庇護かば)” の例文
自分の愛児を殺された上に、その犯人を庇護かばって自ら死刑になろうとする、花の心に私は打たれました。そんな事をさせてはなりません。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
まだくせまないかと一はらたててもたりあきれもしたりしたが、しか何處どこといつて庇護かばつてくれるものがいのでうしてるのだと
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
岸本は節子を庇護かばうように言った。長火鉢ながひばちを間に置いて岸本とむかい合った嫂の視線はまた、娘のさかりらしく成人した節子の方へよく向いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
庇護かばってくれなきゃいけない人なのに、先生は私を突き落とすようなことをしたのよ。先生の言葉一つで、私の運命は狂わせることもできるのよ。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
右の方は、深紅しんく窓掛カアテンひだが私の視野しやを遮り、左の方は、透明な窓硝子が私を庇護かばつて呉れたが、荒凉くわうりやうたる十一月の日から私を引き離しては呉れなかつた。
しかし宗助の様子にどこと云って、ひとを激させるようなするどいところも、みずからを庇護かばうようないやしい点もないので、ってかかる勇気はさらに出なかった。ただ
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これ、わらびとは違いますって言うつもりやったんやなあ」信子がそんなに言って庇護かばってやった。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
見透かしても旦那の前は庇護かばふて呉るゝであらう、おゝ朝飯がまだらしい、三や何でもよいほどに御膳を其方へこしらへよ、湯豆腐に蛤鍋はまなべとは行かぬが新漬に煮豆でも構はぬはのう
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
若し相愛あいあいしていなければ、婚姻こんいんの相談が有った時、お勢が戯談じょうだん托辞かこつけてそれとなく文三のはらを探る筈もなし、また叔母と悶着もんちゃくをした時、他人同前どうぜんの文三を庇護かばって真実の母親と抗論する理由いわれもない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わたくし日出雄少年ひでをせうねん背部うしろ庇護かばつて、キツと猛狒ゴリラ瞳孔ひとみにらんだ。
祖母は傍らから、庇護かばうように言った。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私と印度人を庇護かばうつもりらしかった。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
庇護かばつてゐるやうに見える。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こんなことをって袖子そでこ庇護かばうようにする婦人ふじんきゃくなぞがないでもなかったが、しかしとうさんはれなかった。むすめ風俗なりはなるべく清楚せいそに。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「わしあねはお内儀かみさん、ろくでなしですかんね」かれぢてさうして自分じぶん庇護かばふやうにあねといふのを卑下くさしてひがんだやうな苦笑くせうあへてした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「お庄ちゃん、あなたにはすまないが、お察しの通りよ。」とお増は磯野を庇護かばうようにして落ち着きはらっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
叔母の態度は、叔父をたしなめるよりもむしろお延を庇護かばう方に傾いていた。しかしそれをうれしがるには、彼女の胸が、あまり自分の感想で、いっぱいになり過ぎていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姉の家へ引取られてからも、お島の口にはまだ鶴さんの悪口あっこうが絶えなかった。おゆうに庇護かばわれている男の心が、歯痒はがゆかったり、ねたましく思われたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「どうでがしたかねそれは」勘次かんじ先刻さつき容子ようすとはちがつて、にはか庇護かばひでもするやうな態度たいどでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
こういう場合に側に居るものの顔を見比べて、母を庇護かばおうとするのは何時でもお新だった。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小六ころくあに平氣へいき態度たいどこゝろうちでは飽足あきたらずながめた。しか宗助そうすけ樣子やうす何處どこつて、ひとげきさせるやうするどいところも、みづからを庇護かばやういやしいてんもないので、つてかゝ勇氣ゆうきさらなかつた。たゞ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうなると分けの染福より丸の晴子を庇護かばうのが、あね芸者の気持であり、春次も染福を抑え
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
中には月あかりの中を馳出かけだして行くのもあった。三吉は姪を庇護かばうようにして、その側を盗むように通った。表の門から入って、金目垣かなめがきと窓との狭い間を庭の方へ抜けると、裏の女教師の家でも寝た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
別に葉子に当てつけるわけでもなかったが、彼女の感情を庇護かばう余地はなくなっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
堅い口留をして、ふとそれ等の事をお鈴にもらしたお島は、それを又お鈴から聞いて、宛然さながら姦通かんつう手証てしょうでも押えたように騒ぎたてる、隠居の病的な苛責かしゃくからおゆうを庇護かばうことに骨がおれた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お千代婆さんは、お増を蔭に庇護かばうようにしながら言った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀は笹村を庇護かばうようにしては、花が引きづらかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)