むづ)” の例文
夫に死なれために、険しいさびしい性格になつて常に家庭の悲劇を起した母も死んだ。むづかしい母親の犠牲になつた兄も死んだ。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
生命や感覺があるやうになかば考へながら、私がこの小さな玩具を、どんな馬鹿げた眞實で、溺愛できあいしてゐたかを、今思ひ出すことはむづかしい。
彼等かれらかほはにこ/\としたりまたしばらくどつぺをつかまぬものはむづかしくなつたしがめたりくちをむぐ/\とうごかしたりして自分じぶんは一かうそれをらないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
う言つて拜んだの、……神樣に何を頼んだんだい。……何かむづかしいことを持ち込んだのかい。……う言つて拜んだのか、モ一度大きな聲でやつて御覽ごらん。……』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それが、少しむづかしい問題であると、藤野さんは手を擧げながら、若くは手を擧げずに、屹度後ろを向いて私の方を見る。私は、其眼に滿干さしひきする微かな波をも見遁みのがす事はなかつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いくら注意ちういはらつても、却々なか/\我々われ/\に——其遺物そのゐぶつの一破片はへんでも——れることむづかしからうとかんがへてたのが、う、容易ようゐ發見はつけんせられてると、おほいに趣味しゆみかんぜずんばあらずである。
縁續えんつゞきのものだけに、益々ます/\つてぢられてはむづかしい。……なにしろ此處こゝとほしてはらぬで。わし下室したつてつてよう。が、つむじまがりぢや、つてあがつてぬともかぎらぬ。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
塵の世のわづらひよりのがれ、理路のむづかしきを辿らで、のびやかなるこころは
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
若くはあらゆるむづかしいものは皆僕へ來てほどけるやうになる
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
うせ随筆である。そんなにむづかしく考へない方がい。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「八、これからがむづかしいぜ」
これはむづかしい仕事しごとだなあ
念佛衆ねんぶつしううちにはえらばれて法願ほふぐわんばれて二人ふたりばかりのぢいさんが、むづかしくもない萬事ばんじ世話せわをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「太政官、あの年になつて女子をなご知らんのやてなア。何んぼえらさうにしてもあかんわい。人間に生れて來た甲斐があろまい。」と、材木屋の二男常吉はむづかしい顏をして言つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「第一日目の仕事が、思つたよりもむづかしいと思ひましたか?」と彼は訊ねた。
卯平うへいきつけたかみ煙脂やにみた煙管きせるをぢう/\とらしながらむづかしいかほしばらけなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
白衣はくえはかま股立もゝだちを取つて、五しきたすきを掛け、白鉢卷に身を固めて、薙刀なぎなたを打ち振りつゝ、をどり露拂つゆはらひをつとめるのは、小池に取つてむづかしいわざでもなく、二三日の稽古けいこで十分であつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)