霎時しばし)” の例文
『智恵子さんとこ被行いらしつたのか知ら!』といふ疑ひを起した。『だつて、夜だもの。』『然し。』『豈夫まさか。』といふ考へが霎時しばし胸に乱れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
待て霎時しばし、どうもうでない、そもそ乃公おれの学校の監督をしないとうものは、ない所以ゆえんがあってないとチャンと説をめて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ば見ずといへり依て確な事にあらねば證據しようこなりとは申されぬとくと考へ申上げよと言れてお金は小首を傾け霎時しばし考へゐたりしが漸々やう/\にしてかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ここでの別荘の怪談を残らず打明うちあけると、主人あるじもおどろいて面色いろを変えて、霎時しばしことばもなかったが、やがて大息ついて
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
聴水は虚々うかうかと、わがへ帰ることも忘れて、次第にふもとかたへ来りつ、ある切株に腰うちかけて、霎時しばし月を眺めしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
『それはおまへおなじことだ』と帽子屋ばうしやひました、これで談話はなしはぱつたりんで、連中れんぢゆう霎時しばしだまつてすわつてました、其間そのあひだあいちやんは嘴太鴉はしぶとがらす
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
霎時しばしありて、姫は詞の過ぎたるを悔み給ひしにや、面に紅を潮して我手を取り、アントニオとても我心の平和を破り、我にえうなき物思せさせんとにはあらざるべしと宣給ふ。
かく二七あやしき所に入らせ給ふぞいとかしこまりたる事。是敷きて奉らんとて、二八円座わらふだきたなげなるを二九清めてまゐらす。三〇霎時しばしむるほどは何かいとふべき。なあわただしくせそとてやすらひぬ。
健は待つてましたと言はぬ許りに急にむづかしい顏をして、霎時しばし、昵と校長の揉手をしてゐるその手を見てゐた。そして言つた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
殺さば殺さるゝ其條目はのがれ難し如何はせんと計りにて霎時しばし思案しあんくれたるがやう/\思ひつくことありてや一個ひとり點頭うなづき有司いうしに命じ庄兵衞の母おかつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
げにも由緒ありげな宝物ほうもつである。忠一も霎時しばしは飽かず眺めていたが、やがて手に取って打返うちかえして見ると、兜の吹返ふきがえしの裏には、「飛騨判官藤原朝高ひだのほうがんふじわらのともたか
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
灸所きゅうしょの痛手に金眸は、一声おうと叫びつつ、あえなくむくろは倒れしが。これに心の張り弓も、一度に弛みて両犬は、左右にどう俯伏ひれふして、霎時しばしは起きも得ざりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
健は待つてましたと言はぬ許りに急に難しい顔をして、霎時しばしじつと校長の揉手もみでをしてゐるその手を見てゐた。そして言つた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
穴の底は再びもとの闇にかえった。遠い地の下を行く水の音が聞えるばかりで、霎時しばしは太古の如くにしずかであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黄金丸はまづうやうやしく礼を施し、さて病の由を申聞もうしきこえて、薬を賜はらんといふに、彼の翁心得て、まづそのきずを打見やり、霎時しばしねぶりて後、何やらん薬をすりつけて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
御縁ごえんに致して願ひまするは此お縁側えんがは霎時しばしの中おかしなされて下さらば酒器さゝへひらきてはら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
町には矢張やはり樺火かばびが盛んに燃えてゐた。彼は裏口から廻つて霎時しばしお利代と話した。そして石炭酸臭い一封の手紙を渡された。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おのれ化物、再び姿を現わさば真二つと、刀の柄に手をかけて霎時しばしの間、くらき水中を睨み詰めていたが、ただ渦巻落つる水の音のみで、その後は更に音の沙汰もない。
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
湿つた土に擦れる下駄の音が、取留めもなくもつれて、疲れた頭脳が直ぐ朦々もやもやとなる。霎時しばしは皆無言で足を運んだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
成程なるほど……。」と、巡査は又首肯うなずいたが、市郎と冬子はだ腑に落ちぬらしく、霎時しばしは黙って考えていた。広間の方には坊さんでも来たのか、かねを叩く音が低く聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しめつた土にれる下駄の、音が取留めもなくもつれて、疲れた頭が直ぐ朦々もう/\となる。霎時しばしは皆無言で足を運んだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何やら探す樣な氣勢けはひがしてゐたが、がちやりと銅貨の相觸れる響。——霎時しばしの間何の物音もしない、と老女の枕元の障子が靜かに開いて、やつれたお利代が顏を出した。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
清子と靜子は、霎時しばしは二人が立留つてゐるのも氣附かぬ如くであつた。清子は初めから物思はし氣に俯向いて、そして、物も言はず、出來るだけ足を遲くしようとする。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
較々やゝ霎時しばしして、自分は徐ろに其一片の公孫樹の葉を、水の上から摘み上げた。そして、一滴ひとつ二滴ふたつしろがねの雫を口の中に滴らした。そして、いと丁寧に塵なき井桁のはしに載せた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
較々やや霎時しばしして、自分はおもむろに其一片ひとひらの公孫樹の葉を、水の上から摘み上げた。そして、一滴ひとつ二滴ふたつしろがねの雫を口の中にらした。そして、いと丁寧に塵なき井桁の端に載せた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
長野の真赤にした大きい顔が、霎時しばし渠の眼を去らないで、悠然ゆつたりとした笑を続けさせて居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『ハア。』と聞えぬ程低く云つたが、霎時しばしして又、『二面の方ですか、三面の方ですか?』
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)