隅田すみだ)” の例文
数多たくさん抱えているじょちゅう達は、それぞれ旦那衆だんなしゅうのおともをして屋根船に乗り込んで、隅田すみだの花見に往っているので家の中はひっそりしていた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其時ふとこいつあ千住の方にいるんじゃないかと思ったんで、変電所へ踏込む積りで、橋のたもとを右へ、隅田すみだ駅への抜道をとりました。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いとはず出歩行であるくのみかむすめくまにも衣類いるゐの流行物櫛笄くしかうがひ贅澤ぜいたくづくめに着餝きかざらせ上野うへの淺草あさくさ隅田すみだはな兩國川りやうこくがは夕涼ゆふすゞみ或は芝居しばゐかはと上なきおごり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
隅田すみだの川は足もとにきらめく月光をあびながら、その川の上へぬっと枝葉を突き出している大川名代の首尾の松までがくっきりとひと目でした。
其身そのみが世の名利みやうりかゝはらねばなり、此日このひるものみなうれしく、人のわざ有難ありがたおもひしは、朝の心の快濶くわいくわつなりしうつりか、その飛々とび/\ひとり隅田すみだ春光しゆんくわう今日けふあたらし。
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
駕籠は思川のたもとでおりた。橋を渡って少しゆくと、手紙にしるしてあったとおり、右側の隅田すみだ川に沿ってその茶屋があり、門柱に「川西」と書いた行燈が出ていた。
屏風はたたまれた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なあに漕法さえしっかり出来上ってればかじはその日に誰れかを頼んだって間に合わぬこともない。これが高等学校以来もう六年も隅田すみだ川で漕いで来た窪田のはらであった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
この仲のよくない爺婆の石像は、明治時代になって、しばらくどこへ行ったか行く方不明になっていましたが、後に隅田すみだ川東の牛島うしじま弘福寺こうふくじへ引っ越していることが分りました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
隅田すみだ川の濁流だくりゅう、ポンポン蒸汽、伝馬船てんません、モオタアボオト等に囲まれ、せせこましい練習をしていた、ぼく達にとって、文字どおり、ドリイミング・コオスといった感じです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それから三十分ほどのち、女中ののった自動車は、白鬚しらひげ橋をわたって、隅田すみだ公園のやみのなかに止まりました。女中はそこでおりて、まっ暗な立木のあいだへ、はいっていきます。
灰色の巨人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこは鉄道馬車に乗って三時間もかかって行く隅田すみだ川のほとりで一町内すっかり芸者屋で、芸者の子になるとおいしい物が食べられて、奇麗な着物は着たいほうだい、踊りを踊ったり
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
人の往来ゆききも繁く人家も多くなっているが、その時分は隅田川すみだがわ沿いの寺島てらじま隅田すみだの村〻でさえさほどににぎやかではなくて、長閑のどかな別荘地的の光景を存していたのだから、まして中川沿い
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
桃色大輪の吉野桜、それが千本となく万本となく、隅田すみだどて、上野の丘に白雲のように咲き満ちています。花見ごろもに赤手拭てぬぐい、幾千という江戸の男女が毎日花見に明かし暮らします。酒を飲む者。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつて亀戸かめどもり隅田すみだきしに、また朝鮮てうせん台湾たいわん満州まんしう
おぼろとは今日の隅田すみだの月のこと
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
つれなされ上野うへの成共なりとも隅田すみだ成ともお心任せの方へ至り終日お遊び爲されませ和吉も今年ことしは十四なれば貴君あなたのおともには恰好かくかううれしき餘り忠義の忠兵衞己れ一にん饒舌廻しやべりまはし其座を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
川のこっちは浅草もはずれの橋場通り、向こうは寺島、隅田すみだとつづく閑静も閑静なひなさとです。
いわば月並つきなみの衣類なり所持品です。それがうまくこうを奏して隅田すみだ氏の妹と間違えられたのです。顔面のもろくだけたのは、神も夫人の心根こころねあわれみ給いてのことでしょう。僕は復讐を誓いました。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるときは、隅田すみだ川の乗りあい船のかたすみに、うずくまっていたこともあります。またあるときは、後楽園こうらくえん野球場のスコア・ボールドの上に、ほおづえをついて、ねそべっていたこともあります。
宇宙怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
学問所へゆくつもりで邸を出て、そのまま隅田すみだ川の河畔で茫然と時を過したり、本所とか深川あたりを目的もなく歩きまわったり、また猿若町の芝居小屋の片隅で、じっともの思いにふけったりした。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
じつに、この横堀こそは、秋の隅田すみだに名物のあの土左衛門舟がともをとめるもやい堀なのです。
ヘイ水揚ものも御座りましたが夫も大略あらかた結了かたづいて少のひまを得ましたより參りしわけも外ならず時も彌生やよひの好時節上野隅田すみだの花も咲出さきいで何處も彼所もにぎはふゆゑ貧富ひんぷを問ず己が隨意まゝ割籠わりごを造り酒器さゝへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)