あった)” の例文
十日ばかりというもの風ほこりも立たず雨も降らず小春といってもないほどあったかな天気のつづいた今年の年暮くれは見るから景気だって
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
或日の事文治郎は森松を使つかいに出して独りで居りますと、空はどんよりとして、梅もう散り掛ってあったかい陽気になって来ました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さあ、おまえも火のそばへ来て、よくあったまって寝ろ。怖いのじゃあねえ、寒いのだ。よくあったまって、心持こころもちにぐっすり寝ろ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうですあったかい内に」と主人が云ったので、宗助は始めてこの饅頭のして間もない新らしさに気がついた。珍らしそうに黄色い皮をながめた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まくりや、米の粉は心得たろうが、しらしらあけでも夜中でも酒精アルコオルで牛乳をあっためて、嬰児あかんぼの口へ護謨ゴムの管で含ませようという世の中じゃあなかった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「びっくりしているのかいお前さん。——大丈夫だよ、舟の中には、炬燵こたつもあるし、お酒もある。こんな岡より、いくらあったかいか知れないんだよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まアそんなところで、——何しろ日向はあったけえし、懐は涼しいし、じっとしていりゃ、睡くなるばかりで——」
腕車くるまがステーションへ着くころ、がそこここの森蔭から見えていた。前の濁醪屋どぶろくやでは、あったかそうな煮物のいいにおいが洩れて、濁声だみごえで談笑している労働者の影も見えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは、はなやかな日がさして、だまされたようなあったかい日だった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
恐らく番五郎めは奥で妾と一緒にあったまってでもいるんでしょう。
あったかいんだもん、今日は……。僕、笊に何杯も捕ってみせるぜ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「会があって今まで飲んでいたから、あったかいでしょう」
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「オヤそう、歩いたらあったかに成ッたもんだから……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「何だね! このあったかいのに」と蝙蝠傘こうもりがさを畳む。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「冷えちゃアいない、あったかいよ」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家外そとは静かなあったかな冬の日が照って、どこかそこらを歩いたらば、どんなに愉快だろうと思うようにカラリと空が晴れていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
五「それは余りお固いお洒落でげすな、わたくしが洒落ましょう、斯ういうのは何うでございます、大黒様が巨燵こたつあたってるのでございます、大黒あったかいと」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まアそんなところで、——何しろ日向はあったけえし、懐は涼しいし、じっとしていりゃ、睡くなるばかりで——」
「こうやって、おまもりにしておくの。そうしちゃあっためておいて、いらっしゃる時敷かせますからね、きっとよ。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、詰らんもので……到来物でね。アハハハハようやくあったかになって」と突然時候をつけて庭の方を見たが
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今すぐに、あったかいのをこしらえてやるから、そのお客さんの火鉢へ、少しあたらして貰っていねえ。オイオイ三輪みわちゃん、紙をやるから、乙坊おとぼうはなをカンでやんな。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな事とは知らねえで、しん吉の野郎、近在をまわってちっとふところがあったまったので、今頃どこかの宿場しゅくばでおもしろく浮かれているかも知れねえ。親不孝な野郎だ
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おあったかになりやした」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
翌朝あくるあさ日覚めると明け放った欞子窓れんじまどから春といってもないほどなあったかい朝日が座敷のすみまでし込んで、牛込の高台が朝靄あさもやの中に一眸ひとめに見渡された。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「でも買って行くとおっしゃったんでしょう」と押す。「ああ。——何だかあったか過ぎる晩だこと」と逃げる。「御湯のせいでござんすよ。薬湯はあったまりますから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勘「はい/\有難ありがてえ/\、それを聞けばすぐに死んでもい、ヤア、有難えねえ、サア死にましょうか、唯死度しにたくもねえが、松魚かつおの刺身であったけえ炊立たきたてまんまべてえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくしはなんだか蒸しあったかいような、頭がすこし重いような心持になりましたので、雨の晴れたのを幸いに構外のあき地に出て、だんだんに青い姿をあらわして行く箱根の山々を眺めていました。
停車場の少女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
串戯じょうだんじゃあない、ちょうど一くべべた処だ、あったけえよ。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「向うは大分あったかいだろう」とついで同然の挨拶あいさつをした。すると、今度はむしろ法外に熱した具合で
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは成程熱い訳で、気候がぽか/\あったかいに、頭巾をかむっていてはたまらん訳でございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
日が一杯にあたって誠にあったかでげすから、病人のお若さんも縁側へ出て日向ひなたぼこりをいたしながら伯父さんとはなしをいたしておりますところへ、書生さんがお出でになりまして
日中にっちゅうあったかだが、夜になるとやっぱり寒いね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此処らでは鳥八十とりやそさんが早いから、彼処あすこへ往って何か照り焼か何かで、御飯ごはんを上るのだから色取をして然う云って来なよ、いかえ、御飯はうちのは冷たいからあったかいのを三人前に
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「今朝来た。あったかにしていろと云った」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とっさんはの通りの強情者でございますから、どうかお腹をお立ちなさらないで下さいまし、これはわたくしの心ばかりでございますが、おっかさんに何かあったかい物でも買って上げて下さい
「だいぶあったかになりました」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土屋様の下屋敷の長屋下を御詠歌を唄って、ひょっとして窓から報謝をと首を出す者が又市で有ったら何ういたそうと、八方へまなこを着けて窓下まどしたを歩くと、十月十五日の小春凪こはるなぎあったかいのに
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
隅「なんだか寒そうだこと、何か重い物をすその方に押付おっつけるとあったかいから」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新「なに穴を堀るとあったかくなって汗が出るよ、穴を堀りねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
筆「おとっさまはお寒かろうからあったかい夜具を着せたい」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あったかいから脱ぎまして、つゝみへ入れて喘々せい/\して
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
數「うん、成程是は分った、大福あったかいか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)