今時分いまじぶん)” の例文
今時分いまじぶん不思議な事と怪しむ間もなく、かの金棒の響はまさしく江戸町々の名主なぬしが町奉行所からの御達おたっしを家ごとに触れ歩くものと覚しく
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『いや、いや、如何どうかんがへても今時分いまじぶんあんなふねこの航路かうろ追越おひこされるはづはないのだ。』とる/\うち不安ふあん顏色いろあらはれてた。
なんだつて、今時分いまじぶんたんだ」と代助は愛想あいそもなく云ひ放つた。彼と寺尾とは平生でも、この位な言葉で交際してゐたのである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誠にお恥かしい事で、今時分いまじぶんやっと『種原論オリジン・オブ・スペシース』を読んでるような始末で、あなたがた英書をお読みになるかたはこういう名著を早くから御覧になる事が出来るが
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
馬子でも思慮のあるものは今時分いまじぶんここを一人歩きはしないものを。それもそのはず、この若い馬子をよく見れば、かの万年橋の下の水車小屋の番人、馬鹿の与八ですもの。
不図ふと其中そのうちの一軒から、なまめかしい女が、白いはぎを見せて、今時分いまじぶんガラガラと雨戸をだした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
今時分いまじぶん、おせんがいないはずはないから、ひょっとすると八五ろうやつ途中とちゅうだれかにって、道草みちくさってるのかもれぬの。堺屋さかいやでもどっちでも、はやればいいのに。——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これは彌六やろくといつて、與吉よきち父翁ちゝおや年來ねんらい友達ともだちで、孝行かうかう仕事しごとをしながら、病人びやうにんあんじてるのをつてるから、れいとして毎日まいにち今時分いまじぶんとほりがかりにその消息せうそくつたへるのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まへ浦山うらやましいねと無端そゞろおやことせば、それがぬれる、をとこものではいと美登利みどりはれて、れはよわいのかしら、時々とき/″\種々いろ/\ことおもすよ、まだ今時分いまじぶんいけれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その根方ねがたところを、草鞋わらぢがけの植木屋うゑきや丁寧ていねいこもくるんでゐた。段々だん/\つゆつてしもになる時節じせつなので、餘裕よゆうのあるものは、もう今時分いまじぶんから手廻てまはしをするのだといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どこへどころじゃござりません。おかみさんこそ今時分いまじぶん、どちらへおいでなさいました」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今時分いまじぶん、こんなところへ、運動會うんどうくわいではありますまい。矢張やつぱ見舞みまひか、それとも死體したい引取ひきとりくか、どつちみちたのもしさうなのは、そのばあさんの、晃乎きらりむねけた、金屬製きんぞくせい十字架じふじかで。——
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今時分いまじぶんこんなとこうろうろしてるんだから。気まりが悪りいわ。
まかないはるか半町も離れた二階下の台所に行かなければ一人もいない。病室では炊事割烹すいじかっぽうは無論菓子さえ禁じられている。まして時ならぬ今時分いまじぶん何しに大根だいこおろしをこしらえよう。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにねむいもんか……だけどもねえ、今時分いまじぶんになるとさびしいねえ。」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なァんだ、春重はるしげさんかい。今時分いまじぶん一人ひとりでどこへきなすった」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「去年の今時分いまじぶんだ。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)