傲慢ごうまん)” の例文
どうも傲慢ごうまんらしい! 見るからに険のあるまなざし、傲然ごうぜんとした態度、何か尋ねたら、お直参であるのを唯一の武器にふりかざして
おかの麦畑の間にあるみちから、中脊ちゅうぜい肥満ふとった傲慢ごうまんな顔をした長者が、赤樫あかがしつえ引摺ひきずるようにしてあるいて来るところでありました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
謙遜けんそんか、傲慢ごうまんか、はた彼の国体論はみだりに仕うるを欲せざりしか。いずれにもせよ彼は依然として饅頭焼豆腐の境涯を離れざりしなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
……こっちは酔いしびれてうらがなしくなって、だからこそつけ元気でやけくそな歌をうたったり傲慢ごうまんなことを喚いたりしているんだ。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これがあの傲慢ごうまん無礼な英国官吏をこらして王室の威厳を御保持になった方とも思われないくらい、女にもしたいほどのお優しさでした。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
同人種の多くの人たちの露骨な無遠慮さにたいする反動から、傲慢ごうまんが多く宿ってる極端な遠慮さのために、彼らは犠牲となっていた。
「かわいそうなマリユスだと! あの男はばかだ、悪党だ、恩知らずの見栄坊みえぼうだ。不人情な、心無しの、傲慢ごうまんな、けしからん男だ!」
場所といえば、これが、彼の云う東京の傲慢ごうまんさかも知れない。力車を利用するようなことがすでに距離をつくった第一歩なのだろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
他人をそっとしておこうという望みは、気弱い感傷でなければ、極度の傲慢ごうまんな態度と言えよう。僕が死を選んでから、得たこの悪い癖。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
王給諌は長く待っていたが王侍御が出て来ないので、これは王侍御が傲慢ごうまんで出て来ないだろうと思って、腹を立てて帰ろうとした。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
不幸にも女子の気にかなう面貌があるが、この男のかおつきはまったくその一ツで、桃色で、清らかで、そしてきわめて傲慢ごうまんそうで。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
この少年の傲慢ごうまん無礼を、打擲ちょうちゃくしてしまおうと決意した。そうと決意すれば、私もかなりに兇悪酷冷の男になり得るつもりであった。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
傲慢ごうまんで云うんじゃない。当り前の頭があって、相当に動いて居りさえすれば、君時代におくれるなどいうことがあるもんじゃないさ。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
運転手達は、傲慢ごうまんな調子で、いい捨てたまま、部屋を出て行ってしまった、ガラガラと閉める頑丈がんじょうな扉、カチカチと鍵のかかる音。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
綺羅子が席へ交ってから、ナオミはさっきの傲慢ごうまんにも似ず、冷やかすどころかにわかにしんと黙ってしまって、一座はしらけ渡りました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
張蘊は眼を斜めにして、そういう孔明を見やりながら、わざとほかへ話をそらしては、大人たいじんを気どって、傲慢ごうまんな笑い方をしていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝らは情欲と傲慢ごうまんとを捨て、平和と謙遜とを保たねばならぬ。——かく言って、イエスのお話は、最初の出発点に帰りました。
それも内気な、はにかみやというわけではなくて、反対に彼は傲慢ごうまんな性質で、人をすべて軽蔑しているようなところがあった。
眼鼻、口耳、皆立派で、眉は少し手が入っているらしい、代りに、髪は高貴の身分の人の如くに、わがねずに垂れている、其処が傲慢ごうまんに見える。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
側廊の一つにはあの傲慢ごうまんなエリザベスの墓があり、別のほうには、彼女の犠牲となった、美しい薄幸なメアリーの墓がある。
性格も強くて傲慢ごうまんなほど自信があった人であろう。それだからこそ諸大名や武将を向うに廻して、彼らを手玉に取ったほどのであった。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
団十郎はその傲慢ごうまんが増長して法外の暴利をむさぼると言うものもあった。またそれに対して、由来芸術に定まった価はない。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐにその態度が変わり昨日きのうまで同僚どうりょう交際であった者を急に見下したり、にわかに傲慢ごうまん尊大そんだいになる場合も僕はしばしば見た。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
罪を犯さぬつもりでいるあやまちのない傲慢ごうまんな者より救われやすいという意味が、罪その物を肯定する教と見なされたことも当然なことであったが
或る日、ナポレオンはその勃々ぼつぼつたる傲慢ごうまんな虚栄のままに、いよいよ国民にとって最も苦痛なロシア遠征を決議せんとして諸将を宮殿に集合した。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
世間からは傲慢ごうまん一方の人間に、また自分たち家族に対しては暴君タイラントの良人が、食物に係っているときだけ、温順おとなしく無邪気で子供のようでもある。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お雪ちゃんの待つ弁信は容易に来ないのに、あの傲慢ごうまんな貴婦人は、待っていた気苦労もないうちに迎えの人が来て、さっさと行ってしまいます。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうしてそれら俗流は、彼ら「麗人族」に奉仕するべく、この世に現われた者どもであると、こう傲慢ごうまんに思ってさえいた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
加之それに妙にねち/\した小意地こいぢの惡い點があツて、ちつ傲慢ごうまんな點もあらうといふものだから、何時いつも空を向いて歩いてゐる學生がくせいには嫌はれる筈だ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
牛や馬以上に従順であってもの通り、モシ、従順でなかったら、傲慢ごうまんな百姓達は恐らくの「あまり者」を打ち殺してしまうだろうと私は思った。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
だから、私はとうとう彼の不愉快な監督にすっかり憤慨してしまい、私には我慢ならないその傲慢ごうまんさを、日ごとにますます公然と憎むようになった。
そのまん中の薄くなった頭とデップリ肥満した身体からだの中に包まれている魂は、貴族的の傲慢ごうまんと、官僚的の専制慾に充ち満ちているかのように見える。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この口もきけないで当惑している有様は、表面上はただ傲慢ごうまんさのように思えて、Kをいっそういらつかせるのだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
神経質で孤高で傲慢ごうまんなほどプライドのつよい山口が、そのぼくの押売りじみた親切に、虚心にこたえてくれっこないという判断であり、おそれだった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
運命の前に驚きあわてることは、ひよつとすると人間の傲慢ごうまんさなのかも知れません。それをどうぞお考へください。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この点において愛は名誉心と対蹠たいせき的である。愛は謙虚であることを求め、そして名誉心は最もしばしば傲慢ごうまんである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
そして、結局は昨日に比べてはるかに傲慢ごうまんな豹一にあきれてしまった。彼女の傲慢さの上を行くほどだったが、しかし彼女は余裕綽々よゆうしゃくしゃくたるものがあった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
そしてそれがまた父をして私を、この上もない不真実な生意気な傲慢ごうまんな「不肖ふしょうの子」だと思わせたに相違なかった。
よしんば傲慢ごうまんや冷酷はあっても、あれほど整美された人格が、真性の孤独以外に求められようとは思われませんな。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
傲慢ごうまんで利かん気で、苦虫をつぶしたような顔を看板にしている親の利助とは、似も付かぬ優しさのある娘です。
それほど可愛らしさというもののない、ただ憎たらしい傲慢ごうまんなヒネクレ者であった。いくらか環境のせいもあっても、大部分は生れつきであったと思う。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼女はほかの草木の頂きを六間ちかくも抜いてそびえていましたので、下にいる植物たちは彼女を憎みうらやんで、なんて傲慢ごうまんな女だろうと思っていました。
文士卓にはもう大勢団欒まといをしていて、隅の方には銀行員チルナウエルもいた。そこへ竜騎兵中尉が這入って来て、平生の無頓着な、傲慢ごうまんな調子でこう云った。
ただし己を愛するとは何事を示すのであろう。私は己れを愛している。そこにはいささかの虚飾もなく誇張もない。又それを傲慢ごうまんな云い分ともすることは出来ない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
遺憾ながらこの錯覚から免れている人はすくない。古典や古仏を語る人間の口調をみよ。傲慢ごうまんであるか、感傷的であるか、勿体ぶっているか、わけもなく甘いか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
こう和尚おしょうさんにいわれると、さすがに傲慢ごうまん悪右衛門あくうえもんも、すこ勇気ゆうきがくじけました。和尚おしょうさんはここぞと
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
求めずに、ただ与えようとすることは傲慢ごうまんな、そして不可能なるのみならず、願わしからぬことと思われます。愛されたいねがいこそ人間と人間とを結びます。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
純潔と清澄と快活と、それから傲慢ごうまんで同時に素朴な、犯しがたい冷淡とのまざったものを思わせる、あの種類として等しいからだった。……彼は二人を眺めた。
それはまるで人を見下げた、傲慢ごうまんな調子だった。そして帰りに一緒になることにしていたのに、そのおかみさんはさッさと自分だけ先きに帰って行ってしまった。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
疑いもなしに受けれられるし、労働者とか人民とかいえば純真で善良だが、資本家とか官僚とかはすべて傲慢ごうまん邪悪じゃあくだというような言い方が、平気で通用する。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)