女性にょしょう)” の例文
優雅、温柔おんじゅうでおいでなさる、心弱い女性にょしょうは、さような狼藉にも、人中の身を恥じて、はしたなく声をお立てにならないのだと存じました。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお、御身は女性にょしょうにておわするな。何とて斯様かようなる山中へ、女性の身一人にておわせしぞ。まして男の装いしたる有様こそ怪しけれ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いま、皇叔をもって、あの女性にょしょうと配せば、それこそいわゆる——淑女ヲ以テ君子ニ配ス——という古語のとおりになると思うのです。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は普通の日本の女性にょしょうのように絹の手袋を穿めていなかった。きちりと合う山羊やぎの革製ので、華奢きゃしゃな指をつつましやかに包んでいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尚またそなたは吾々の手にこう捕らえられた上からは、観念なさるがよろしかろう——それ各〻この女性にょしょうをいつものように処置なされよ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
民子はさすがに女性にょしょうで、そういうことには僕などより遙に神経が鋭敏になっている。さも口惜くやしそうな顔して、つと僕の側へ寄ってきた。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
恋に焦がれつつある、一人の女性にょしょうが、その恋を強いてほんのり包もうとして、もだえている遣瀬無やるせなさを、察してやることが出来るのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
美女、才女、ありとある、一節ひとふしずつある女性にょしょうを書いたあとで、浮舟や女三宮の現れたのを、よく読んで見たいと思った。今でもそう思っている。
女性にょしょうなれば別して御賞美あり、三右衛門の家名相続被仰附おほせつけらる宛行あておこなひ十四人扶持被下置ふちくだしおかる、追て相応の者婿養子可被仰附むこようしおほせつけらるべし、又近日中奥御目見可被仰附なかおくおめみえおほせつけらるべし
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
広い都にかの女性にょしょう唯者ただものでないと覚っているものは、この泰親のほかにまだ一人ある。それは少納言の信西入道殿じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旅の若い女性にょしょうは、型摺かたずりの大様な美しい模様をおいたる物を襲うて居る。笠は、浅いへりに、深い縹色はなだいろの布が、うなじを隠すほどに、さがっていた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
即ち結婚の契約より生じたる各自の権利あるが故なり。故に婦人は柔順を尊ぶと言う。もとより女性にょしょうの本色にして、大に男子に異なり、又異ならざるをえず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そう云う夫人の言葉に恐る/\面を上げた青年の武士は、初めて彼が憧憬どうけいの的であった女性にょしょうの姿を仰ぎ視た。
呂昇が彼美しい声で語り出す美しい女性にょしょうたましいは、舞台のノラを見たり机の上の青鞜せいとうを読んだりする娘達に、如何様どん印象いんしょうを与うるであろうか。余は見廻わした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、ハッキリと見てしまった女性にょしょうの髪の毛! 七年目、山上の会合が、こんな意外な展開を生もうとは!
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これ迄はどこにひとりも女性にょしょうの影すら見えなかったのに、今となって、どうしたと言うのであろう?——大奥付の腰元らしい者は者でしたが、ようよう二十はたちになるやならずの
体重は十九貫、公侯伯子男爵の女性にょしょうを通じて、体格がらにかけては関脇せきわきは確かとの評あり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
生垣いけがき一つ隔てて物置同然の小屋があった。それに植木屋夫婦が暮している。亭主が二十七八で、女房はお徳と同年輩位、そしてこの隣交際となりづきあい女性にょしょう二人は互に負けず劣らず喋舌しゃべり合っていた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まして此頃は賢女けんじょ才媛さいえん輩出時代で、紫式部やら海老茶式部、清少納言やら金時大納言など、すばらしい女が赫奕かくえきとして、やらん、からん、なん、かん、はべる、すべるで、女性にょしょう尊重仕るべく
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
相愛あいあいしていなければ、文三に親しんでから、お勢が言葉遣いを改め起居動作たちいふるまいを変え、蓮葉はすはめて優にやさしく女性にょしょうらしく成るはずもなし、又今年の夏一夕いっせきの情話に、我からへだての関を取除とりの
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そちらの壁には、蔭乾かげぼしにと釣り下げてある山草花の横手から、白露の月に光るが如き涼しく美しき眼の輝きが見えた。若き女性にょしょうと直覚せずにはいられなかった。あの浴泉の美女ではないだろうか。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「まして女性にょしょうとあれば通し駕籠に乗ったとしてものう」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
年のせいとばかりは考えられません。まだまだ、眼こそ見えぬが、これでもまあ、女性にょしょうそばにいればわるい気はしない男なのですから
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おゝ御館おやかたでは、藤のつぼねが、我折がおれ、かよわい、女性にょしょう御身おんみあまつさただ一人にて、すつきりとしたすゞしき取計とりはからひを遊ばしたな。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「モナリサの唇には女性にょしょうなぞがある。原始以降この謎を描き得たものはダ ヴィンチだけである。この謎を解き得たものは一人もない。」
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乳母に相談かけても、一代そう言う世事に与った事のない此人は、そんな問題には、かいない唯の女性にょしょうに過ぎなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「いや、そればかりではござりませぬ。玉藻という女性にょしょうに就いては落意しがたき廉々かどかどがあるとか申されまして……」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、その戸口の樫の扉がさっ戸外そとから開けられて、ひしとばかりに法服の袖へ、すがり付いた一人の女性にょしょうがある。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さりながら、女性にょしょうの男装して関所を越ゆるは、国のおきての許さぬことを、知らぬ御身にてはよもあらじ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほんに、いかに、主従同然な仲とはいえ、女性にょしょうの口から、このことをいい出すのは、さぞ苦しいことであったであろう。甚太郎にもそれはよくわかるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうかと思うと、又此方では一人の女性にょしょうが笠の下から髪を切って、上人に参らせて発心をする者もあります。その外われも/\と遁世をする人の数はどのくらいあったことでしょうか。
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひとり者の乱雑さは、いつも女性にょしょうを親しい心持ちに微笑させるものだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
優しく女性にょしょうらしく成ッたように見えた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
折しもあれ一人の女性にょしょうあり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女性にょしょうながらも武将の後室。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
さる程にようやく柴桑さいそうの地へ近づいて来る。玄徳はややほっとしたが、夫人呉氏は何といっても女性にょしょうの身、騎馬の疲れは思いやられた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どういうところも、こういうところもありゃしない。現代の女性にょしょうはみんな乱暴にきまっている。あの女ばかりじゃない」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女性にょしょうというのも、世に聞えて、……うちのお三輪は、婦人何々などの雑誌で、写真も見れば、名も読んで知った方。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(さっきの女性にょしょうと老人とが、この館に住む人々で、その人々がこの身に対し、心尽くしをしたのであろう)
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かよわき女性にょしょうとは、あの折の女子のことでござりますか? あの者は、あり来たりの女ではありませぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
伏し目に半ば閉じられた目は、此時、姫を認めたように、すずしく見ひらいた。軽くつぐんだくちびるは、この女性にょしょうに向うて、物を告げてでも居るように、ほぐれて見えた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「関白殿の御牛車みくるまと申されても、それは代参、殊に女性にょしょうじゃ。しばらくの御遠慮苦しゅうござるまい」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒い影……それは、女性にょしょうであった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
通りかかると六、七名の兵が一人のみやびな女性にょしょうをとらえ、必死な悲鳴もなんの、見るにたえぬみだらな乱暴におよぼうとしておった
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「鼻って誰の事です」「君の親愛なる久遠くおん女性にょしょうの御母堂様だ」「へえー」「金田のさいという女が君の事を聞きに来たよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ一人おわしたる、いずくの里の女性にょしょうやらむ、髪高等に結いなして、姿も、いうにやさしきが、いと様子あしく打悩み、白芥子しらげし一重ひとえの散らむず風情。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行親 これにある女性にょしょうは……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
町家にいたころは、御所の内裏といえば、どんなに典雅てんがで平和で女性にょしょうの幸福を集めているところかと、あこがれていたものである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、その雲の峰をよく見ると、真裸まはだか女性にょしょうの巨人が、髪を乱し、身を躍らして、一団となって、れ狂っている様に、旨く輪廓りんかくを取らした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眉の鮮かさ、色の白さに、美しき血あり、清き肌ある女性にょしょうとこそ見ゆれ、もしその黒髪の柳濃く、生際はえぎわさっかすんだばかりであったら、えがける幻と誤るであろう。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)