度重たびかさ)” の例文
家がそんな摸様もやうになつてゐて、そこへ重立おもだつた門人共の寄り合つて、けるまで還らぬことが、此頃次第に度重たびかさなつて来てゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしていつとなく青木さん夫婦ふうふは、かつてはゆめにも想像さうざうしなかつた質屋しちや暖廉のれんくぐりさへ度重たびかさねずにはゐられなくなつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
最初さいしょあいだ二人ふたりとも半信半疑はんしんはんぎであったものの、それが三度重たびかさなるにれて、ようやくこれではならぬとがついて、しばらくすると
ことわるのは面白いからではなく、むを得ないからで、この止むを得ない事が、度重たびかさなっておきのどくなのでその結果今日やって来ました。
おはなし (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
などいう風に自分の意見を吹き込むので、度重たびかさなれば、未亡人は利溌りはつな人であっても、やっぱりその気になって、政吉の意見に従おうとする。
がらくたといっても、度重たびかさなる移動のためにあんな風になったので、彼女が結婚する時まだ生きていた母親がみたててくれた記念の品であった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
良人との衝突も度重たびかさなって洋燈らんぷを投げつけるやら刃物三昧はものざんまいなどまでがもちあがった。とうとう無事に納まらなくなってしまった。その間に彼女は卒業した。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
度重たびかさなる夜々の冒険が、僕の心をひき緊めたのでもあろうか。それともいまだ経験したこともない盗賊のような振舞に、自ずと胆が据わってきたのでもあろうか。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれたもののやうに、眼を一杯に見開いて突然彼女の腕を逃れようと身もだえすることも度重たびかさなつた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
そして、会うことが度重たびかさなる程、彼女のこの静かなる親愛の情は、濃やかになって行くかと思われた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おせんちゃんはおいらのおかみさんだよと、度重たびかさなる文句もんくはいつかあそ仲間なかまわたって、自分じぶんくちからいわずとも、二人ふたりぐさま夫婦ふうふにならべられるのがかえってきまりわる
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
予は植物の方に潜心して返事せぬ事多きに屈せず、阿漕あこぎが浦の度重たびかさなりてそんな眼に逢う。
長椅子ながいすうへよこになつたり、さうしてくひしばつてゐるのであるが、れが段々だん/\度重たびかさなればかさなほどたまらなく、つひには咽喉のどあたりまでがむづ/\してるやうなかんじがしてた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これがいわゆる「小店こみせ」でそれがどこまでも連なり、一種の風情をかもし出します。ですが度重たびかさなる大火のために漸次ぜんじ少くなりました。もっとも小店は弘前ばかりではありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
こんな事実が度重たびかさなるうちに……吾輩ヤット気が付いたもんだ。君だってここまで聞いて来れば大抵、感付いているだろう。……ウンウン。その通りなんだ。明言したって構わない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
度重たびかさなれば、次第しだいに馴れて、肩の痛みも痛いながらに固まり、肩腰に多少ちから出来でき、調子がとれてあまり水をこぼさぬ様になる。今日きょうは八分だ、今日は九分だ、と成績せいせきの進むが一のたのしみになる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
または引っ懸ろうとして手を出す途端とたんにすぽりとはずれたりする反間へま度重たびかさなるに連れて、身体よりも頭の方がだんだん云う事を聞かなくなって来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなことが度重たびかさなったせいか、今日などは朝からなんだか胸がムカムカしてたまらないのである。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
長椅子ながいすうえよこになったり、そうしてくいしばっているのであるが、それが段々だんだん度重たびかさなればかさなほどたまらなく、ついには咽喉のどあたりまでがむずむずしてるようなかんじがしてた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
谷多き地を旅するに駱駝谷底にちて荷物散乱するを防ぐため、谷に遭うごと駱駝の荷を卸し、まず駱駝を次に荷物を渡してまた負わせ、多少行きて谷に逢いてまたかくする事度重たびかさねる内
さう場合ばあひ度重たびかさなるにれて、二人ふたりあひだすこしづゝ近寄ちかよこと出來できた。仕舞しまひには、ねえさん一寸ちよつとこゝをつてくださいと、小六ころくはうからすゝんで、御米およねものたのやうになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そう云う場合が度重たびかさなるにれて、二人の間は少しずつ近寄る事ができた。しまいには、姉さんちょっとここを縫って下さいと、小六の方から進んで、御米に物を頼むようになった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
断るのが面白いからではなく、やむをえないからで、このやむをえない事が度重たびかさなって御気の毒なので、その結果今日やって来ました。言わばこんくらべでこんがつきて出て来たようなしまつであります。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)