二条ふたすじ)” の例文
旧字:二條
はっと袖で囲ってお縫は屋根裏を仰ぐと、引窓がいていたので、すす真黒まっくろな壁へ二条ふたすじ引いた白い縄を、ぐいと手繰ると、かたり。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、たちまち眼の前の、ぼーっとした仄暗ほのぐらい空を切り裂いて、青光りのする稲妻が、二条ふたすじほどのジグザグを、たてにえがいた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼はその際かぶとのいただきへ、二条ふたすじまで矢をうけて一度は落馬したが、すぐとび乗って、物ともせず将士の先頭に立った。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表と裏とに階段が、二条ふたすじ設けられていたものらしい。表の階段から逃げ上がり、裏の階段から逃げ下りたらしい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
舟とどめて互いに何をか語りしと問えど、酔うても言葉すくなき彼はただひたいに深き二条ふたすじしわ寄せて笑うのみ、その笑いはどことなく悲しげなるぞうたてき。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
石原はそこへ雁を持ち込む道筋を手短に説明した。先ずここから石原の所へ往くには、るべき道が二条ふたすじある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は世渡りの道に裏と表の二条ふたすじあるを見ぬきて、いかなる場合にも捷径しょうけいをとりて進まんことを誓いぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お菊さんは庖厨かっての出入口の前のテーブルにつけた椅子に腰をかけていた。出入口には二条ふたすじの白い暖簾のれんがさがって、それがあい色のきものを着たお菊さんの背景になっていた。
萌黄色の茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その翌日は日曜だったが、月曜日に米沢君の手を見ると、果して甲に掻き疵が二条ふたすじついていた。
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今迄頼りに歩いて来た二条ふたすじの線路は見えなくなった。枕木も隠れてしまった。太吉の笠や着物は重くなるまで雪が積った。益々ますます夜嵐は吹き募って、雪は目となく耳となく、襟元となく入り込んだ。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今このふすまへでも、障子へでも、二条ふたすじばかり水の形をいて、紫の花をあしらえば、何村、どの里……それで様子がよく分るほどに思うのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陽は沈んで、刻々、三方ヶ原の野末のずえには、白い夕靄ゆうもやと夜の闇とが、二条ふたすじに濃くわかれていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、電燈の明るいバーが眼にいた。彼は急いでその中へ入った。二条ふたすじ三条みすじかに寒水石かんすいせき食卓テーブルえた店には、数多たくさんの客が立て込んでいた。彼はその右側へ往って腰をかけた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何や、この二条ふたすじの蛇が可恐い云うて?……両方とも、言合わせたように、貴方あんた二人が、自分たちで、心願掛けたものどっせ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
坂の上の古い通路とおり二条ふたすじになっていて、むこう側には杉の生垣いけがきでとりわした寺の墓地があった。彼は右の方を見たり、左の方を見たりした。淋しい通路とおりには歩いている人もなかった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
心持こころもち西と、東と、真中まんなかに山を一ツ置いて二条ふたすじ並んだ路のような、いかさまこれならばやりを立てても行列が通ったであろう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御存じの烈しいながれで、さおの立つ瀬はないですから、綱は二条ふたすじ染物そめものをしんしばりにしたように隙間すきまなく手懸てがかりが出来ている。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やあ、やあ、かしが、」とつぶやきざまともを左へぎ開くと、二条ふたすじ糸を引いてななめに描かれたのはいなづますそに似たるあやである。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辻には——ふかし芋も売るから、その湯気と、烏賊いかを丸焼に醤油したじ芬々ぷんぷんとした香を立てるのと、二条ふたすじの煙が濃淡あいもつれて雨になびく中を抜けて来た。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのれ違った時、袖の縞の二条ふたすじばかりが傘を持った手に触れたのだったが、その手が悚然ぞっとするまで冷えとおる。……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことごとく顔にふたして、露をいとえる笠のなかより、くれないの笠の紐、二条ふたすじしなやかに、肩より橋の上にまがりて垂れたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お珊に詰寄る世話人は、また不思議にも、蛇が、蛇が、と遁惑にげまどうた。その数はただ二条ふたすじではない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう私、二条ふたすじ針を刺されたように、背中の両方から悚然ぞっとして、足もふらふらになりました。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真うつむけに背ののめった手が腕のつけもとまで、露呈あらわに白く捻上ねじあげられて、半身の光沢つやのある真綿をただ、ふっくりとかかとまで畳に裂いて、二条ふたすじ引伸ばしたようにされている。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あすこのな、蛇屋に蛇は多けれど、貴方がたのこの二条ふたすじほど、げんのあったは外にはないやろ。私かて、親はなし、ちいさい時からつとめをした、辛い事、悲しい事、口惜くやしい事、恋しい事
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路はここで二条ふたすじになって、一条いちじょうはこれからすぐに坂になってのぼりも急なり、草も両方から生茂おいしげったのが、路傍みちばたのそのかどの処にある、それこそ四抱よかかえ、そうさな、五抱いつかかえもあろうという一本のひのき
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橘之助はあかの着かない綺麗な手を胸に置いて、こうかおりを聞いていたが、一縷いちるの煙は二条ふたすじに細く分れ、さきがささ波のようにひらひらと、なびいて枕にかかった時、白菊の方に枕を返して横になって
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれに真白まっしろな足が、と疑う、緋の袴は一段、きざはししきられて、二条ふたすじべにの霞をきつつ、上紫に下萌黄もえぎなる、蝶鳥の刺繍ぬい狩衣かりぎぬは、緑に透き、葉になびいて、柳の中を、するすると、容顔美麗なる白拍子。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれに真白な足が、と疑ふ、緋の袴は一段、きざはししきられて、二条ふたすじべにかすみきつゝ、うえむらさきした萌黄もえぎなる、ちょうとり刺繍ぬい狩衣かりぎぬは、緑に透き、葉になびいて、柳の中を、する/\と、容顔美麗なる白拍子しらびょうし
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこに絶望の声を放つと、二条ふたすじばかり、筒先を格子に向けた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)