工匠たくみ)” の例文
其道そのみちに志すこと深きにつけておのがわざの足らざるを恨み、ここ日本美術国に生れながら今の世に飛騨ひだ工匠たくみなしとわせん事残念なり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
法城は呪詛じゅその炎に焼かれざるはなく、百姓、商人、工匠たくみたちの凡下ぼんげは、住むべき家にもまどい、飢寒きかんに泣く。——まず、そうした世の中じゃ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大夫が家では一時それを大きい損失のように思ったが、このときから農作も工匠たくみわざも前に増して盛んになって、一族はいよいよ富み栄えた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
されど今カムピ、チェルタルド、及びフェギーネとまじれる斯民このたみ、その頃はいと賤しき工匠たくみにいたるまで純なりき 四九—五一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すり硝子とニッケルを組み合わせた、モダーン・タイプの硝子扉ケースメントになり、なにやらの工匠たくみが彫った有名な欄間と、銀の引手のついた花鳥の絵襖えぶすまが取り払われ
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当方において、チョビ安の両親をたずねるとあらば、これよりただちに、いまわれわれの手において集めつつある工匠たくみの一人として、日光へお出むきくださる……承知いたした。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
金岡かなおかはぎの馬、飛騨ひだ工匠たくみりゅうまでもなく、電燈を消して、雪洞ぼんぼりの影に見参らす雛の顔は、実際、ればまたたきして、やがて打微笑うちほほえむ。人の悪い官女のじろりと横目で見るのがある。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一の皇子の詐欺は直ちに見現わされる。第二の皇子の詐欺は翁をはじめかぐや姫をも欺き得たが、最後に至って自分の使った工匠たくみのために破られ、皇子は世を恥じて深き山に姿を隠す。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
工匠たくみうらみもこもりけんよ。
古盃 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
尼、傀儡くぐつ師、旅商人、工匠たくみ、山伏など——雑多だった。——その中で、何かに腰かけ、独り静かに、読書していた狩猟装束かりいでたちの若公卿がある。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七歳の初発心しょほっしん二十四の暁に成道じょうどうして師匠もこれまでなりと許すに珠運はたちまち思い立ち独身者ひとりものの気楽さ親譲りの家財を売ってのけ、いざや奈良鎌倉日光に昔の工匠たくみが跡わんと少しばかりの道具を肩にし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
翁の名は、伏見掾ふしみのじょうといい、山城やましろの生れだが、この地方へ下り工匠たくみとして移住してからは、単に野霜の翁とか、野霜の具足師ぐそくしとよばれている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふいに、工匠たくみ猿臂えんぴが、横へ伸びた。——気を失っていたはずの忍ノ権三が、まっ黒な血に塗られた顔をもたげて這い出しかけたのである。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし周の太公望は、自ら陣中で工匠たくみを督して、多くの武器をつくらせたと聞きますが、先生もひとつ呉のために、十万の矢を
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は信長の退陣を卑怯と笑っているだろうが、信長は彼の時代認識が、工匠たくみや職人どもにも劣っていることを笑わざるを得ない
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
工匠たくみの良心などは、わからないで、価の安い高いばかりいうとか……いい出すと、きりもない程、弟子たちは、しゃべった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京、大坂はもちろん、遠くは西国から、また関東地方や北陸からも、各〻、弟子や職人を連れて来る工匠たくみたちが、陸続りくぞくとこの安土へ集まった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの工匠たくみらも、土をかついでいる者どもも、みな笠置寺の僧兵ぞ。その僧兵四百人も、心を一つに、あれあのような懸命さで、夜も日もない」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やい。そこらでベソベソ泣いておる遊芸人や工匠たくみどもを追っ払え。そして寺門を堅め、新田が来たら一ト泡ふかせろ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山内は、上ノ堂、下ノ堂の二聚楽じゅらくにかけて、岩磐を割るこだまやら工匠たくみらの物声やらで、すさまじいばかりだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あすからの準備に、大童おおわらわで働いていた工匠たくみだの、神官や村人までが、正季の姿に、一とき手をやすめて、礼をした。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「日吉神社のあたりには、仮御社かりみやしろも建ちかけておるという。その辺りには、農家もあろう。さなくば、日吉における工匠たくみにでも預けて参ればよろしかろう」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
式が終ると頼朝は、作事に功労のあった二人の工匠たくみに、賞として、馬を与えようと云い、座右を見まわして
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「留守か。では爺、そちが下赤坂しもあかさかの城へひきつれて行け。そして物具もののぐ奉行の佐備さび正安へ渡すがよい。さきにも諸職の工匠たくみが入っていること。正安が心得おろう」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『前日、幄舎あくしゃてた工匠たくみどもが、くぎをこぼしていたものとみえ、釘を踏み抜いてしまったのだ。おれでも踏み抜けばよかったのに……あの青毛あおが、後脚ともあしの右のひづめで』
鎌倉はわが祖先の地だし、わしが当代の工匠たくみどもをあつめて地上の浄土をつくるべく工芸の粋で飾った都だ。人間の都とは、人間がたのしく暮らしあうための楽園だろ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこらを往来する物売りや、工匠たくみや、侍や、雑多な市人まちびとは、ただ、今日から明日への生活たつきに、短い希望をつないで、あくせくと、足をはやめているに過ぎないのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、その二人の背を、具足師の柳斎だけは、すでになにかを感じたように振向いていた。ふと、そんなときの柳斎のまなざしには、ほかの工匠たくみらにはない底光りがあった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唐船からふねが帆ばしらをならべ、街には、舶載物はくさいものを売る店舗みせや、武具をひさぐ商人あきんどが軒をならべ、裏町には、京やさかいから移住して来た工匠たくみたちが、糸を染め、やじりを鍛え、陶器すえものを焼き
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな場合のために、日頃から二人の工匠たくみに命じて、自分は自分の木像を彫らせておいた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鍛冶かじ塗師ぬりし鎧師よろいしなどの工匠たくみたち、僧侶から雑多な町人や百姓までが——その中には被衣かずきだの市女笠いちめがさだのの女のにおいをもれ立てて——おなじ方角へ、流れて行くのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……わたしばかりじゃない、そこにいる法師も工匠たくみも、また向うにいる田楽でんがく役者の一と組も。かわいそうに、隅の方で寝こんでいるあの十五、六の子供までがそうなんですからな
司馬懿はそれを解体してことごとく図面に写し取らせ、陣中の工匠たくみを呼んで模造させた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋蝉あきぜみが、啼いている。石井戸のそばに、坐りこんで、工匠たくみたちは弁当をひらき初めた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊へ出る所の重い杉戸は、工匠たくみ精巧せいこうな工夫で、引くと自然に、キリキリッとしきいくようになっている。遠い小姓部屋の者も、それを聞けば、すぐにがばと眼をさますのであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さては、小太郎山こたろうざんから手当てあてされて、甲府こうふ城下じょうかにはいるまえ、にじ松原まつばられいもいわずきずてにして自分はけだしてしまった、あの、優雅ゆうがにして機敏きびんな少女の工匠たくみたちであったか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
末席にいた諸職の工匠たくみや絵師などのともがらは、いつ早く、どこかへせたことであろう。が、近習その他は逃げもならず、暴れ狂う主君を取りしずめるのに、なだれを打っているものらしい。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう今までのように、商家や工匠たくみの徒弟になって、転々とする気もちはない。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉のすがたが見えても、ここの奉行や督励とくれいしている侍たちは、彼をふり返る者もない。また、何千の木工、土工、左官、石工いしく、あらゆる工匠たくみや人夫たちも、一顧いっこしているすきもなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう奉行、こういうそれがしじゃによって、その方らのうちには、わしの下風については働けんと考える者があるやも知れぬ。工匠たくみには工匠の気質もあること。嫌なら遠慮なく嫌といえ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東勝寺の楽殿がくでんの楽器を持ってきて、高時の陣座のうしろに、たむろを作っていた諸職の雑人ぞうにん——あの笛師、太鼓打ち、仏師、鋳物師いものし塗師ぬし仮面めん打ち、染革師などの工匠たくみや遊芸人たちだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、工匠たくみの蘇越や人夫どもへそう告げて、すぐ洛陽へ立ち帰った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孔明も日々そこへ通って、何事か日夜、工匠たくみの指図をしていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)