昏迷こんめい)” の例文
(以下一八六字削除)それが、以前の貴方の場合とぴったり合ってしまうので、なおさら昏迷こんめいの度が深められてまいるわけなのです。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何ぞ知ろうわし自身は、ここ数年前から、殆ど、壁に頭を打ちつけたように、道もさとれず、わざも進まず、ただ昏迷こんめいがあるばかりだ。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、時と所とを分かたない、昏迷こんめいの底に、その醜い一生を、正確に、しかも理性を超越したある順序で、まざまざと再び、生活した。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いずれにしても天平精神の昏迷こんめいを示すものといえよう。万葉後期の諸歌人がこの間に処して、言霊ことだま云々うんぬんしたのも大きな戦いであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
たすけ下ろすに、髪を解けば、ねばねばとしてにかわらしきが着きたりという。もっともその女昏迷こんめいして前後を知らずとあり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
数週間熱が続き、それに伴って意識の昏迷こんめいをきたし、また、傷そのものよりもむしろ頭部の傷の刺激から来るかなり危険な脳症の徴候を示していた。
それがしの天才が思想の昏迷こんめいきたして一時あらぬ狂名を歌われたのもまた二葉亭の鉄槌にしいたげられた結果であった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
瞬間、彼はけがれた。——その後もっとひどいことがあった。ほとんど昏迷こんめいの域にあったので、詳細しょうさいの記憶はない。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
日曜の朝、オリヴィエが学校からやって来たとき、アントアネットは床について多少昏迷こんめいのうちにあった。医者を呼ぶと、急性の肺結核だと診断された。
群集はそれを見ると、一そう気違いじみた昏迷こんめいにおちいらないではいられなかった。気の弱い人々は、一目散にテントのそとへ逃げ出したい衝動を感じた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
〔譯〕毀譽きよ得喪とくさうは、しんに是れ人生の雲霧うんむ、人をして昏迷こんめいせしむ。此の雲霧を一さうせば、則ちてんあをしろし。
いや、彼のぶつかった不幸がまだあまりに真近くて彼自身がその中において昏迷こんめいし、その不幸について考えてみる心の余裕を取り戻していなかったのであろう。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
世界が根柢こんていからくつがえり、今までの自分が自分でなくなったような昏迷こんめいに、悟空はなおしばらくふるえていた。事実、世界は彼にとってそのとき以来一変したのである。
昏迷こんめいせずにおられましょうか。……ロマノフ、ホルスタイン、ゴットルブ家の真個ほんとうの末路……。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
却って検非違使けびいしとなって水戸に臨んだ、そこから本枝離反が生じた、しかしそれは表面の事実にすぎない、その裏にこそ真の理由がある、……時代の苦悶だ、昏迷こんめいとあがきだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
人々は都会の与える営利と享楽とを追うのに急であって、その都会生活の基礎を確実ならしめる努力におろそかであった。その油断を一挙にして突かれた。そうして頭脳が昏迷こんめいした。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
開卷第一かいかんだいゝちに、孤獨幽棲こどくゆうせい一少年いつしようねん紹介しようかいし、その冷笑れいしようその怯懦きようだうつし、さらすゝんでその昏迷こんめいゑがく。襤褸らんるまとひたる一大學生いつだいがくせい大道だいどうひろしとるきながら知友ちゆう手前てまへかくれするだんしめす。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
富山七之助は、疑惑と昏迷こんめいに、しどろもどろです。
まだ依然たる昏迷こんめい中にあったといっていいが、さすがに海道の徳川家康と、越前の柴田勝家とは、やや積極的な動きを示していた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現世の昏迷こんめいに身を投じ、救いも解決もなく、ただ不安に身をよこたえられたその捨身しゃしん故にこそ菩薩として仰がるるのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そして蒼白そうはく昏迷こんめいした凄惨せいさんな様子で、目には無限の喜びを浮かべ、震える両腕を開いて、椅子いすの上に身を起こした。
山男に生捕られて、ついにそのはらむものあり、昏迷こんめいして里にでずと云う。かくのごときは根子立ねこだちあねえのみ。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三好曹長は判断力の昏迷こんめいして来るのを禁ずることができなかった。併し彼の多年の経験から来た直覚は「こんな手管てくだで化かされてはいかんぞ。油断するでないぞ」
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
などといういろいろな疑問がそれからそれへと太田の昏迷こんめいした頭脳をかけめぐるのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
薄暗い空から鉛色の地上へ反射してるそのあおざめた光は、彼の心を昏迷こんめいさした。彼の思いは乱れた。いくらその思いをはっきりさせようとしても、とらえることができなかった。
さような眼前鎖末の事に心をとられるようでは、大悟の境に到る道はまだまだ遠い、修業のはじめには誰しもいちどは昏迷こんめいするものだ、いや三度も五度も昏迷し、気も狂うだろう
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし服用中の昏迷こんめい状態は、だんだん弱まりながらも続いているようだ。退院しても半年ぐらいは正常に戻らないだろうと、医者も言っていた。しかもまだ正式に退院したわけではない。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
富山七之助は、疑惑と昏迷こんめいに、しどろもどろです。
地震と、大洪水おおみずと、火とが、一緒に来たように市中は昏迷こんめいしている。大坂城はどっしりと宵の空に構えてはいるけれど誰も頼みには思わなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ジャン・ヴァルジャンはよろめいて、吸い取り紙を手から落とし、食器棚しょっきだなそばにある古い肱掛ひじか椅子いすに倒れかかり、頭をたれ、目を白くし、昏迷こんめいに陥った。
それとも当時の思想的昏迷こんめいが政略とむすびついて、この徹底した御挙措を政変の因たらしめたのであろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
村一同昏迷こんめいし、惑乱するや、万年姥まんねんうば諸眷属しょけんぞくとともに立ちかかって、一人も余さずことごとほふり殺す。——
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桜井氏は、この途方もない錯誤の意味をどう解いていいのか、全く昏迷こんめいに陥ってしまった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昏迷こんめいのうちにもがきながら、無意味な文句を口にして、想像の管弦楽を、トロンボーン、トランペット、シンバル、チンパニー、バスーン、コントラバス……などを指揮し演奏し
昏迷こんめいしそうになる意識にむち打ち、私は更に麦酒を口の中にそそぎ込んだ。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そのうちに彼は昏迷こんめいの状態にまた陥っていた。十二時を打つ前に考えたことを思い出すのに、かなりの努力をしなければならなかった。ついにそれが思い出せた。
(再び太刀たちを抜き、片手に幣を振り、とびより、あおりかかる人々を激しくなぎ払い打ち払うあいだ、やがて惑乱し次第に昏迷こんめいして——ほうほう。——思わずたもとをふるい、腰をねて)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恒川氏は不思議な昏迷こんめいを感じた。彼自身の視覚を信じ得ないような、妙な不安におちいった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「こういう、憂いなき、安らかな感謝の一日一日を、どうかして、今の昏迷こんめいほこりの中にある実社会の人々たちへも、知らしめたい、けてやりたい。——おれはそればかりを思う」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は昏迷こんめいした様子で額に手を当てた。とんでもないことをしでかしそうだった。
昏迷こんめいし、奮激し、降伏をがえんぜず、地歩を争い、何らかの逃げ道をねがい、一つの出口を求めつつ、巍然ぎぜんたる理想の前から一歩一歩退く時、後方にある壁の根本は
その昏迷こんめいした眼に自分の眼を見合せると、クリストフは物狂おしい恐怖にとらえられた。彼は室の奥に逃げ出し、寝台の前にひざを折って、夜具の中に顔を埋めた。二人は長い間そのままでいた。
夜来やらい惰気だき昏迷こんめいを、むうっとするばかりよどませている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それほどのことは、熱に浮かされた最も暗黒な昏迷こんめいのうちにさえ見たことがなかった。
クリストフは豚料理と煙草のむかむかするにおいの中で、突然我に返ることがあった。そして昏迷こんめいした眼であたりの人々を見回した。もはや彼らには見覚えがなかった。彼は心を痛めながら考えた。
お綱の頭は今のところ、何もかもが昏迷こんめいしている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マリユスは昏迷こんめいしてあたりを見回した。絶望の極の最後の機械的な手段である。
クリストフは身を震わし、昏迷こんめいした眼でレオンハルトをながめた。
彼は頭の昏迷こんめいと無駄力に疲れてしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もみの大きな森のまん中に出た。影と静寂とばかりだった。赤茶色の日光のはん点が少しばかり、どこからともなくさしてきて、濃い影の中に落ちていた。クリストフはそれらの光の延板から昏迷こんめいされた。