じっ)” の例文
旧字:
五日、七日なぬか二夜ふたよ、三夜、観音様の前にじっとしていますうちに、そういえば、今時、天狗てんぐ※々ひひも居まいし、第一けもの臭気においがしません。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝、眼を覚して見ると、もう自分は起きていて、まだ寝衣ねまきのまゝ、詰らなそうに、考え込んだ顔をして、じっと黙って煙草を吸っていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
月目つきめぎると、杜松ねずかたく、にくづいてましたが、おんなはただじっとしてました。七つきになると、おんな杜松ねずおとして、しきりにべました。
彼女の唇からそうしたことばが聞けるものなら、その場で生命を投出したところで惜しくはなかったでしょう、私はとてもじっ沈着おちついては居られませんでした。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
成程なるほど地球の引力で物が下にじっとしているのだが、もし地球の運転が逆になったらかえって宙を飛ぶのが並のもので下にじっとしているのが怪物ばけものになるかも知れない。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
『初め僕は火山は近所を荒し廻る恐ろしい山だとばかり思つてゐましたが、今その仲々為めになる事が分りました。噴火口がなかつたら、地球は滅多にじっとしてゐないに違ひありませんね。』
それから汽車に乗っている間、窓の枠に頭をもたして、乗客ひとの顔の見えない方ばかりに眼をやってじっと思いに耽っていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と殊勝に正吉が、せめ念仏で畳掛けるに連れて、裂目がひれのように水をさばいてく、と小波ささなみが立って、後を送って、やがて沼の中ばに、じっと留まる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というのが——一人で離座敷に寝たには寝たが、どうしてもじっと枕をしている事が出来なくなってしまったんですね。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はじっと聞いていて、馬鹿にされているような気がしたが、自分もその大学生のように想われて、そうして苛められるだけ、苛められて見たくなった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そして、唇の色が黒い。気が着くと、ものを云う時も、やつ薄笑うすわらいをする時も、さながら彫刻ほりつけたもののようでじっとしたッきり、口も頬もビクとも動かぬ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今更遁出にげだそうッたってすきがあるんじゃなし、また遁げようと思ったのでもないが、さあ、じっとしていられないから、手近の障子をがたりといきおいよく開けました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばたばたと駈出して、その時まで同じところに、いたようにじっとして動かなかった草色くさいろ半纏はんてん搦附からみつく。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
座敷々々のお客人も一時いっとききましてな、一人としてじっとなすっていらっしゃったお方はないので、手前どもにゃ僥倖しあわせと、怪我をなすった方もござりませんが。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、時ならぬ、簾越すだれごしなる紅梅や、みどりに紺段々だんだら八丈の小掻巻を肩にかけて、お夏はじっとしていた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっとして赤蜻蛉が動かねえとなると、はい、時代違いで、何の気もねえ若いてやいも、さてこの働きにかかってみれば、記念碑糸塚の因縁さ、よく聞いて知ってるもんだで。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とまた念じて、じっと心を沈めると、この功徳か、蚊の声が無くなって、しんとして静まり返る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士 (ステッキをもって、そのすそおさう)ばさばさ騒ぐな。やりで脇腹を突かれる外に、樹の上へ上る身体からだでもないに、羽ばたきをするな、女郎めろう、手をいて、じっとして口をきけ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士 (ステッキを以つて、其のすそおさふ)ばさ/\騒ぐな。やりで脇腹をかれるほかに、樹の上へ得上えあが身体からだでもないに、羽ばたきをするな、女郎めろう、手をいて、じっとして口をきけ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
坐ってる人が、ほんとに転覆ひっくりかえるほど、根太ねだから揺れるのでない証拠には、私が気を着けています洋燈ランプは、躍りはためくその畳の上でも、じっとして、ちっとも動きはせんのです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故郷も家も、くるくると玉に廻って、生命いのち数珠じゅずが切れそうだった。が、三十分ばかり、じっとしていて辛うじてった。——もっともその折は同伴つれがあって、力をつけ、介抱した。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっと立ってると、天窓あたまがふらふら、おしつけられるような、しめつけられるような、犇々ひしひしと重いものでおされるような、せつない、たまらない気がして、もはや! 横に倒れようかと思った。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その悪戯いたずらといったらない、長屋内は言うに及ばず、横町裏町までね廻って、片時の間も手足をじっとしてはいないから、余りその乱暴を憎らしがる女房かみさん達は、金魚だ金魚だとそういった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それなりに身を任せて、じっとして、しかも入身いれみ娜々なよなよとしているじゃないか。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっとしていると思うと、襦袢の緋がさっと冴えて、揺れて、なびいて、蝋にあかい影がとおって、口惜くやしいか、かなしいか、可哀あわれなんだか、ちらちらと白露を散らして泣く、そら、とろとろと煮えるんだね。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来たのが口もあけず、咽喉のどでものを云うように、顔もじっと傾いたるまま
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)