蔵は昭和五年の秋、女房に逃げられて、その苦悩のうちに病気になり、久しく病床に呻吟しんぎんしていたが、某日あるひ杖にすがって
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その美貌の青年が某日あるひ、晋の都となっている洛陽の郊外を歩いていた。上官の命令で巡回していたか、それとも金の工面くめんに往っていたか、それは解らないがとにかく郊外の小路を歩いていると
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ豊雄が店にいると、都の人の忍びのもうでと見えて、いとよろしき女が少女を伴れて薫物たきものを買いに来た。少女は豊雄を見て、「吾君わがきみのここにいますは」と云った。それは真女児の一行であった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三左衛門は何時いつも僧ばかりに来て貰ってもすまないように思うし、それにその僧がどんな生活をしているかそれも見たいので、己の方からも一度僧のもとへ往こうと思って某日あるひそれを云ってみた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ五明楼玉輔ごめいろうたますけが人形町の末広亭から岡吉へ往って、木戸から客席の庭を通って楽屋の方へ往こうとしたところで、縁側の障子の外に微汚いよれよれの法衣をた男がしょんぼりと坐っていた。
寄席の没落 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その嬰児の死んだ噂の消えた時分のこと、それは事件の起った時からどれ位時間の隔たりがあったか判らないが、某日あるひの夕方、私は二三人の少年仲間とすぐ近くの畳屋と云う家の庭で遊んでいた。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宣揚が山へ登ったのは晩春のころであった。そして、暑い夏を送って秋になると、夫人にいたくなってってもいてもいられなくなったので、父母をせいすると云う名目をこしらえて某日あるひ山をおりた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
愚僧がまだ沙弥しゃみであったころ、一疋の雌猿を養うていたが、某日あるひ、玄宗皇帝の勅使高力士こうりきしがこの寺へ来て、その猿の敏捷なのを見て、絹を代りに置いて猿を携え往き、それを玄宗に奉ったところが
碧玉の環飾 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひ彼女と良人おっととの間に、平生いつものような口論があった結果あげく、彼女は良人になぐりつけられた腹立ちまぎれに、家を飛び出して其の夜は寺へ泊ってしまった。翌日うちへ帰ってみると家は空家になっていた。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は麦倉邸の妖怪の噂を聞いたので、某日あるひ平太郎の前へ往って
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
某日あるひむすめは南の耳に囁いた。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)