村雨むらさめ)” の例文
一通りの調べが濟んで歸らうとすると、檢死に立會つた、同心長谷部彌三郎が、老巧らうかうの目明し、村雨むらさめてつをつれて、淺野屋をのぞきました。
久保田万太郎氏が『さんうてい夜話』で書いていられる野村の村雨むらさめのくすぐりも聴かれ、すべて古風でなつかしいものでした。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
屋根へ手をかけそうな大蛸おおだこが居るかと思うと、腰蓑こしみの村雨むらさめが隣の店に立っているか、下駄屋にまで飾ったな。みんな極彩色だね。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一曲いつきよく舞ひ納む春鶯囀しゆんあうてん、細きは珊瑚を碎く一雨の曲、風に靡けるさゝがにの絲輕く、太きは瀧津瀬たきつせの鳴り渡る千萬の聲、落葉おちばかげ村雨むらさめひゞきおもし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そののち、六郎が切通きりどおしの坂を通って、新しい堂の前に往くと、きっと、村雨むらさめが降って来たり、旋風つむじかぜが吹き起ったりした。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急がずば湿れざらましを旅人の、あとより晴るる野路の村雨むらさめ——太田道灌おおたどうかんよく詠んだとは、まったく此の事であった。近年こんな夕立はめったにない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神田祭の晩肌守はだまもりに「野路のじ村雨むらさめ」のゆかたで喉をきかせた時だったと云うが、この頃はめっきり老いこんで、すきな歌沢もめったにうたわなくなったし
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お三輪は結いたてのうつくしい島田で彼のところへも挨拶あいさつに来て、紅白の紙に載せた野村の村雨むらさめを置いて行った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村雨むらさめの時節がやって来た。雲が小暗おぐらく流れて来たかと思うと少しのこらえもなくすぐにばらばらと降りこぼれた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
さては村雨むらさめの通つたのか。何となくあかるいぞ。かぜのまにまにふはふはと、撫子なでしこが匂ふ、夏水仙が匂ふ、薔薇ばらが匂ふ、土が匂ふ。ルウヴルきゆうの屋根の上、なさけの星も傾いた。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いつか村雨むらさめも晴れ渡り、露を宿した雑草が秋の野一面に珠を連らね、沈む夕陽に輝いている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
松風まつかぜ村雨むらさめ」という二人の女のまいは、『源氏物語げんじものがたり』にもとづいて作ったというが、それが二つの桶を棒の両方にになって、しおを汲みに行くところを舞うのは、絵空事えそらごとというものである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
東の方は村雨むらさめすと覚しく、灰色の雲の中に隠見する岬頭こうとういくつ糢糊もことして墨絵に似たり。それに引きかえて西の空うるわしく晴れて白砂青松に日の光鮮やかなる、これは水彩画にもたとうべし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夜風に身ぶるいした大樹の梢から、バラバラと月光の村雨むらさめが降りこぼれた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足許の地面から拾い上げた巻紙のきれに、へたな薄墨の字が野路の村雨むらさめのように横に走っているのを、こう低声こごえに読み終った八丁堀藤吉部屋の岡っ引葬式とむらい彦兵衛は、鶏のようにちょっと小首を傾げた後
明け方に風が少し湿気を帯びた重い音になって村雨むらさめ風な雨になった。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
井手ゐでかはづの干したのも珍らしくないからと、行平殿のござつた時、モウシ若様、わたし従来これまで見た事の無いのは業平なりひら朝臣あそんの歌枕、松風まつかぜ村雨むらさめ汐汲桶しほくみをけ、ヘマムシ入道の袈裟法衣けさころも小豆あづき大納言の小倉をぐらの色紙
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
村雨むらさめも過ぎて切籠きりこのあらしかな 乙双
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
秋の村雨むらさめふりしきるあなたの命日に
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
「あ、あれが村雨むらさめの滝です」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
なかに一ところ湖神こしんもうけの休憩所きうけいしよ——応接間おうせつまともおもふのをた。村雨むらさめまたしきりはら/\と、つゆしげき下草したぐさけつゝ辿たどると、むやうな湿潤しつじゆんみぎはがある。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まったく外界との交渉を絶たれた父が閉じこもった座敷牢からつくづくときき入るのは、この古い池へ来る村雨むらさめの音であろうかなぞと彼女は思いやった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
梅雨つゆの前觸れらしい村雨むらさめが、曉方から降つてはれ、晴れては降り、妙に人じらしな空合です。
ちゅうに眼をつりあげて見ると、夕陽ゆうひにきらきらしてほしがまわってくるかと思うばかりな一箇体こたい金輪かなわふちから、雨かきりか、独楽の旋舞せんぶとともにシューッと時ならぬ村雨むらさめのような水ばしりがして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
き人を忍ぶるよひ村雨むらさめれてや来つる山ほととぎす
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
時雨しぐれ村雨むらさめ中空なかぞらを雨の矢數やかずにつんざきぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
私が見ていたあたりへも、一村雨むらさめさっとかかったから、歌も読まずに蓑をかりて、案山子の笠をさして来ました。ああ、そこの蜻蛉とんぼ鬼灯ほおずきたち、小児こどもに持たして後ほどに返しましょう。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今にも降り出しそうな村雨むらさめ模様の空合いです。
時雨しぐれ村雨むらさめ中空なかぞらを雨の矢数やかずにつんざきぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
パラパラと村雨むらさめが来ました。
村雨むらさめははらゝほろ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
パラパラと村雨むらさめが來ました。