官衙かんが)” の例文
重要な官衙かんがや公共設備のビルディングを地上百尺の代わりに地下百尺あるいは二百尺に築造し、地上は全部公園と安息所にしてしまう。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いでわたくしは保さんをおうと思っていると、たまたまむすめ杏奴あんぬが病気になった。日々にちにち官衙かんがにはかよったが、公退の時には家路を急いだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
州の主催にかかる官衙かんがの園遊会は、要するに、知事以下の官吏や州の有力者が、この日の答礼と歓迎の意を表したものである。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
特に朝鮮を想わせる諸官衙かんがを左右にひかえ、そびえる北漢山を背景として遥か大通を向うに光化門を仰ぐその光景は、忘れ難いものではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
官衙かんがの建築物の如きも明治当初のままなるものは、桜田外さくらだそとの参謀本部、神田橋内かんだばしうちの印刷局、江戸橋際えどばしぎわ駅逓局えきていきょくなぞ指折り数えるほどであろう。
父母存在し、一姉あり、さきに他に嫁し、一弟あり、よわい七歳にして没す。妻あり一男を産む、成長す。当時家族五人、予や明治十二年以降、某官衙かんがに微官を奉ず。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
このとき大學だいがく其他そのた官衙かんがにゐた内外ないがい達識たつしき相會あひかいして、二週間目にしゆうかんめには日本地震學會につぽんぢしんがつかい組織そしきし、つゞいて毎月まいげつ會合かいごう有益ゆうえき研究けんきゆう結果けつか發表はつぴようしたが、創立そうりつ數箇月すうかげつのち
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
太田ミサコの黒いスカートが冷たい路上で地下の電光に白くきらめいた。彼女の横顔が官衙かんがと銀行と、店舗のたちならんだ中央街の支那ホテルのまえまでくると細かくふるえた。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
暗い冷たい石造の官衙かんがの立ち並んでいる街の停留所。そこで彼は電車を待っていた。家へ帰ろうかにぎやかな街へ出ようか、彼は迷っていた。どちらの決心もつかなかった。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
官衙かんがや学校へあまねく配布されたばかりでなく、自分自身で木魚をたたいて、その祭文歌を唄いながら、その祭文歌を印刷したパンフレットを民衆に頒布はんぷしてわられたのです
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おーだーまんなさい! 君は官衙かんがにいるんですぞ。ぼ……ぼうげんを吐くんじゃない!」
英祖の時代に西北諸島すなわち久米、慶良間けらま伊平屋いへや及び奄美あまみ大島がはじめて入貢したので官衙かんがを泊村に官舎をその北に建てた。この頃には泊港が沖縄第一の港であったのである。
浦添考 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
きまりきった建築様式の石造の官衙かんがであろうが、雪のように真白に塗った新らしい寺院の上に聳えている、白い鉄板で張ったまん丸い恰好のいい円頂閣であろうが、市場であろうが
二条のお城を中心にして、東御奉行所や西御奉行所や、所司代などのいかめしい官衙かんがを、ひとまとめにしているこの一画は、わけても往来の人影がなくて、寂しいまでに静かであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしこれはむろんはぶかなくてはならぬ、なぜならば我々は農商務省の官衙かんが巍峨ぎがとしてそびえていたり、鉄管事件てっかんじけんの裁判があったりする八百八街によって昔の面影を想像することができない。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
会社官衙かんがの昼間の勤めをすませて、夕方早く家に帰って来べきはずの良人が、途中でぐれて、外で夜更しをするということは、うちで待っているその妻にとっては堪えがたい苦痛に相違ない。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
淡水魚たんすいぎょの、養殖ようしょくとか漁獲ぎょかくとか製品保存とかいう、専門中でもせまい専門に係る研究なので、来ている研究生たちは、大概たいがい就職のきまっている水産物関係の官衙かんがや会社やまたは協会とかの委託生いたくせい
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
して僕のいうことは教育のみに限らない。他の官衙かんがにおいても同然である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
また附近の平地が大抵官衙かんがや富豪その他一般民衆によって占領せられて後にこそ、その地において生活の道を求むべく流れて来た浮浪民の徒は、賀茂河原や清水坂の如き空き地に小屋がけして
従って大建築は宮殿や官衙かんがのほかになかったであろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
官衙かんがのうちの、大事な書類はすっかり持ち出されたか。……やっ……焔のかなたには、女子供の悲鳴が聞えるが、あれはご家族ではないか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物質だけを取扱う官衙かんがとちがって、単なる物質でない市民乗客といったようなものを相手にする電気局は、乗客の感情まで考えなければならず
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
枳園の終焉しゅうえんに当って、伊沢めぐむさんは枕辺ちんぺんに侍していたそうである。印刷局は前年の功労を忘れず、葬送の途次ひつぎ官衙かんがの前にとどめしめ、局員皆でて礼拝した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
蘇山人湖南の官衙かんがにあること歳余さいよやまいを得て再び日本に来遊し幾何いくばくもなくして赤坂あかさかひとの寓居に歿した。
なのに明治天皇のお座所を中心とする諸殿しょでんだけは、宮内省やほかの官衙かんががすべて電燈化されても『電気にしていい』というお許しがないのだった。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目ぼしい山火事のあったときに自分の関係のぼう官衙かんがから公文書でその山火事のあった府県の官庁に掛け合って
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
即ちかかる市街の停車場ていしゃば旅館官衙かんが学校とうは、その建築の体裁も出来得る限りその市街の生命たる古社寺の風致と歴史とをきずつけぬよう、常に慎重なる注意を払うべき必要があった。
京の朱雀すじゃく西洞院にしのとういんのあたりの官衙かんがや富豪のやしきですら、われらの眼には、ただもののあわれを誘う人間の心やすめの砂上の楼閣としかうつらぬものを。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある人はこれを官衙かんがの門衛のようだと言ったが、自分もどちらかと言えば多少そんな気がしないでもない。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
官衙かんがも民家も、すべて、焼け石と材木を草の中に余しているだけだった。秋も暮れて、もう冬に近いこの蕭々しょうしょうたる廃都には、鶏犬の声さえしなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官衙かんがや商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に対しても犀利さいりな批評と痛切な助言を加えたい。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かくて、夜明け方には、市中の火は、あらかた消しとめられたが、なお焔々えんえんと燃えてやまないのは、北京城の瑠璃るりの瓦、黄金の柱、官衙かんがの建物などだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも向う河岸の官衙かんがの裏河岸を見るとかなり立派な役人達で呑気そうに見物しているのも大勢居た。河一つ隔てて、こう事柄のちがうのは果してどういう訳だろうとも思ってみたりした。
雑記(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
郊外千里に霞む起伏の丘を四方よもに、古都の宮城は朝映あさばえ夕映えの色にかがやき、禁門の柳、官衙かんが紫閣しかく大路おおじ小路こうじ、さらに屋根の海をなす万戸の庶民街にいたるまで
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙かんがの辻々をめぐって、やがて大きな溝渠こうきょに沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏のひとりが大声でいった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操はまず、宮中を定め、宗廟を造営し、司院官衙かんがを建て増して、許都の面目を一新した。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代官の官衙かんがとその住宅であった。萩原年景としかげは、ここの中心として、絶対の権力を振舞った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庶民の色にも見えたが、やがて彼等の専横がつづき、皇室、後宮、みな藤原氏の血をいれて私にうごき、中央の官衙かんがから地方官の主なる職まで、その系類でない者は、ほとんど
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問注所は、幕政下の“政所まんどころ”“侍所”とならんでの鎌倉三大官衙かんがの一庁である。——原告と被告との双方へ物問いしてそれを注記ちゅうきする——というのが「問注」の名のおこりらしい。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大名府だいみょうふ、管領庁楼以下の官衙かんがにも、例外なしに、緑門りょくもんが建ち、花傘かさんが飾られ、そして辻々には、騎馬の廂官しょうかん(左右・南北の奉行役人)が辻警戒にあたり、ひどい酔ッぱらいはらっして行ったり
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、城市のまん中にあるいかめしい官衙かんがには、泣く子もだまるという怖ろしいお奉行が住んでいた。外は他国の諜報ちょうほう策動に、内は市民の道義と起居に、いやしくも法縄ほうじょうを飾り物にはしていない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が王朗に説いたいわゆる時代の風浪は、山野にかくれていた賢人をひろい上げてもゆくが、また、官衙かんがや武府の旧勢力のうちにもいる多くの賢人をたちまち、山林へ追いこんでしまう作用もした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)